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鞄らしくない鞄(かばんらしくないかばん)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-24 11:16:45  点击:  切换到繁體中文


   失踪しっそうの博士


 いつもなら、そういう面会人は必ず応接室へ入れるのが例になっていたが、今日ばかりは特別の扱いで、課長はいそいそと席から立って指図さしずをし、その面会人を自分の机の横の席へ通させたのである。ちょうどその日のお昼前のことであった。
 面会人は臼井うすい藤吾という姓名の青年であり、この臼井青年を紹介して来たのは、課長と同郷の大先輩である元知事目賀野めがの俊道氏であった。しかし課長は、この大先輩に対し、あまり尊敬の念を持合わしてはいなかった。
「実は重大人物が行方不明となりましたものですから、特に課長さんの御尽力ごじんりょくすがりたいと存じまして、目賀野閣下かっかから紹介して頂いたような次第でございます」
 青年臼井は、ポマードで固めた長髪を奇妙に振りながら、近頃の青年にしては珍らしく鄭重ていちょうな言葉で挨拶をしたのだった。青年の赤いネクタイが、その睡眠不足らしいれぼったいまぶたや、かさかさに乾いた黄色っぽい顔面とが不釣合に見えた。
(目賀野氏はもはや閣下ではない筈ですが……)と皮肉をいってやりたくなった田鍋課長だったけれど、それは差控さしひかえることにして、
「どういう人物だか、詳しくお話下さらんので、われわれには正体が分りませんが、とにかく家出人の捜査申請そうさしんせいは本庁でも毎日受付けて居りますから、どうぞ届書とどけしょを出されたい」
 と返答をした。
「いや、これは失礼をいたしました。故意にその人物の素性すじょうなどを隠そうとしたものではなく、その人物が如何なる人であるかを説明するには相当長い説明がりますので、とりあえず重大人物と申上げたわけでありまするが……」
「お話中ですが、われわれは非常に多忙でありますし、かつまた非常に重大事件を数多抱えて居りますために、なるべくつまらんことでわれわれをわずらわさないように願いたい。いやもちろん目賀野先生の紹介状に対して敬意を表しないというわけではありませんが、とにかく本課では目下数多の重大事件を抱えこんでいる――今も申した通りですが、例えば某研究所から二百グラムというおびただしいラジウムが盗難に遭い目下重大問題を惹起じゃっきしていまして、本課は全力をあげて約四十日間捜索そうさくを継続していますが、今以て何の手懸りもない――迷宮めいきゅう入り事件くさいですがね、これは……、それだとか次は……」
「お話中を恐れ入りますが、他の重大事件には私は殆んど関心を持って居りませんので。はい、只々ただただ重大人物博士の失踪しっそうについて非常なる憂慮ゆうりょと不安と焦燥しょうそうとを覚えている次第でございます」
「失踪事件ならば、先刻も御教えしたとおり家出人捜査申請しんせいをせられたい」
「それは分って居ります。しかしですな、その博士はあまりに重大なる人物でありまして、普通の失踪捜査申請などをしていたのでは間に合わないのでございます。いわんや博士においては家出せられるほどの事情は痕跡こんせきほども持って居られない。従ってこれは博士を誘拐ゆうかいしたと見なければならないはなはだ重大刑事事件であります。はたしてしからば、刑事部捜査課長たる足下そっかが当然陣頭に立って捜査せらるべき筋合のものであると確信いたします」
一体いったい誰ですか、その重大人物博士とやらいうのは……」
赤見沢あかみざわ博士のことです。あの有名な実験物理学の権威けんい、そして赤見沢ラボラトリーの所長、万国ばんこく学士院会員、それから……いや、後は省略しましょう。ここまで申せば、課長さんも赤見沢博士の重大人物たることをよく御了解ごりょうかいになるでしょう」
「もちろんです」課長は勢い上、そうこたえなければならなかった。「赤見沢先生が失踪されたとは、これは初耳ですな。それは何時いつのことですか」
「昨夜以来、おやしきへお帰りがない。お邸と申しましても、それはラボラトリーの一室ですが……。私は昨夜はお目にかかる約束になっていたので博士の御帰りを待って居りましたが、ついに博士はお帰りにならず、本日午前十時になっても姿をお現わしになりません。それ故にこれは大変だと思い――今までそんな約束ちがいは一度もありませんでしたからな――それで目賀野閣下に御相談をし、こちらへ駈付かけつけましたような訳です。如何です。昨夜何か都下において血腥ちなまぐさき事件でもございませんでしたでしょうか」
 臼井はきりのように鋭く問い迫る。
「昨夜はきわめて静穏せいおんでしたな。報告するほどの事件は一つもなかった。いや、正確に申せば只一件だけあった。深夜しんや池袋駅どまりの省線電車の中に、人事不省になった一人の男が鞄と共に残っていたというだけのことです」
「えっ、鞄と仰有おっしゃいましたか」
「ああ、鞄――それはスーツケースらしいですが、それが車内に残留していたので、その人事不省の人物の所持品じゃろうと……」
「その人事不省の男というのは、どんな男でしたか。年齢はどのくらい……」
「二十五前後の青年男子だと報告して来ています」
「ああ、それじゃ違う。赤見沢博士はたしか本年六十五歳になられる老体ろうたいなんですからね」
「それはお気の毒」
 と課長はいって、事件引継簿を書類ばこ既決きけつの函の中へ、ばさりと投げ入れた。

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