您现在的位置: 贯通日本 >> 作家 >> 海野 十三 >> 正文

火星探険(かせいたんけん)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-24 11:12:55  点击:  切换到繁體中文


   初会見


 三人の少年大使は、やがて進めるだけ進んで、火星人の群の前に立ちまった。
 あとで山木の語った感想によると、彼はあまり異様な火星人をたくさん目の前に見たので、頭が変になり、気を失いかけたそうである。
 張の感想によると、彼は火星人の身体つきを見て、これはスープで丸煮にして喰べたら、さぞうまいだろうと思ったそうである。
 ネッドはどんなことを考えたか。何とかして火星人をひとり土産にして地球へ連れてかえり、見世物にしたら、さぞお金がもうかることだろうと思ったそうだ。
 それはさておき、山木はここで火星人に対し一つ敬礼をして親愛の情を示したいものだが、さてどんなかたちをして見せれば、火星人たちはそれを敬礼だと受取ってくれるだろうかと思いなやんだ。
 が、いつまでも思いなやんではいられなかった。そこで彼は、思い切って両手を胸の上に組合わせ、上体を前にまげ、そしてアメリカ語でいった。
「火星の諸君、こんにちわ。ごきげん如何ですか。ぼくたちは地球からはるばる来ました」
 山木がしゃべっている間、張もネッドも、山木と同じようなかたちをして、あいさつをした。
 すると、とつぜん火星人の中から奇妙な声があがった。
「ようこそ来てくれましたね。地球の諸君。お目にかかって、たいへんにうれしいです」
 たいへん流暢りゅうちょうなアメリカ語であった。
「おお、ありがとう、ありがとう」
 山木はびっくりとうれしさとで、両手を前へのばして感謝の意をあらわした。だが半信半疑であった。どうして火星人は地球のことばを知り、そしてそれを話すことができるのであろうかと。
 そのとき、火星人の群が、三少年の前で左右に割れた。と、奥からも七人の火星人が、こっちへ進んで来た。見るとその火星人たちは大きな頭の下、つまり首に相当するところに太いマフラーのようなものを巻いていた。一番先頭の者は、白いマフラーを巻き、その他は緑、黄、紫などのものを巻いていた。どうやらこの白いマフラーの火星人が、えらい人物のように見受けられた。
「おもしろい音楽、おもしろい踊り。それをわれわれの目の前で聞かせたり見せたりして下すって、たいへん愉快でした。みんなよろこんでいますよ」
 と、白いマフラーの火星人はいいながら、山木たちの前まで来て立ち停り、むちのような手の一本を前にさしだした。
 それは握手をもとめているらしく思われたので山木はちょっと気味がわるかったが、思い切って自分の手をさしのばすと、ぐっと相手の手をつかんでふった。その手ざわりは、かなり冷めたかったが、それでも体温のあることが分った。
「地球のことばを話して下さるので、たいへんよく分ります。そしてうれしいです。ぼくは山木という者です。どうぞよろしく」
「やあ、よくそういって下すって、私もうれしいです。私はギネといって、このミカサ集団の代表者をつとめている者、どうぞよろしく」
 白いマフラーを首に巻いた火星人ギネは、そういって、ていねいにあいさつをした。
 山木はいよいようれしくなって、張とネッドを紹介すれば、ギネも、そのうしろにひかえた六人の職能代表者を紹介した。
 一同の間には、親しい気分が流れた。
「ああ、ギネさんとおっしゃいましたね」
 山木が呼んだ。
「はい、私はギネです」
 白いマフラーのミカサ代表者はこたえた。
「ええ、その……つまり、さきほどはたいへん失礼しました。気持のわるい瓦斯ガスをふきだして皆さんを苦しめ、ぼくたちも火星へついたばかりであわてていましたし、そこへ見なれない皆さんがたが押しよせてこられたので、これはたいへんだとちょっと誤解したのです」
「いや、あんなことは大したことではありませんよ。こっちも、じつは誤解をしてさわぎだした者があったのです。とにかく、あっちへ来ていただいて、ゆっくりお話をうけたまわりましょう。また、おもしろい音楽などをたくさん聞かせて下さい」
「はいはい、承知しました」
「が、その前にちょっと伺っておきますが、あなたがたは、いったい何の目的で、私どものところへ来られたのですか」
 ギネは、とつぜん重大な質問を発した。
 山木はぎくんとした。しかしここでうろたえては一大事と、気をしずめて、
「ああ、そのことですか。われわれ地球の者は、じつは何千年も前から、この火星の存在を知っていたのです。しかも火星にはたしかに生物――つまりあなたがたのような方がすんでいるにちがいないと考えまして、早くおちかづきになりたいと思っていたのです。しかし宇宙をとんで来るのはなかなか容易なことではなく、ようやくデニー博士の宇宙艇が完成したので、こんどやって来たようなわけであります」
「ふん。私たちを見たいためだったのですか。それだけですか。外に目的はないのですか」
 ギネのことばは、さっきとはすこし変り、なんだか疑いをふくんでいるように思われた。
「くわしいことは、いずれ後からデニー博士がおはなしすると思います。とにかく火星を訪れたという目的は、地球に一番近い火星人と手をとりあい、火星にないものは地球から送り、またお互いに一層幸福になりたいという考えで、われわれはこっちへ来たのです」
「なるほど。共存共栄ですね。それは結構です。われわれは皆、互いに力になり合わなければなりません。――しかし、あなたがたの来られた目的は、たしかにそれだけでしょうかねえ」
 ギネは、大きな目をぐるぐるっと動かして、しつこく尋ねた。ギネのうしろにいた他の六名の代表者も、身構えらしい恰好になって、山木が何と答えるかと、注意をするどく集めている様子だ。
 山木は、遂にちょっと気をのまれて、すぐには答えられなくなった。
「いや山木さん。じつは私どもは、地球の人たちについて警戒せよとの一つの忠告を受取っているのです。お答えによってはわれわれは重大なる決心をしなければなりません」
 そのことばと共に、七人の火星人の代表者は三少年のまわりをぐるっと取巻いた。
 はじめの調子の良さにくらべて、途中から険悪けんあくさを加えてのこの窮迫きゅうはくである。少年大使の運命はどうなることか。


   形勢険悪


 一難去ってまた一難!
 せっかく火星人のごきげんを取結んだと思ってほっと一安心したのもつか、急にはげしい怒りにもえあがった火星人。気味のわるいたくさんの顔が、山木、チャン、ネッドの三人に迫ってきた。
 ネッドは顔を蛙のように青くして、こまかくふるえている。山木は、反対にまっ赤になっている。ただ張ひとりは、至極おちついて空気兜の中から、動じない目をギネの方に向けている。
「誰がそんなことをいったのです」と、山木はいよいよまっ赤になって叫び、自分の空気服を叩いた。
「地球から来る者を警戒しろなんて、誰が密告したのですか。ぼくたちは、ごらんのとおり、何の武器も持っていない。またぼくたちの方から、好んで君たちに反抗したことも一度もない……」
「さっき、われわれに毒瓦斯を放出して、ひどい目にあわせたではないか」と、ギネのとなりにいた代表者の一人が、どなりかえした。これはブブンという火星人で、誰よりも背の高い奴だった。
「あれはちがいますよ。ぼくたちは、たった十数人しかいないのですよ。しかもこわれた宇宙艇の中に生残っているだけのことで、これからどうして生命の安全をはかったらいいのかと、途方にくれていたのです。すると君たちが大挙してやって来ました。あのおびただしい人数、あのはげしい勢い。あれで宇宙艇の中へのりこまれたら、わずかに残っている空気もみんな外へ抜けてしまって、ぼくたちは呼吸ができなくなる。おまけに、大切な器械器具材料などをこわされたら、ぼくたちはあらゆる望みを失うことになるのです。だから瓦斯を使ったのです。あの瓦斯は毒瓦斯というほどのものでなく、宇宙艇を保護するために張った防御用の網みたいなものでした。これでお分りでしょう。ぼくたちは、あなたがたの襲撃からぼくたちの身をまもるために、やむなくあのような手段をとったにすぎないのです。あなたがたを、ぼくたちの方から襲撃したわけじゃありません。よく分って下さい」
 山木は、自分の考えをむきだしにぶちまけたのだった。
「いや、どうだかなあ」とブブンはなおも疑いの色をゆるめず「おれたちは、こういうことを聞込んでいる。地球では、人口が殖える一方資源が少くなって、大いに困っている。そのために永年にわたって火星への侵略戦争を用意していたというじゃないか。地球人という奴は全く油断がならないよ」
「そのことも、あなたの誤解です。なるほど地球の人口は多いです。またこれまでに地球上には戦争もたびたびありました。しかし今はもう侵略戦争は根だやしになりました。そのわけは、戦争の惨禍というものが、負けた国の人々にはもちろんのこと、勝った国の人々にもふりかかってくることが分り、戦争は地球上のすべての人々に大きな不幸をもたらすことがよく分ったのです。だからもう戦争にはりて、どの国でも戦争を起すことはやめたと宣言しているのです。これで地球には万世の太平が来たのです。この万世の太平は、地球の上だけのことでなく、惑星と惑星の間にも約束されねばなりません。いや、宇宙全体の生物たちは、仲よく助けあって、幸福の道に進まねばなりません。お互いに愛し合い、お互いに助け合う気持さえ起れば、戦争などという不幸な手段によらずに、おだやかな話し合いで万事うまく解決すると信ずるのです。人口過剰問題も資源不足問題も、互いに助け合う心さえあれば、必ず解決すべきことです。ぼくはかたくそう信じます」
 山木は、いよいよ顔を赤くして、自分の信ずるところを述べたてた。
「じゃあ聞くがね、君たちはなぜこの火星へことわりもなしに侵入したのだ。来るなら来るで、前もってこっちの都合を聞き、よろしいという返事を待った上で来るのがいいじゃないか。それをことわりなしに入って来るなんて、やっぱり君たちは侵入者だとしか思えない」
 ブブン代表は、一歩もゆずらない。なるほど、デニー博士の宇宙艇はことわりなしに火星着陸をやったのであるから、そういわれると弁解の道がない。
 だが山木は言った。
「それは無理です。なぜといって、ぼくたちには火星人がどんな言葉を使っているか、全然知らなかったのです。それをどうして知るか、その方法はなかったから、いきなり火星へ宇宙艇を乗りつけたのです。第一、ぼくたちには火星にあなたがたのような人々が住んでいるかどうか、それさえ分っていなかったのですからねえ」
「はっはっは」とブブンはり返って笑った。
「火星人の言葉も研究しないで、いきなり侵入して来るなんて、なんという野蛮なことだろう。おれたちは、ちゃんと地球人の言葉を知っているぞ、だからこうして君たちと話をしているんだ。あっはっはっは。どうだ。分ったかね。地球人はわれら火星人に比べて、ずっと文化程度が低いのだということを……」
 そういわれてみると、山木は言いかえすすべを知らなかった。たしかにそうである。地球の者で火星語を知っている者も、それを研究していた者もひとりもないのだ。デニー博士さえ知らない。しかるに火星人はちゃんと地球語をあやつって話している。これによって火星人の方が地球人よりすぐれているのだといわれても、言いかえすことが出来ないのだった。
 だが、一体火星人はどうして地球語をおぼえたのであろうか。


   最後の努力


 少年たちの形勢は悪くなった。
 山木は言葉もなく、ブブンに言い負かされた形だ。ブブンの大きな眼玉がぐるぐると動き、彼の頭に生えている触角が蛇のようにくねくねと気味わるくゆらぐ。
 ネッドは心配のため、呼吸が停まりそうになって、張にすがりついた。
「おい張、ぼくたちは一体どうなるだろうね」
 地蔵さまのように立っていた張は、ネッドの手をやさしくなでてやった。そしていった。
「大丈夫だ。心配するなよ。今にうまく解決する」
「ほんとうかい。でも、相手のけんまくは相当強いぜ。逃げてかえろうか」
「まあ待て、動いてはよくない。ぼくのように落付いているんだ」
「だめだよ。ぼくは落付けやしないよ」
「ネッド」
「なんだ、張」
「お前は忘れたか、牛頭仙人のことを」
「ああ牛頭仙人……それはお前のことだ」
「そうだろう。お前はいつも大仙人のことを信じていた。その大仙人は、さっきからひそかにあの霊現れいげんあらたかなる水晶をなでてて、占っていたんだ。ほら、水晶はこのとおりぼくの腰にぶら下っている袋の中にあるんだ。占ってみると、たしかに今の急場は大丈夫しのげるとお告げが出たぞ。安心しろ」
「え、お告げが出たか。そうか。そんなら安心した」
 ネッドは急に元気になっていった。
「それにしても、このむずかしい場面が、どうしてうまく解決するのだろうか」
 ブブンはなおも声高にどなっていた。そのときとつぜん、音楽が始まった。牛乳配達の自動車の運転台にひとりで待っている河合が、電気蓄音器を鳴らし始めたのだ。その曲はトロイメライ。聞いていると眠くなるような夢の曲がチェロによって奏でられる。ブブンの声がぴったりと停まる。彼の勝ち誇っていきり立った触角がだらりと下がり、そしてやがてそれは曲の旋律にあわせて、すこしずつくねり出した。
 ふしぎにも、音楽には弱い火星人だった。
 さっきから黙っていた火星人代表のギネがブブンの肩を叩いて何かいった。するとブブンはとびあがった。何かおどろいたらしい。彼は山木たちの方へ出て来て、
「へえっ。君たちは地球人の少年かね。おれは君たちが成人した地球人だと思っていたが……」
「そうです、ぼくたち四人は少年です」
「四人? 三人しか見えないが……」
「もう一人は、あの自動車の中にいます」
「あのうつくしい音を出しているのが、そうか」
「そうです」
「ふうん。これは意外だ。おれは君たちが成人の地球人だとばかり思って話をしていたが、まだ年端としはもいかない少年だとは思わなかった。少年でもあれくらいの考えを持っているのだから、成人した地球人は相当えらいのだろうね」
「えらいですとも。大人は皆、宇宙艇に残っていますよ。ぜひおだやかに会って下さい」
「よし、そうしよう。ああギネが、君たちが少年であることをもっと早く教えてくれたら、おれはあんなにがみがみいうんじゃなかった。なにしろギネは地球へ行ったことがあるんで、火星人の中では一番ものしりなんだ」
「えっ、ギネさんは地球へ来られたことがあるんですか」
「二三度行ったよ。そうだね、ギネ」
「そうです。三度行きました。そして地球人のことを研究してきました。だが私の行ったことは、地球人は気がつかなかったようです」
「へえっ、それはおどろいた。どうして行ったのですか。何に乗って」
「ははは、それはいいますまい。アメリカ語を話せるようになったのも、私がそれをしらべてきたからです。しかし私の地球研究はまだその途中でした。だから火星の方で地球人を迎える用意もできていなかったのです。それで私がいくらなだめても皆はいうことをきかず、地球人の入っている宇宙艇の方へ押しかけたわけです。私は地球人の長所や文化を皆に知らせた上で、地球と正式に友交関係を結ぶつもりでした。しかし君がたがあまり早く火星へ来てしまったので、私の計画もすっかり手違いになったのです」
 ギネは、さすがに物わかりのいいおだやかな火星人で、代表者としてはもって来いの人物だった。山木も張もネッドも、ほっと一息ついた。
 トロイメライの音楽が、軽快なワルツにかわった。
「さあ踊ろうや。ぼくたちの仕事だ」
 ネッドは張を引張りだして踊りはじめた。すると、さっきからすっかり温和おとなしくなったブブンもそれを真似して踊りだした。そのうしろにいたたくさんの火星人群も、また共にワルツの曲に合わせて舞いはじめた。
 河合が、こっちの険悪な場面を心配して、思い切ってまた音楽を始めたことがたいへんよかったのである。
 山木とギネの間には、打合わせがどんどん進んで、デニー博士をギネたちがおだやかに訪問してくる申合わせもついた。
 音楽にあわせて火星人の舞踊はだんだんにぎやかになって行き、音声を発して踊り回る姿はまことに天真らんまんであった。
 四少年と火星人の交歓は、ますますうまく行って、牛乳配達車のまわりには火星人がいっぱい集って来た。そしてその横腹に書かれた牝牛の絵を指して、ものめずらしげに打ち興じるのであった。牛は火星にはすんでいないのだ。いや牛ばかりではない。馬も羊も鹿も見たことがないのだった。
 火星での大きな動物といえば、蛙にちょっと似た動物が居るきりだった。もっともその奇獣(?)は猫ほどの大きさがあったが……。
 四少年が、火星人をこの牛乳配達車に乗せてやると、火星人たちはますます上機嫌になった。彼等は箱の上に鈴なりになり、奇声をあげてわめきさけび、周囲で見物している彼等の仲間と呼びあって大よろこびだった。その中には、たくさんの火星の子どもがまじっていたが、彼等は身体がたいへん小さく、犬の子ぐらいであった。しかし大きな頭に大きな目玉をぐるぐる動かし、短かい触手をふりたてるところは火星人の大人とかわらなかった。かわっているところは、首から下が非常に短くて、ほうずきの化物みたいに見えた。


   大団円


 さてこの物語も、ここらで結末に入らなければならない。
 火星探険団長のデニー博士たちと火星人の会見は、四少年の下工作が功を奏してたいへんうまく平和的にいった。そして火星と地球の間にやがて定期航空をひらくことと、火星と地球の間に互いに不足している資源を融通しあうこと、もう一つ両者の間に文化学術の交流を行うことについて一応諒解が成立した。これは博士にとっても意外な大きな収穫だった。博士が火星航空路に成功しただけでもすばらしい収穫であるのに、なおその上にこの功績を加えたのであった。
 それから博士は、次の仕事にとりかかった。それは地球へ無電連絡を確立することと、壊れた宇宙艇の修理が出来るかどうかを調べることだった。
 地球との通信は、うまく行くようになった。発電機を動かす燃料も、十分にあり、新しい送受信機を組立てる部品を揃えることも出来た。
 もう一つの仕事の、壊れた宇宙艇が修理できるかどうかは、一行の運命をきめてしまう重大なことがらだった。この調査には一週間を要した。その結果はとても出来ないことが分った。一行の人々の目の前は、急に暗くなった。第一、機材がどうしても足りないし、工作機械は十分でないし、それに燃料は絶対不足だった。デニー博士は、思い切って宇宙艇を小型のものに設計がえをし、乏しい機械からこれを作ることを考えたが、これにも難関があって成功は望まれそうもなかった。それはエンジンをそのままのせると、艇は重くなりすぎて飛び出せそうもなかったし、それかといってエンジンを小型にすることは、工作上とてもここでは出来ない相談だった。ただエンジンを解体して、従来のものの二分の一または四分の一にすることは出来たが、博士の考えていた小型のものに丁度いいのは、四分の一にしたエンジンを取付けることだった。だからこれはやれそうに見えたが、そこで実際に馬力と速力とを計算しているとエンジンが非常に能率を悪くする関係で、火星を出てから地球に達するまでに五ヶ年もかかることが分り、しかも五ヶ年間エンジンを動かすための燃料といえば莫大ばくだいなもので、とても用意が出来そうもなかった。こんなわけで、一行は遂に地球に帰還するための乗物を用意することが出来ないことが明らかとなった。一行の失望と落胆は、ここに記すも気の毒なほどだった。
「マートンさん。地球へ救援を求めることは出来ないのですか。つまり、別の宇宙艇をこの火星へよこしてもらうのです」
 河合が、マートン技師にいった。
「さあ、不可能だろうね。なにしろ火星まで届くほどの有力なる宇宙艇を作り得る組織を持っている工場は、わがデニー先生の火星探険協会をおいて他にないんだからね」
「宇宙艇というものは、全然他では出来ないのですか」
「今出来ているのは、われわれのものを除くとせいぜい月世界まで届くぐらいのものなんだ。それも一旦月世界まで行っても帰還することはむずかしいからね」
「困ったものですねえ」
「ああ、全く困った」
 いつも元気で、最後まで希望を捨てないマートン技師も、今は別人のように悲観の淵に沈んでいる。
「ああそうだ」と河合が叫んだ。
「マートンさん、まだやってみることがあるではありませんか」
「まだやってみることが? それは何……」
「われわれの力だけでは、もうどうにも手のほどこしようのないことは分りましたが、しかしここは火星国です。火星人の智恵、火星の資源、火星人の労働力――そういうものはうんとあるではありませんか。それにあのギネという火星人は、これまで秘密のうちに、地球まで三回も往復しているんだそうですから、あの火星人に頼めば、われわれの知らない強力なエンジンを貸してくれるかもしれませんよ。そしてたくさんの火星人の労働力を借りるなら、どんな巨大な宇宙艇だって楽に早く建造することが出来るのではないですか」
「おお、それはすばらしいアイデアだ。そうだ、われわれはわれわれの力だけで解決することを考えていたので、宇宙艇の再建造は不可能だと決めてしまわねばならなかったんだ。火星人に協力を求める! なるほど、そうだったね。そういう道があるのだ」
 河合少年の思付おもいつきは、早速さっそくマートン技師からデニー博士に伝えられた。博士はそれを聞いて喜んだ。そしてその方向に、問題を解決する道を進むことになった。
 それからはとんとん拍子に行った。ギネの好意で、火星政府もエンジンを貸すことを承諾し、火星人の技術団をつけて地球まで行かせることにしてくれた。但しこのエンジンの秘密は当分地球人には公開されないことを一つの条件として……。
 それから半年の後、地球人と火星人の合作による新宇宙艇の建造はめでたく完成した。この新艇には“太陽の子”という名前がつけられた。火星も地球も共に太陽の子であるという意味を含めたもので、同じく太陽の子である以上、仲よくしましょうという平和精神が盛られてあるのだった。
 試運転も地球人と火星人の協力でうまく行った。そして一ヶ月後に、地球帰還の用意万端は成り、いよいよ“太陽の子”号は、はなばなしく初航空の旅についた。地上からは火星人たちの盛んな見送りがあり、艇からはデニー博士一行と、地球訪問の火星人使節団と技術団とが手を握り、触手を動かして挨拶をかわした。こうしてめでたい地球人と火星人との協力による宇宙旅行が始まったのであった。
 デニー博士が調査作製した宇宙航路によって、“太陽の子”号は最も条件のよい航路を選び、地球へ近づいて行った。そしてわずか十五日で、その航路を突破した。“太陽の子”号がニューヨーク郊外の新飛行場“火星”へ無事着陸すると、地球は――いや全世界は歓喜と興奮の渦にまきこまれた。デニー博士以下の乗組員たちは大統領に出迎えられ、光栄ある讃辞を受けた。また火星からの異形の使説団一行は大歓迎をもって迎えられた。
 デニー博士は大統領の車に同乗して、はなばなしいニューヨーク入りをした。一行の上に、七色の紙が花のように降り、市民たちは家もすっかり空っぽにして沿道に集り、歓呼をあびせかけた。
 山木、河合、張、ネッドの四少年は、例の牛乳配達車に乗って、行進の中に加わった。これがまたたいへんな歓呼で迎えられ、牛乳配達車の上は花束が山のように積まれ、絵の牝牛の首にも美しい赤と青と白とのリボンがつけられた。――張の予言は、たしかに的中したのだった。
 それからデニー博士がどんなに盛んな歓迎攻めに会ったか、それは記すまでもないであろう。
 しかしデニー博士は重要な仕事を持っていたので、火星使節団とわが世界代表との間に立って連日大奮闘をした。しかしその甲斐あって、双方の間にひろい協力の条約が成立し、地球と火星との定期航空路も共同経営をすることに決まった。そしてなお更に一歩進んでわが太陽系惑星が平和連合星団を建設することに話がまとまった。
 デニー博士はやがて、火星に永住することとなった。博士は駐火星地球大使に任ぜられたのである。博士の銅像はニューヨークと、もう一つデニー塔のあったアリゾナの二ヶ所に建てられた。
 四少年は、褒美ほうびのお金によって、すばらしい自動車と飛行機を買うことが出来、それを乗りまわしている。その自動車と飛行機には例の大きな牝牛が描かれてあるということだ。





底本:「海野十三全集 第11巻 四次元漂流」三一書房
   1988(昭和63)年12月15日第1版第1刷発行
初出:「サイエンス」
   1945(昭和20)年12月~1946(昭和21)年11月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:tatsuki
校正:土屋隆
2005年2月21日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。




●表記について
  • このファイルは W3C 勧告 XHTML1.1 にそった形式で作成されています。
  • [#…]は、入力者による注を表す記号です。
  • 傍点や圏点、傍線の付いた文字は、強調表示にしました。

上一页  [1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8] [9]  尾页


 

作家录入:贯通日本语    责任编辑:贯通日本语 

  • 上一篇作家:

  • 下一篇作家:
  •  
     
     
    网友评论:(只显示最新10条。评论内容只代表网友观点,与本站立场无关!)
     

    没有任何图片作家

    广告

    广告