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火薬船(かやくせん)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-24 11:20:57  点击:  切换到繁體中文



   怪しき男


 そういっているとき、部屋の扉を、とんとんとたたいた者があった。
 ポーニンとノルマンは、顔を見合わせた。
「誰だ」
 と、ノルマンが声をかけると、
「はい、私で……」
 と、はいって来たのは、事務長だった。
「なに用だ、事務長」
「なんだか、へんなやつが、船へやってきましたよ。ロロー船長がこっちに来ていないでしょうか、と、たずねているのです」
「なに、ロロー船長?」
 ロロー船長というのは、警部モロのことだった。彼のことなら、もうとくのむかしに、この世から息を引取っているのだった。船長ノルマンは、ポーニンと顔を見合わせて、意味深長しんちょうな目くばせを交わした。
「船長ロローは、上陸したが、なにか用事があって、まだ帰ってこない――と、そういえ」
「はい」
「それから、なにか用なら、聞いといてやるからと、そういってみろ」
「はい、かしこまりました」
 事務長は、出ていった。
 船長ノルマンは、ポーニンの方に、身体をすりよせ、
「ごらんなさい。さっそく警備庁の連絡係が、ロローのところへのりこんできたんですよ」
「ふん、あの一件を嗅ぎつけたんだろうか。それとも、平靖号の乗組員が、こっちを裏切って、密告したんだろうか」
「さあ、どっちですかね。ねえ、ポーニンさん、ともかくも、そのすじの奴等に雑草園をしらべられると困りますから、それを胡麻化ごまかすため、例の骨折賃ほねおりちん饗宴きょうえんを、すぐさま雑草園で始めてはどうでしょう。わいわい酒をのんでさわいでいりゃ、なにがなんだか、わかりませんよ。そのうちに夜が明ける。荷役にやくが終る。おひるごろには、このノーマ号も平靖号も、サイゴン港を、おさらばする。ちょうどだん取がうまくはこぶじゃありませんか」と、船長ノルマンは、なかなか悪智恵わるじえをはたらかす。
「ふん、それでよかろう。では、さっそく、雑草園で、大盤ふるまいをはじめよう。お前、みなにそう伝えろ。船にのこっているやつも、できるだけ、上陸させてやるがいい」
「ええ」
「どうする、その大盤ふるまい始めの命令は。お前がもう一度上陸して、伝えることにするかね」
「いや、私はここにいます。そして事務長を上陸させましょう。」
「お前は上陸しない。なぜだ」
「雑草園には、あなたや私がいない方がいいのですよ。いりゃ、またそのすじのやつなどにつかまって、こっちも、したくない返事をしなきゃならない。われわれがいないで、みなに勝手に飲ませて、大いにわいわいさわがせておけば、官憲が調べようたって、手のつけようがありませんよ」
「ふむ、なるほど。それは名案だ。じゃあ、事務長をよんで、お前から上陸命令をつたえろ」
「よろしゅうございます」
 こうして、二人の巨魁きょかいは、ノーマ号に残っていることになった。
 一方、竹見は、サイゴンの町に急ぐと、医者をたずねてまわった。
 だが、なにしろ深夜のことではあるし、竹見の風体ふうていがよくないうえに言葉がうまく通じないという有様で、医者に来てもらう交渉は、どこでも、なかなかうまくいかなかった。
(ちぇっ、ぐずぐずしてりゃ、ハルクの奴は冷くなってしまう!)
 と、竹見は、気が気でないが、相手の病院では、一向うごく気配けはいがない。でも、最後の一軒で、ようやく蛇毒じゃどくを消す塗薬ぬりぐすり小壜こびんに入れてもらうことができた。
 竹見は、それで満足したわけではなかったが、ハルクを、あまり永く放りぱなしにしておくこともできないので、ようやくにして得た塗薬の小壜を握ると、再び、倉庫へ引きかえした。
 そのころ雑草園には、荷役に従事した人夫や船員たちが押しかけ、思いがけない深夜の大盤ふるまいに、飲む食うおどる歌うの大さわぎの最中だった。
 竹見は、そのさわぎをよそにハルクのねている倉庫の中にとびおりた。
「おい、ハルク。どうだ、容態は?」といったが、竹見は、けげんなかお!
「おや、ハルクがいない。あいつ、動けるような身体じゃないのに、どうしたんだろう?」


   桟橋さんばし


 竹見は、大きな心痛のため、気が遠くなりそうだった。
「このまま放っておいては、たいへんだ。よし、どんなにしても、ハルクをさがしあてないじゃいないぞ」
 それから水夫竹見は、気が変になったようになって、重態の恩人ハルクをさがしまわった。
 倉庫裏のせまい路地を、彼は鼠のようにかけまわりもした。雑草園の饗宴のどよめきに気がついて、ふるまい酒にさわいでいる仲仕なかしや船員たちの間をかきわけて、ハルクのすがたをさがしもとめてもみた。路傍のねころがっている人をゆりうごかして、たずねてもみた。だが、一切の努力は無駄におわった。
 水夫竹見は、がっかりしてしまった。
 彼は、疲労の末、魂のぬけた人のようになって、桟橋のうえにたたずんだ。
「まさか、ハルクのやつ、この桟橋から、とびこんだんじゃあるまいな」
 そういった彼は、もう動くのもいやになるほど、疲れ果てていた。彼はいつの間にか、桟橋のうえに、ごろりとたおれていた。涼しい夜風が快い眠りをさそったのだ。
「おい、おい!」彼は、目がさめた。だれを呼んでいるのであろうと、目をみらいてみると、まぶしい懐中電灯が、彼のかおをてらしていた。彼はびっくりして、ねおきた。
「だ、誰だ!」
「なんだ、やっぱり竹じゃねえか」
「そういうお前は……」
「誰でもねえや。おれだ。丸本だ!」
「えっ、丸本、なんだ、貴様だったのか。ちえっ、おどかすない」
 丸本というのは、竹見と同じく平靖号乗組の水夫で、彼のいい相棒あいぼうの丸本秀三だった。
 丸本は、彼のかたわらにすりよって、
「こら、あんな雑草園のふるまい酒ぐらいに酔いたおれるなんて、だらしがないぞ」
「冗談いうな。おれは酔っちゃいない」
 そこで竹見は、手短てみじかに、ハルクのことをはなして、丸本にもハルクを見かけなかったかとたずねたが、丸本もやはり知らないとこたえた。竹見は、いよいよ落胆らくたんした。
「おい、ハルクのことをしんぱいするのもいいが、ちと、虎隊長のことも考えてくれ。隊長は、雑草園へもいかなんだ。がっかりしているらしいが、色にも出さないで、平船員の部屋で本をよんでいるよ。お前も何か、隊長にいって、元気をつけてあげてくれ」
 いわれて竹見は、気がついた。
「おお、そうか。虎船長は、いまは平靖号の船長ではなくなって、さぞさびしいことだろう。おれは、ひょっとすると、ハルクが、平靖号へにげこんでやしないかとも思っていたところだから、これから一緒に平靖号へ帰ろうじゃないか」
「うん。帰るというのなら、ちょうどいま、ランチが一せき、あいているんだ。おれは、それにのって帰ろうと思っていたところだ。じゃあ、ちょうどいい」
 丸本は、竹見をうながして、桟橋のうえを、ランチの方へと歩いていった。
 二人が、ランチのひもをといているところへ、また一人、飛ぶようにけつけてきた者があった。
「おーい、そのランチ、待て」
「だ、誰だ」
「おれだ」
 飛びこんできたのは、これも平靖号乗組の一等運転士の坂谷だった。
「おや。一等運転士。どうなすったので」
「うん、雑草園でぐいぐいと酒をあおっていたんだが、妙に船が気になってなあ。それでぬけて来たんだ」
「えっ、そうですか。妙に船が気になるなんて、どうしたというわけです」
「どうもわからん。こんな妙な気持になったことは、初めてだ」
「ははああ、虎船長のことが、やっぱり心配になるんでしょう」
「いや、船長のことは心配しなくともいいんだが、船のことが、いやに気になってねえ。ともかくも、早くランチをやれ」
「へえ、合点がってんです。おい、竹見、考えこんでないで、手つだえよ」
「なんだ竹もいるのかね」
「へい、一等運転士。そういえば、わしもなんだか船のことが気がかりなので……」
「よせやい、竹。お前の心配しているのは、ハルクのことじゃないか。いやに調子を合せるない」
「うん、ところが、おれも急に今、船のことが気がかりになってきたんだ。どうもへんだねえ」
「ふん、何をいい出すか……」
 そこでランチは、沖合おきあいに信号灯の見えている平靖号さして、波をけ立てて進んでいった。


   血染ちぞめの手紙


 ランチは、平靖号の舷側げんそくについた。
「いやに静かだねえ」
「そうでしょうとも。虎船長のほかに、だれもいないんですよ」
「まさかネ」
 三人は、するすると縄梯なわばしごのぼって、甲板かんぱんへ――。
「隊長! 虎隊長!」
 一等運転士は、気になるものと見え、虎隊長のところへ、とんでいった。
 隊長は、平船員のベッドにもぐりこんで、暗い灯火の下で、本を読んでいたが、とつぜん帰ってきた三人の顔を見て、たいへんよろこんだ。
「隊長、るす中なにかかわったことはありませんでしたかねえ」
 と、一等運転手は、わざと何気なにげなきていで、それを尋ねた。
「船のことかね、それとも、わしのことかね。どっちも大丈夫さ。心配するなよ」
 と、破顔大笑はがんたいしょうしたが、途中で、急に改まった調子になり、
「――そういえば、思い出した。さっき、丁度ちょうどこの真上の甲板あたりで、がたんと、大きな音がしたんだ。なにか、物をなげつけたような音だった。行ってみようと思ったが、生憎あいにくそばにはだれもいないし、そのままにしておいた。あれは何の音だったか、だれかいって、見てくるがいい」
「はあ、この真上の上甲板あたりでしたか。その音のしたのは?」
 一等運転士の坂谷と、水夫竹見とが、一緒にそこをとびだした。
 かけあがった二人は、甲板のうえを探しあるいた。
「あっ、これだ!」
 一等運転士が叫んだ。
 竹見が、かけつけてみると、一等運転士は、一挺いっちょう水兵ジャックナイフをにぎっていた。
「おや、血が……」
 竹見の心臓が、どきんと大きく波うった。
「あっ、それはハルクの持っていた水兵ナイフだ!」
「えっ?」
 ハルクの持っていた水兵ナイフが、なぜこんなところにあるのだろうか。そのナイフこそは、ハルクが自ら右脚をきりおとしたナイフだった。
「おい、なにか手紙みたいなものが、えにまいてあったぞ」
「手紙?」
 一等運転士の手には、手帳の一頁をひき裂いたものが、にぎられていたが、それも血にそまっていた。
「なに、ほう、これは竹見、お前あての手紙だ」
「なんですって、何と書いてあるんですか」
 竹見には、英語がよくよめない。手紙は、英文だった。
「こういうんだ“親愛ナル竹ヨ。俺ハ復讐ヲスルンダ。コノ手紙ヲ見タラ、オ前ノ船ハスグニ抜錨ばつびょうシテ、港外へ出ロ。ハルク”どういう意味だろうか、この手紙は」
「えっ、復讐! 復讐は、わかるが、お前の船は、すぐにいかりをあげて、港外にでろというのがわからない」
「ふむ、お前に喧嘩を売るんだったら、親愛なる竹よは、へんだね」
「あっ、そうだ!」
 と、竹見は、とつぜんはじかれたように、とびあがった。
「一等運転士、すぐに抜錨を命じてください。でないと、この船は沈没しますぞ」
「なぜだ、とつぜん何をいう。なぜ、そんなことを」
「さあ、すぐ抜錨しないと危険です。一秒を争います。さあ、命令を……」
「おお、この事かなあ、さっきからの、わしのむなさわぎは!」
 一等運転士は、やっと、自分のむなさわぎに関係をつけ、すぐさま船長のところへ、おどりこんだ。
「大至急、抜錨。総員、部署につけ!」
「な、なんだって!」
 総員といっても、集まってきたのは、たった七人だった。七人で、抜錨ができるか。でも、大至急、それをやる命令が、一等運転士によって発せられた。
 虎船長は、かつがれて、船橋へ。すべて非常時のかまえだった。
 汽缶きかんには、すぐさま石炭が放りこまれた。間もなく蒸気は、ぐんぐん威力をあげていった。
「避難演習かね、これは」
「だまって、はやくやれ! 本物なんだぞ」
「気はたしかかね」
「お前、死にたくないのなら、黙って、命ぜられたとおりやれ!」
 水夫竹見は、ハルクを信じていた。だから、この大切な平靖号を、一秒も早く港外にうつさないと、取りかえしのつかぬことが起ることを信じていたのだ。その一大事が、どんな形で現われるか、そんなことを考えているひまは、今の彼にはなかった。瀕死のハルクが、平靖号の甲板へ、血染めの水兵ナイフをなげこんでいったというそのことが、いかに驚異的であるか、それが分れば、まっしぐらにハルクの忠言に従うよりほかなかったのであった。


   大椿事だいちんじ


 信仰のあつき一等運転士坂谷も、これまた、出来事の真相は、よくのみこめないが、霊感にもとづいて、死力をつくして出航を急いだ。
 エンジンは、ようやくうごき出した。しかしいかりは、なかなかひき上げられなかった。これには、一等運転士はよわってしまったが、
「早くやるんだ。じゃあ、錨は、そのままにしておいて、船を出せ。全速力! 全速力でやるんだ」
「全速といっても、錨が……」
「かまうことはない、錨索びょうさくはフリーにしておいて、船を走らせるんだ」
 船は、うごきだした。だから、錨索は、がらがらと船内からくり出していった。
「全速まで、早くあげろ。錨索を切ってしまえ」
 そんな無茶な命令を、聞いたことがない。
「よし、おれがやろう!」
 竹見は、大きなハンマーをかついで、甲板へとびだした。彼は、力一杯、走る錨索の上を、がーんと、どやしつけた。しかしそんなことで錨索は切れない。
 そのうちに、とうとう錨索は、ぴーんと張ってしまった。船はエンジンをかけているが、錨のために、もはやすこしも前進しなくなったのだ。
「だめです。一等運転士。錨が上らなきゃ、もうどうしてもうごきません」
「もっと石炭を放りこめ、蒸気が、まだ十分あがっていないじゃないか」
「だめです。そんなに早くは…………」
「石炭! 送風機! バルブ全開! 錨を切っちまにゃ……」
 ガーン。ガーン。
 竹見の傍に、丸本もやってきて、どっちも重いハンマーをふりかぶって、錨索のうえに打ちおろす。錨索は、繰り返えされる衝撃のため、だんだん熱してきた。
 ガーン。
 がらがらがら、どぼーン。
「ああ、切れた!」
 つよく錨索が引張られていたところへ、二人のハンマーが調子よく当ったので、錨索は、とうとう見事に切断して、水中へとびこんでしまった。
「おお、切れた! 全速」
 平靖号は、つるを切って放たれた矢のように、水面を滑りだした。
「おお」
 虎隊長は、朱盆しゅぼんのようなかおをして、自ら舵器だきを握っている。船は飛ぶ。
 平靖号が走りだしてから、それはしょう二分ののちのことであった。天地も崩れるような大音響が、それに瞬間先んじて一大火光とともに、平靖号をおそった。
「ああッ!」
「うむ、爆発だ!」
 ひゅーと、はげしい風の音とともに、平靖号の真上を、なにものかが走り過ぎた。つづいて、ばらばらがらがらと、さかんに物が横なぐりに、甲板へとんでくる。竹見と丸本の両水夫は、甲板にうつぶせになって生きた心地ここちはない。
 爆音、また大爆音!
 だが、平靖号は、さいわいにして、さしたる損傷もうけなかった。その大爆音は、はるかにサイゴン港内において頻発しているのであった。そのものすごい火の海を、なんといって形容したらいいのであろうか、また天地のくずれ落ちるような大爆音を、なんといって言い現わしたらいいであろうか。爆発はまた新たなる爆発を生んで、いつ果つべしとも分らない。
 火災だ! サイゴンの街に火がうつってもえだした。
「ああ、ハルクの復讐だ! 彼奴きゃつは、ノーマ号のつんでいた火薬に火をつけたのだ! それにちがいない!」
 水夫竹見は、しばらくして甲板からかおをあげ、炎々たる港内の火をきっと見つめながら、うめくようにいった。
 全くおそろしい出来事だった。これで、もう二分間おそければ、平靖号も、そばづえをくらって、船体はばらばらに壊れてしまい、虎船長以下、竹見も丸本も、今ごろはしかばねになっていたかもしれない。
 ノーマ号は、あと形なく飛び散った。船長ノルマンも、怪人ポーニンも、ともに一まつの瓦斯ガス体となって消え失せた。それとともに、かのごくひの大計画である海底要塞の建設事業も、一たん挫折してしまったのだ。この怪人たちの陰謀のそばつえを食ったサイゴン港こそ、悲惨のきわみであった。沈没艦船三十九隻、焼失家屋五百八十余戸、死者三千人、負傷者は数しれず、硝子ガラスの破片で眼がみえなくなった者が、三百余人と伝えられる。
 平靖号の船員も、相当死んだが、元気な虎船長や竹見水夫がいる限り、これにこりず、改めてさらに壮途そうとをつづけることであろう。





底本:「海野十三全集 第9巻 怪鳥艇」三一書房
   1988(昭和63)年10月30日第1版第1刷発行
初出:「大日本青年」(「浪立つ極東航路」のタイトルで。)
※「丸本慈三」と「丸本秀三」の混在は、底本通りにしました。
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:tatsuki
校正:原田頌子
2004年3月5日作成
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