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三十年後の世界(さんじゅうねんごのせかい)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-24 16:23:18  点击:  切换到繁體中文


   光る円筒えんとう


 カンノ博士とスミレ女史は、集録してきた水棲魚人のことばと脳波の分析研究のため、艇内の実験室に引きこもった。
 複雑な装置を働かせ、めんどうな分析をつづけていった結果ついに博士たちは、予定していた以上の収穫を得た。
 ちょうど、正吉が、その部屋へはいったときは、輝かしい結果が出たぐあとだったので、カンノ博士とスミレ女史は、疲れ切った顔に、興奮の色を浮かべながら、正吉にこの研究の成功を話した。
「水棲魚人のことばが、分ったんだ。水棲魚人の脳の働きも分った。やっぱり、水棲魚人は、普通の魚ではなく、高等生物だということが分った。おそらくこの水棲魚人こそ『火星人』の正体であろう。つまり、火星では、あの水棲魚人が一番高級な生物だということになる」
「じゃあ、あの怪魚は、地球でいうと、人類の位置を占めているわけですね」
「そうだ。そしてあの水棲魚人は、やがて水中から陸上へはいあがり、陸で暮らすようになるんだと思う。それから、空を飛ぶことも上手になるんではないかと思う。なにしろ火星は重力が小さいから、飛ぶということはわりあい楽にできるんだ。とにかく進化論の筆法ひっぽうでもって、これから水棲魚人が進化発達した姿を想像すると、われわれ人間に似た身体につばさを生やしたようなものになるのではないかと思う」
「おもしろいですね。それは、今から何年のちのことでしょうか」
「さあ、どのくらいあとのことか。早くて二十万年かな、いやもっとだ。三十万年もかかるかもしれない」
「すると、ずいぶん先のことですね。しかし火星に地球人類がどしどし来て、文化を移していくことでしょうから、水棲魚人も、早くかしこくなるでしょうね」
「まあ、そうだろうね」
「でも、地球人類は、常に火星魚人よりかしこいのだから、火星や火星人は、結局わが地球や地球人類の保護をうけて行くことになるんでしょうね」
「それもそうだと思うね。地球人類は火星を植民地とすることだろう。そしてどんどん地球文化を植えつけて、火星の文化水準をできるだけ向上させる必要があるね。火星や火星の生物たちは、地球と地球人類のおかげで、たいへんとくをするわけだ」
「火星には、地球人類よりもえらい生物がすんでいるといううわさがあったので、胸をどきどきさせて火星へ着陸したんですが、もうこのようなことが分ってみると、ぼくたちは不安からのがれたけれど、気がゆるんでしまって、すこしがっかりしましたね」
「ははは、お気の毒さまだったね。それはそれとして、私たちは、火星魚人と話が出来る機械を急いで設計し、それをつくりあげて役に立てたいと思う」
「えッ、火星魚人と話のできる機械ですって。それはすばらしいなあ。いつになったら、それは出来上りますか」
「早くても一週間はかかるだろうね」
「もっと早く出来るといいんだがなあ、ぼくも手伝わせて下さい」
「よしよし。手伝ってもらいましょう」
 正吉にはあと一週間が待どおしくて、仕方がなかった。
 ところが、その一週間がたたないうちに、思いがけないことが起った。
 というのは、それから四日目の夜のこと、大空に何とも知れず大怪音がひびきわたった。ごうごうというあらしに似てもっとすごいひびきだった。空気はひどく震動し、やがては地ひびきまで起った。
 マルモ探検隊員の多くは起き出して、戸外こがいを見た。その怪音の正体は、目に見えた。それは空から落ちてくる「光る円筒」であった。それは天空から無数に落ちて来て、今マルモ探検隊が宿営しゅくえいしているとことから二キロばかりはなれた地点に落下した。おどろいたことには、その「光る円筒」は地面の上に、規則正しい角度でずぶりずぶりと突きささり、そして見る見るうちに、竹でこしらえた垣のような形となった。
「なんだろう、あれは……」
「ふしぎな。宇宙艇でもないし、いったいなんだろう」
 そういっているうちに、あとから落ちてくる「光る円筒」は垣みたいなものの一段上に規則正しく並びだした。さらにまたその上に積みあげられたようになっていって、やがて「光る円筒」でもって、巨大な塔が出来た。すばらしい建築だ。あのすばらしい力を、だれが支配しているのであろう。とても、われわれには出来そうもないことだ。カンノ博士もスミレ女史もすっかり青ざめて、無言で「光る円筒」のはなれわざをじっと見つめている。


   ぼう然自失ぜんじしつ


 カンノ博士の顔色が変わった。
 スミレ女史も、息をつめて光る怪塔の方へ、大きな両眼をくぎづけにしている。
 探検隊長のマルモ・ケンだけは、さすがに探検の場かずをふんでにやにや笑いながら怪塔を見まもっている。
「隊長。私は夢を見ているんではないでしょうね」
 マルモ・ケンのところへ、よろよろとよろけて走ったのはカコ技師だった。
「夢じゃないよ。カコ君、しっかり目を開いて、よく見ておくんだな」
「隊長。いったい、あれはなんですか。何事があそこで起りつつあるんですか」
 カコ技師は、かん高い声を隊長にぶっつける。
「わしには分らない。わしよりも、君の方が専門じゃないか」
「なんとおっしゃいます」
宇宙弾うちゅうだん――といったようなものではないかね。とにかく、この火星の外から飛んで来たものにちがいない」
「宇宙弾といいますと、どんなものですか」
「おいおい、わしに聞くのはだめだよ。それよりも君の専門の眼でもって。あれをよく観察した上で、早くわしに報告してもらいたいな」
 宇宙弾の説明を、マルモ隊長は、それ以上しないで、笑いにまぎらせた。カコ技師は、ようやく気がおちついてくるのをおぼえた。
(そうだ。技術者たるものが、こんな場合にあわてるのははずかしい。よろしい。あれはなんだか正体を見やぶってやろう)
 彼は、双眼鏡そうがんきょうをとりあげ、光る怪塔へぴったりとつけた。
 正吉とキンちゃんが、肩をならべて、光る怪塔をぽかんとながめている。
「あれあれ、すごいぞ、また一段高くなった」
「カン詰の塔みたいだよ。あの中に、なにがはいっているのかしらん」
 光の塔は、だんだん高くなる。次々に円柱えんちゅうのようなものが落下して来て、すでにつみあげられた塔の上につきたち、塔をだんだん高くしていくのであった。
 正吉には、塔がだんだん上へのびあがっていくのがふしぎで、おもしろかったし、キンちゃんは、あの円筒の中に何がはいっているのか気になった。
「いよいよ、これは奇怪至極きかいしごくじゃ」
 二人のうしろで、老人の声がした。正吉がふりかえってみると伯父のモウリ博士であった。正吉は、いいときに伯父がそばに来てくれたので、よろこんだ。
「おじさん。あのすばらしい塔は、なんですか。何を火星人がこしらえているんですか」
 正吉は、知りたいことをモウリ博士にたずねた。
 すると博士は、首をちょっとかしげて、
「火星人といえば、例の水棲魚人のことだ。あれが火星で一番かしこい生物だという話だから、そうなると、水棲魚人の力で、あんなりっぱな塔が建つとは思われないね」
「じゃあ、あれを建てているのは何者ですか」
「さあ、それが分かれば、みんな分かるんだが、何者の仕業か見当がつかない。しかし人間業にんげんわざとは思われないね」
「それでは、だれなんでしょうか。火星人でもなく、人間でもないとすると、いったい何者ですか」
「そばへ行って、よく調べてみないと、はっきりしたことは分からないが、ひょっとすると他の星から飛んできた生物の群れかもしれないね」
「ええっ、他の星から飛んできた生物ですって。そんな生物がいるんですか」
「いないと断言だんげんはできない。現にわしは月世界の生物を発見しとる。火星の生物は、水棲魚人という幼稚な生物にしても、他の星には、もっと高等な生物がすんでいて、それが火星へ飛来ひらいしたのかもしれないね」
「地球と火星のほかに、生物のすめる星があるんですか。あれば金星ぐらいのもので、土星だの水星だの、海王星や天王星や冥王星めいおうせいなんか、生物がすんでいない星だということを、本で読んだことがありますねえ」
「わしが、さっき考えたのは、そういうわが太陽系の遊星に住んでいる生物のことではないのだ。もっと遠いところに住んでいる生物じゃないかと思うんだ。知ってのとおり、この大宇宙にはわが太陽と同じようなものが何億もあって、そのまわりには、わが地球や火星と同じような遊星がぐるぐるまわっているのが、ずいぶんたくさんあると推定されている。その中には、生物が住んでいる星がもちろんあるはずだ。そしてその生物が人間のようにかしこいものもあればまた人間以上にかしこいのもあろう。そういうかしこい生物は、人間が想像することのできないほど大仕掛じかけの仕事をやってのけるだろう、と思うね」
「あっ、そうか。するとおじさんは、あの光る怪塔をこしらえているのは、わが太陽系以外の星に住んでいて、人間よりもずっとかしこい生物だというんですね」
「いや、わしはまだそこまで、はっきり断定だんていしてないよ。とにかく、もっとそばへいって、よく調べた上でないと、なんともいえないが、そういうことも、頭の片すみにおぼえておくといいね」
「えらいことになったぞ」
 と、キンちゃんが、目をまるくして、ため息をついた。

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