您现在的位置: 贯通日本 >> 作家 >> 海野 十三 >> 正文

疑問の金塊(ぎもんのきんかい)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-24 11:27:33  点击:  切换到繁體中文


「……」
 仙太だってことは、お二人より先にこっちが知っていた。先刻さっきあの悲鳴を聞いた瞬間に、「仙太め、南無阿弥陀仏なむあみだぶつ!」と口の中でとなえた程だ。
「死んでいる。……とうとう殺られたのだ。」
「全くひどい。後頭部から背中にかけて、弾丸たまちこんだナ」
「銃声は聞えなかったが……」
「どこから撃ったのだろう」
 刑事はうずくまったまま、はるか向うの辻をかしてみた。そこは水底みずそこに沈んだ廃都はいとのように、犬一匹走っていなかった。
 逃げるなら今のうちだった。しかし私は別に逃げようとはしなかった。
 刑事たちは、折角せっかく探し求めていた横浜はまギャングの一人、赤ブイの仙太が、遂に無惨むざんな死体となって発見されたので、只もう残念でたまらないという風に見えた。二人はあきらめかねたものか、なおも屍体をいじくりまわしていた。
「おやア、なんかの中に握っているぞ」
 と、突然に、折井刑事が叫んだ。
「ナニ、握っているって? よし、開けてみろ」
 山城刑事は懐中電灯をパッと差しつけた。屍体の右手は、つぼみのように固く、指を折り曲げていた。折井刑事はウンウン云いながら、それを小指の方から、一本一本外していった。
「うん、取れた。……あッ、これは……」
「なんだ、かねじゃないか!」
 の中からは一枚のピカピカ光る貨幣が出てきた。
「金だ。オヤこれは金貨だ! それも外国の金貨だ」
 金貨が出てきて、刑事達はにわかに緊張した。銀座の金塊盗難事件以来というものは、黄金おうごんを探して歩いた二人だ。その黄金製品である金貨が、屍体となった赤ブイ仙太の掌中しょうちゅうから発見されたということは、極めて深い意味があるように思われたのだった。それにしても、それが外国金貨とは何ごとだ。
「旦那方」私は立ったままで云った。「金貨が落ちていますよ。ホラ、そこと、もう一つ、こっちにも……」
「ナニ、金貨が落ちている?」
「本当だ……」
 刑事たちは、屍体から眼を放すと、地面をぐようにして、路面ろめんいまわった。同じような、三つの金貨が拾いあげられた。一つは屍体の伸ばした右手から一尺ほど前方に、もう一つは、消えている街灯の根っこに、それから最後の一つは、倉庫のようなてた建物の直ぐ傍に……。
「沢山の金貨だ。これは一体、どういうのだろうな」
「この金貨と、仙太殺害とはどんな関係があるのだろう。それからあの金塊事件とは……」
 刑事たちは、次々に出てくる疑問を、どこから解いたものかと、たいへん当惑とうわくしている風だった。
「旦那方。金貨はまだまだ出てきますぜ」
 と、私は仙太のズボンの右ポケットから、裸のままの貨幣を掴みだした。銅貨や銀貨の中にまじって、更にピカピカ光る五枚の金貨が現れた。
「おい、余計なことをするナ」と折井刑事は一寸狼狽ろうばいの色を見せて呶鳴どなったが「もう無いか、金貨は……」と、息せきこんだ。
「どれどれ」と代って山城刑事が、ポケットというポケットに手をつきこんだが、その後は金貨が出てこなかった。全部で丁度ちょうど十枚の金貨が出てきたわけだった。
「これアすくなくとも四五百円にはなる代物しろものだ」と折井刑事は目をみはって、「仙太の持ち物としては、たしかに異状いじょう有りだネ、山城君」
「もっと持っていたんではないかネ」と山城は眼をギロリと光らせた。「仙太のやつ、ここで強奪ごうだつったのじゃないか。だから金貨が道にこぼれている……」
「強奪に遭ったのなら、なぜ金貨が滾れ残っているのだ。それにわれわれが駈けつけたときにも、別に金貨を探しているような人影も見えなかった」
「そりゃ君、仙太を殺したからさ。……いいかネ。仙太は数人のギャングに取り囲まれたのだ。前にいた奴が、仙太の握っている金貨を奪おうとした。取られまいと思って格闘するうちに、手から金貨がバラバラと転がったのさ。手強てごわいと見て、背後にいた仲間が、ピストルをぶっ放したというわけだ。前にいた奴は仙太を殺すつもりはなかった。仙太のたおれたのにおどろいて、あとの金貨は放棄して、逸早いちはやく逃げだしたのだ。見つかっちゃ大変というのでネ」
「これは可笑おかしい」と折井刑事は叫んだ。「第一、格闘だといっても、その証拠がないよ。入乱いりみだれた靴の跡も無しさ。第二に、前から強迫きょうはくしているのに、背後うしろから撃ったのでは、前にいる同じ仲間のやつに、ピストルが当りゃしないかネ。僕はそんなことじゃないと思うよ」
「じゃ、どう思う?」
「僕のはこうだ。仙太のやつ、ここまで来て金貨を数えていたのだ。ここは人通もない暗いところだけれど、向うの街のあかりかすかにしているので。ピカピカしている金貨なら数えられる。そこを遥か後方うしろからけて来たやつが、ピストルをポンポンと放して……」
「ポンポンなんて聞えなかった。……もっとも俺は消音しょうおんピストルだと思っているが……」
「とにかく、遥か後方から放ったのだ。見給え、この弾痕だんこんを。弾丸たまは撃ちこんだ儘で、外へは抜けていない。背後近くで撃てば、こんな柔かいくびの辺なら、弾丸たまがつきぬけるだろう」
 刑事たちは、その筋へ警報することもしないで、勝手な議論をたたかわした。それは所轄しょかつ警察署へ急報するまでに、事件の性質をハッキリみこんで、できるならば二人でもって手柄を立てたかったのである。それは刑事たちにとって、無理もない欲望だったし、それに二人が本庁を離れ、はるばるこの横浜はまくんだりへりこんでからこっち、二人でめあった数々の辛酸しんさんが彼等を一層野心的にしていた。
 私は先程から、二人の眼を避けて、屍体の横たわっている附近を、燐寸マッチあかり便たよりに探していた。そしてようやく「ああ、これだ」と思うものを見付けたのだった。それは地面に明いた小さい穴だった。これさえあれば、仙太殺害の謎は一部解けるというものだ。
「ねえ、旦那方」と私は論争に夢中になっている刑事たちに呼びかけた。


   倉庫そうこの秘密


「ナ、なんだッ」と刑事は吃驚びっくりしたらしく、私を振り返った。
「どうですい。一つここらで手柄を立ててみる気はありませんか」
「なんだとオ。……生意気な口を利くない」
「素敵な手柄がいやならしようが無いが……」
 刑事二人は、ちょっと顔を見合わせていたが、やがてガラリと違った調子で、
「なんだか知らないが、聞こうじゃないか」
「聞いてやろうと仰有おっしゃるのですかい、はッはッはッ。……まア、それはいいとして、旦那方。私は犯人の居処いどころを知っていますよ」
「ナニ、犯人の居処? 犯人は誰だッ」
「犯人は誰だか知らない。だが犯人の居処だけは知っているのですよ……ホラ、ここに真暗なくずかかったような倉庫がありますネ。犯人はこの中に居るのですよ」
「何故だ。どうして此の中へ逃げこんだというのだ」
しゃべっていると、犯人が逃げだしますよ」
「しかしわれわれは、意味もないのに動けないよ」
「じゃ簡単に云いましょう。いま仙太のポケットから出た五枚の金貨ですがネ、あの金貨には泥がついていたのをご存知ですか」
「……」
「もう一つは、そこにびた五寸釘ごすんくぎを立てて置きましたが、路面に垂直に、小さいあないていますよ」
 刑事たちは、目をパチクリさせて地面にしゃがむと、その錆びた釘を退けて、太いはしをつっこんだ程の縦穴たてあなのぞきこんだ。
「これは?」
「ピストルの弾丸たまが入っているのですよ。今掘りだしてみましょう」
 私は釘の先で、穴をどんどん掘った。するとあんじょう下からニッケル色の弾丸たまがコロリと出て来た。
「ほほう、なるほど」刑事はおどろきの声を放った。「これは何故だ」
「いいですか、上を向いちゃ、犯人が気付きますよ。下を向いていて下さい。犯人は倉庫の二階の窓から仙太を撃ったのです」
「そりゃ変だ。仙太は背後うしろから撃たれている」
「いいえ、傷はあれでいいのです。仙太のポケットに入っていた金貨は泥がついていたでしょう。仙太の野郎は、あの金貨を皆、この路面から拾ったのです。だから泥がついているんです。金貨は、同じ倉庫の二階から犯人が投げたのです。仙太がそれを拾おうと思って、地面にわんばかりに踞んだのです。いいですか。そこを犯人は待っていたのです。丁度われわれが今こうしている此の恰好かっこうのところを、上からトントンと撃ったのですよ」
「ナニ、この恰好のところを……」
 上から撃たれたと聞いて、二人の刑事は、身の危険を感じてパッと左右に飛び退いた。
「そんなに騒いじゃ、犯人に気付かれますよ」と私は追縋おいすがって云った。
「さア早く、この建物の出口を固めるのです」
「よオし。おれは飛びこむ」
「だが、この屍体をどうする?」
 刑事がためらっているところへ、折よく、密行みっこうの警官が通りかかった。
 二人は物慣れた調子で、巡回の警官を呼ぶと、屍体の警戒やら、警察署への通報などを頼んだ。警官はいく度もうなずいていたが、刑事たちが、
「じゃ、願いますよ」
 と肩を叩くと、佩剣はいけんを握ってしのび足に元来た道へひっかえしていった。

上一页  [1] [2] [3] [4] [5] 下一页  尾页


 

作家录入:贯通日本语    责任编辑:贯通日本语 

  • 上一篇作家:

  • 下一篇作家:
  •  
     
     
    网友评论:(只显示最新10条。评论内容只代表网友观点,与本站立场无关!)
     

    没有任何图片作家

    广告

    广告