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部屋を出ようとするときだった。
ブ、ブ、ブブー。
卓子の裏に取付けたブザーが鳴った。
「ほい。XB4が呼んでいるッ」
弦吾は室内に引返した。壁をポンと開くと嵌めこんだような超短波の電話機があった。
「QX30だ」
「こっちは、XB4だ」と電話機の彼方で小さい声がした「報告があったぞ、いよいよ動員指令が下ったそうだな」
「ウン」
「ところで注意を一つ餞別にする」
「ほほう。ありがとう」
「あの間諜座ね『魚眼レンズ』のついた撮影機で、観客一同の顔つきが何時でも自由自在にとれるんだそうだ。ぬかりはあるまいが、顔色を変えたり、変にキョロキョロしちゃいかん。皆の笑うところでは笑い、皆が澄ましているときには澄ましていなくちゃいかん。いいかね」
「魚眼レンズを使っているのか? よおし、油断はしないぞ」
「義眼を入れたレビュー・ガールの名前をつきとめるんだって、誰にも尋ねちゃ駄目だぞ。敵の密偵は巧妙に化けている。立ち処に殺されちまうぞ」
「ウン、誰にもきかんで、見付けちまおう」
「見付ける方策が立っているのか」
「うんにゃ、そういうわけでもないが、プログラムを探偵すれば、何々子という名前がきっと判るよ」
「それで安心した。じゃ別れるぞ。しっかりやれ、同志QX30!」
「親切有難うよ」
魚眼レンズで観客全部の顔色を覗いているッて――ちえッ、そんなものに引懸られて堪るものかい!
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