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雷(かみなり)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-24 11:18:58  点击:  切换到繁體中文


「そうだ、七年になる。あのとき僕はちょうど二十歳はたちだったからネ」
「……しかし、よくまアそんなに立派に出世をして、帰って来られて、お目出たい。……それに引きかえ、儂のこのひどい恰好を見て下さい。穴に入りたいくらいだ。お前さんをうちの二階に置いてあげてた頃は、自分の貸家も十軒ほどあって……」と、中年をすぎたこのうらぶれた棟梁とうりょうは、手の甲で洟水はなみずをグッと抑えた。
「もういい、それよりも松さんに、ちと頼みたい事がある。お前さんばかりを頼ってきたのだ」
「おお、そうか。では、ゆっくり話を聞くとしよう」といって、にわかに傍の連れに心づき、その風体のよくない男を脇に呼ぶと、北鳴にははばかるような低い声で、なにかボソボソ囁いた。対手あいての男はどうしたわけか不服そうであったが、やがて松吉が、やや声を荒らげ、
「ヤイ化助ばけすけ。これだけ云って分らなきゃ、どうなりと手前の勝手にしろ」
 と肩をそびやかせた。すると化助といわれた男は、ギロりと白い眼をいたまま、道の真中に転がっていた竹竿を拾いあげ、それを肩にかつぐと、もう一度松吉の方をジロリとにらんで、それからクルッと廻れ右をして、元来た道へトボトボと帰っていった。
「松さん。お前さんたち、今夜なにか用事があったんだろう」
「イヤなに、大した用事でもないんだ……」
 そういった松吉は、気持が悪いほど、いやに朗かな面持をしていた。


     2


 翌日から、比野町では、大評判が立った。
 一つは、七年前に町を出ていった北鳴少年が、ものすごい出世をして紳士になって帰郷してきたこと。もう一つは、村での物嗤ものわらいの道楽者松屋松吉が、北鳴四郎の取巻きとなって、どこから金を手に入れたか、おんぼろの衣裳を何処どこかへやり、法被姿はっぴすがたながら上から下まで垢ぬけのしたサッパリした仕事着に生れ代ったようになったことだった。
 町の人は、寄るとさわると、二人の噂をしあった。
「おう、あの北鳴四郎は、すごい財産を作ってなア、そしていま博士論文を書いているということだア」
「どうもえらいことだのう。あいつは内気だったが、どこか悧巧りこうなところがあると思ったよ。それにしても、四郎はあの爪弾つまはじきの松吉を莫迦に信用しているらしいが、今に松吉の悪心に引懸って、財産も何も滅茶滅茶めっちゃめっちゃにされちまうぞ」
瀬下せしたの嫁ッ子は、どう考えているかなア」
「ああ、おさとのことかネ。……お里坊も考えるだろうな。四郎があんなに立身出世をするなら、英三えいぞうのところへなんか嫁にゆくのでなかったと……」
「フフン、そんなことはお里の親の方が考えて、今になって失敗しまったと思ってるよ。こうと知ったらお里を四郎から引放さんで置くんじゃったとナ」
「もう後の祭だ。あの慾深親父も、今更いまさらどうしようたって仕方がないだろう」
「いや、あの親父も相当なもので、町長の高村さんに頼みこんで、四郎との仲をこの際どうにか取持ってくれと泣きついているそうだ」
「町長は、どういっとる?」
「どういっとるも、こういっとるもない。高村町長はお里と英三の婚礼の媒酌人じゃ。四郎の前に出るには、ひょっとこのお面でも被ってでなければ出られまい」
 そのひょっとこの面が入用だといわれた高村町長が、向うからお面もつけずに畦道をやって来たものだから、水田に草むしりをしていた人たちは吃驚びっくりした。しかもその後には、凱旋将軍の北鳴四郎と、松屋松吉とが従っていたから、その驚きは二重三重になった。
 町長は白い麻のかすりに、同じく麻の鼠色した袴をはき、ニコニコした笑顔を、うしろにふりむけつつ、
「……この町から博士が出るなんて、考えても見なかった名誉なことじゃ。わしはなんなりと四郎……君のために便宜べんぎを図るをいとわぬつもりじゃ。遠慮なく、申出て下され」
「いや私が珍しく帰って来たからといって、そんなに歓待して頂こうとは期待していません。ただ今申したとおり、この夏中数ヶ所に撮影用のやぐらを建てて廻る地所を貸して頂くことだけには、特に便宜を与えて下さい」
「それくらいのことは何でもない、もっともっと、用を云いつけて下され。何しろ町の名誉にもなることじゃから……」
 と、町長は手を取らんばかりに、北鳴四郎に厚意を寄せるのだった。すべては昨夜、町長のところに贈った思いがけなく莫大な土産品みやげひんのなせるわざだった。
 北鳴は、町長の言葉が信じられないという風に、わざと黙っていた。
 そのとき松吉は、傍にある真新しい半鐘梯子はしごを指して、北鳴に云った。
「これを御覧なすって。これがこの一年間、儂にさせて貰った只一つの仕事なんで……。こういう具合に、町の奴等は、儂に仕事を呉れねえで、虐待しやすで……」
 と、町長の方をグッと睨んだ。すると町長は、俄かに笑顔を引込め、松吉のいったことが聞えぬげに空嘯うそぶいた。
「おお、これが松さんの仕事かネ」と北鳴は、梯子を下の方から上の方へ、ずっと眼を移していったが、そのときう思ったものか、カラカラと笑いだした。
「……何を笑うんで……」
「何をって、君……」と、北鳴はまたひとしきり笑い続けたのち、「……梯子の上にある避雷針みたいなものも、松さんの仕事かネ」
「もちろん、儂がつけたんだが……あの雷避かみなりよけの恰好が可笑おかしいかネ」
 それは背の高い杉の二本柱の天頂てっぺんに、まるで水牛の角を真直まっすぐにのばしたような、ひどく長くて不恰好な銅の針がニューッと天に向って伸びているのだった。その銅針の下には、お銚子ちょうしの袴のような銅製の円筒がついていて、これが杉の丸太の上に、帽子のようにはまっていた。
「これは避雷針かい、それとも雷避けのおまじないかい」
「もちろん、避雷針だよ。あかだって、一分もある厚いやつを使ってあるんで……。それにあの針と来たら、少し曲ってはいるが、ああいう風にだんだんと尖端さきの方にゆくにつれて細くするには、とても骨を折った。……それをわらうというのは、可笑しい」
「うん、見懸けだけは、松さんが云ったとおり立派さ。だがこれでは近いうちに、この梯子の上に、きっと落雷するよ」
「冗談云っちゃいけない。四郎……さんは、そりゃ豪くなったことは豪くなったろうが、この建築にかけては、儂の方が豪いよ」
「梯子は建築だろうが、避雷針は電気の学問だ。それについては、私の方がずっと知っているよ。落雷するといったら、落雷することに間違いはない。夕立がやってきたとき、この梯子に登っている者を見たときは、すぐに降りるように云ってやらにゃいけない」
 二人の争論を聞いていた高村町長は、横から口を出して、
「オイ松吉。北鳴さんは、博士にもなろうという方じゃないか。ちと口をつつしむがいい。それに、お前の仕事のなっとらんことは、この町で知らぬ者はないぞ。わしはこの火の見梯子をお前に請負わせるようになったと聞いて強く反対したのじゃが……」
 松吉は、がりきって、ひとりでスタスタと歩きだした。

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