您现在的位置: 贯通日本 >> 作家 >> 海野 十三 >> 正文

崩れる鬼影(くずれるおにかげ)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-24 15:59:02  点击:  切换到繁體中文


   あやしい白毛しらげ(?)


 私はそのときに、「崩れる鬼影」という謎のような言葉を思い出しました。
 ああいう非常時に、人間というものは、驚きのなかにも案外たいへんうまい形容の言葉を言うものです。「鬼影」というも「崩れる」というも、決して出鱈目でたらめの言葉ではありますまい。ことにの老婦人も兄も、全く同じ「崩れる鬼影」という言葉を叫んだのですから、いよいよもって出鱈目ではありますまい。
 影というからには、どこかに映ったものでありましょう。あのときは――そうです、満月まんげつ皎々こうこうと照っていました。今はもう屋根の向うにかたむきかけたようです。月光に照らされたものには影が出来るはずです。影というのは、その影ではないでしょうか。あの場合、満月の作る影と考えることは、きわめて自然な考えだと思いました。すると――
(あの満月に照らされて出来た影なのだ。それはどこへうつったか?)
 私は首をふって、改めて室内を見まわしてみましたが、
(ああ、この窓に鬼影が映ったのだッ)
 と思わず叫び声をたてました。そうだ、そうだ。兄はこの部屋に入る前までは「鬼影」などと口にしなかったではないですか。これはこの室に入って始めて鬼影を見たとすれば合うではありませんか。しかもこの室の、この窓硝子の上に……
 私はツカツカと窓硝子のそばによりました。そして改めて丸く壊れた窓硝子をはしの方から仔細しさいに調べて見ました。破壊したそのふちは、ザラザラに切りいだような歯をいていました。私はそこにあったスタンドを取上げてどんな細かいことも見遁みのがすまいと、眼を皿のようにして観察してゆきました。
 しかし別に手懸てがかりになるようなものも見えません。台をして上の方もよく見ました。だんだんと反対の側を下の方へ見て行きましたが、
「オヤ」
 と思わず私は叫びました。
「これは何だろう?」
 硝子のいだようなふちに、白い毛のようなものが二三本引懸ひっかかっているではありませんか。ぼんやりして居れば見遁みのがしてしまうほどの細いものです。余り何も得るところがなかったので、それでこんな小さなものに気がついたわけでした。
 これをし見落していたならば、この怪事件の真相は、或いはいまだに解けていなかったかも知れません。それはのちの話です。
 私はハンカチーフを出して、その白い毛のようなものを硝子の縁から取りはなしました。そしてそのままたたんで、ポケットに仕舞いこんだのでした。
 丁度ちょうどそのときです。
 戸外こがいに、やかましいサイレンの音が鳴り出しました。
 ブーウ、ウ、ウ。ブーウ、ウ、ウ。
 まるで怪獣のようなうなり声です。
 破れた窓から外に首を出してみますと、どうでしょう、はるか下の街道かいどうをこっちへ突進して来る自動車のヘッドライトがイ、ウ、イ、ときどきパッとまぶしい眼玉をこっちへ向けます。いよいよ警察隊がやって来たのです。頭からポッポッと湯気ゆげを出して怒っている警官の顔が見えるようでした。
 ふりかえってみると、兄は依然として絨氈じゅうたんの上に長くなったまま、苦しそうな呼吸をしていました。
 私は階段をトントンと下って、老婦人のへやドアたたきました。
「おばさん。いよいよ警官が来ましたよ。もう大丈夫ですよ」
 そう云いながら、私は扉を開いて室内へ一歩踏み入れました。
「や、や、やッ――」
 私の心臓はパッタリ停ったように感じました。私は一体そこで、何を見たでしょうか?


   妖怪屋敷ようかいやしき


 この室のドアを開くまでは、私は老婦人ひとりが、静かに寝台ベッドの上にねむっていることと思っていました。ところがどうでしょう。いま扉を押して見ておどろきました。なんでもそのときの気配けはいでは、婦人の外に十人近くの人間がウヨウヨとうごめいているのを直感しました。
「オヤッ」
 一体この大勢の人間は何処から入ってきたのでしょう? ここの主人の谷村博士とこの老婦人以外には、せいぜい一人二人のお手伝いさんぐらいしか居ないだろうと思った屋敷に、いつの間にか十人近くの人間が現れたのです。しかも大して広くもないの婦人の室に、ウヨウヨと集っていたのですから、私はきもつぶしてしまいました。
 ですけれど、私の駭きはそれだけでお仕舞しまいにはなりませんでした。おお、何というおそろしいの場の光景でしょうか。その十人近くの人間と見えたのは、実は人聞だかどうだか解りかねる奇怪きかいなる生物いきものでした。そうです。生物には違いないと思います、こうウヨウヨと蠢いているのですから。
 彼等は変な服装なりをしていました。時代のついた古い洋服――それもフロックがあるかと思えば背広があり、そうかと思うと中年の婦人のつけるスカートをモーニングの下にいています。しかしそのチグハグな服装はまだいいとして、この人達の顔が一向にハッキリしないのは変です。
 私は眼をパチパチとしばたたいて幾度も見直しました。ああ、これは一体どうしたというのでしょう。彼等の顔のハッキリしないのも道理どうりです。まったくは、顔というものが無いのです。頭のない生物です。頭のない生物が、まるで檻の中にひしめきあう大蜥蜴おおとかげむれのように押し合いへし合いしているのです。
「ばッ、ばけもの屋敷だ!」
 私はそう叫ぶと、室内しつないに死んだようになって横たわっている老婦人を助ける元気などはたちませて、室外に飛び出しました。うわーッと怪物たちが、背後うしろからおそいかかってくる有様が見えるような気がしました。
「助けてくれーッ」
 私はもう恐ろしさのために、大事な兄のことも忘れ、一秒でも早くこの妖怪屋敷から脱出したい願いで一杯で、サッと外へ飛び出しました。
「たッ助けてくれーッ」
 ああ、まぶしい自動車のヘッド・ライトは、二百メートルも間近まぢかせまっています。警察隊が来てくれたのです。あすこへ身をげこめば助かる! 私はもう夢中で走りました。
「オイ何者かッ。停まれ、停まれ」
 私の顔面には突然サッと強い手提電灯てさげでんとうの光が浴せかけられました。おお、助かったぞ!


   怪しき博士の生活


「この小僧こぞうだナ、さっき電話をかけてきたのは」
 無蓋むがい自動車の運転台に乗っていた若い一人の警官が、ヒラリと地上に飛び降りると、私の前へツカツカと進み出てきました。
「僕です」私はもうしかられることなんか何でもないと思って返事しました。「トンチキ野郎などと大変な口をいたのもお前だろう」
「僕に違いありません。そうでも云わないと皆さん来てくれないんですもの」
「オイオイ、待て待て」そこへ横から警部みたいな立派な警官が現れました。「それはもう勘弁かんべんしてやれ」
 私はホッとして頭をペコリと下げました。
「それでナニかい。一体どう云う事件なのかネ。君が一生懸命の智慧ちえをふりしぼって僕等を呼び出した程の事件というのは……」
 警部さんには、よく私の気持が判っていてれたのです。これ位うれしいことはありません。私は元気を取戻しながら、一伍一什いちぶしじゅうを手短かに話してきかせました。
「ウフ、そんな莫迦ばかなことがあってたまるものか。この小僧はどうかしているのじゃないですか」
 例の若い警官黒田巡査は、あくまで私を疑っています。
「まアそう云うものじゃないよ、黒田君」分別ふんべつあり白木しろき警部はおだやかに制して、「なるほど突飛とっぴすぎる程の事件だが、僕はこの家を前から何遍なんべんも見て通った時毎ときごとに、なんだか変なことの起りそうなやしきじゃという気がしていたんだ」
「そうです、白木警部どの」とビールだるのように肥った赤坂巡査が横から口を出しました。「ここの主人の谷村博士は、年がら年中、天体望遠鏡にかじりついてばかりいて他のことは何にもしないために、今では足がかなくなり、室内を歩くのだってやっと出来るくらいだという話です」
可笑おかしいなア、その谷村博士とかいう人は、たしかに空中をフワフワ飛んでいましたよ」私は博士が足が不自由なのにフワフワ飛べるのがおかしいと思ったので、口を出しました。
「それは構わんじゃないか」黒田巡査が大きな声で呶鳴どなるように云いました。「足が不自由だから、簡単に飛べるような発明をしたと考えてはどうかネ」
「ほほう、君もどうやら事件のあったことを信用して来たようだネ」と警部は微笑びしょうしながら「だがかく、当面の相手は何とも説明のつけられない変な生物いきものが居るらしいことだ。そいつ等の人数は大約おおよそ十四五人は発見されたようだ。それも果して生物なのだか、それとも博士の発明していった何かのカラクリなのだか、これから当ってみないと判らない。博士の行方ゆくえが判ると一番よいのだが、とにかく様子はこの少年の話で判ったから、一つ皆で天文学者谷村博士てい捜査そうさし、一人でもよいからその訳のわからぬ生物を捕虜ほりょにするのが急務きゅうむである。判ったネ」
「判りました」「判りました」とおよそ二十人あまりの警官隊員は緊張したおもてを警部の方へ向けたのでした。彼等はいずれも防弾衣ぼうだんいをつけ、鉄冑てつかぶとをいただき、手には短銃ピストル短剣たんけん、或いは軽機関銃けいきかんじゅうを持ち、物々しい武装に身をととのえていました。これだけの隊員が一度にドッと飛びかかれば、流石さすがの妖怪たちもたちま尻尾しっぽを出してしまうことであろうと、大変たのもしく感ぜられるのでした。

上一页  [1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8] [9] [10] 下一页  尾页


 

作家录入:贯通日本语    责任编辑:贯通日本语 

  • 上一篇作家:

  • 下一篇作家:
  •  
     
     
    网友评论:(只显示最新10条。评论内容只代表网友观点,与本站立场无关!)
     

    没有任何图片作家

    广告

    广告