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怪星ガン(かいせいガン)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-24 11:00:22  点击:  切换到繁體中文



   計画公表


「怪星ガンから脱出するんだ」隊長のかたい決心は、ひそかに隊員全部に伝えられた。
「しかし、そのことは、あくまでガン人にはさとられないように注意をする必要がある」
 もっともなことだった。怪星ガン人が隊員の待遇をたいへんよくしているのも、結局隊員たちをながくここにとめておきたいからなのであろう。だからもし、隊員がここから脱出する決意を知ったら、ガン人はきっと怒りだすであろうし、待遇はわるくなり、自由はうばわれるにちがいない。隊長が、隊員たちに極力秘密をまもるようにといったのは、もっともだ。
「みんなは、それぞれ、脱出にひつような知識をうることに気をつけていること」
 捕虜生活に、気をくさらせていた隊員たちは、隊長の決心がわかったので、困難ではあるが、大きな希望をつかむことができた。だから隊員たちは、目に見えて元気になった。
 ガン人の監視がないと思われる真夜中に、ねんのために変調眼鏡であたりをよくしらべたうえで、隊員たちはベッドから顔をだして、それぞれの脱出計画の意見を交換することがはやった。
「おれの考えでは、なんとかして天窓をあけることだと思う」
「なんだ、天窓だって。屋根に天窓をあけるのかい」
「そうじゃないよ。怪星ガンの天井に天窓をあけることをいってんのさ」
「ふん、怪星ガンの天井に天窓があけられるのかい。第一、天井とはどこをさしていうのかね」
「わかっているじゃないか。本艇が、このまえ、怪星ガンの捕虜となったときに、ほら、空が四方八方から包まれていったじゃないか。あの包んだしろものが、怪星ガンの天井なんだ。その天井になんとかして、天窓をあける方法はないものかな」
「さあ。どうすればいいかな。とにかくその怪星ガンの天井までのぼらなくちゃならないね。その天井は、そうとう高いところにあるんだろう。どこからのぼっていけばいいか、その研究が先だね」
「そうとう遠いと思うね。飛行機にのっていかないと、あそこまでいきつけないのではないか」
「えっ、飛行機だって。そんなに高いところにあるのかい。何千メートルというほどの上にあるのかい」
「いや、はっきりしたことはわからないが、あのときの感じでは、そう思った」
「ぼくも、天井が何千メートルも高いところにあるという考えにはさんせいだが……」
 と、別の隊員がいった。
「しかし、どうも分らないことがある」
「それは何だね」
「本艇から、あの繋留塔けいりゅうとうをおりて、街へいくが、本艇と街と、いったいどっちが、怪星ガンの中心に近いのだろうか」
「なんだって」
「つまり、ぼくははじめ、本艇のほうが、怪星ガンの表面に近くて、街は、それより深い所にあると思っていたんだ。ところがこの頃になると、そうではなくて、そのはんたいのように考えられるんだ」
「それはちがうよ。はんたいだね。きみのいうように、街のほうが、本艇よりも、怪星ガンの外側に近いところにあると仮定すると、重力の関係があべこべになるじゃないか。なにしろ足の方向に、重力の中心があるはずだからねえ。だから本艇よりも、街のほうが、怪星ガンの中心に近いのさ」
「いや、それでは、怪星ガンの構造がおかしくなるよ。街の上に、本艇がいまふわりと浮いている空間があって、その外にまた何か怪星ガンの外側の壁があるというのは、おかしいと思うね」
「さあ、どっちかしらん」脱出方法を見つけることは、あとまわしで怪星ガンの構造のほうが、やっかいな問題を起こしてしまって、討論ははてそうにもない。
 このことについて、三根夫少年は、隊長テッド博士から秘密の指令をうけて、非常にむずかしい行動にうつることとなった。もちろんそれには、帆村荘六がついていて、できるだけ手落ちのない計画をたて、準備をしたのであったが。
 三根夫の冒険である。その冒険に、隊員たちの全部の運命がかかっていた。
 その三根夫は、ある日、なにくわぬ顔で、サミユル博士邸をおとずれて、れいのハイロに会いにきた。三根夫は、紙でつつんで、赤いリボンをかけた四角な箱を抱えていた。その箱の中にはなにがはいっているのであろうか。三根夫はいまや冒険の第一歩を踏みだしたのである。


   三根夫の変装


 この日ハイロは、三根夫少年をつれて、この怪星の中の名所を案内するやくそくになっていた。ハイロは、三根夫のおかげで、ずいぶん富をふやした。そして三根夫とも仲よしになって、三根夫がたのむことについては、できるだけ便宜べんぎをあたえているのだった。
「ぼく、この国の名所を見物したいなあ。まだすこしも見ていないんだもの、ハイロ君、ぼくを見物につれていってくれない」三根夫がそういいだしたとき、ハイロは困った顔をして、
「それはできないことですよ。この国の人でないと、この国の中を自由に歩くことはできません。見つかれば、三根夫さんはすぐとらえられて、牢の中へほうりこまれ、死刑になってしまうでしょう。だから、そのことばかりはだめです。あきらめてもらいましょう」と、はっきりいった。
 しかし三根夫は、あきらめなかった。なお、いろいろとハイロにねだったり、質問してはかれの考えをいったりした。
「それじゃあ、ほくがきみたちとおなじような顔や身なりをしていれば、それでいいんでしょう。そんなことは、わけないや、ねえハイロ君。ぼくのために、きみとおなじ顔つきのお面をこしらえてくれたまえ。頭からすっぽりかぶれるような構造になっているのがいいね。それからきみの服を貸してくれたまえ。なるべくすそが長くて、足がかくれるようなのがいい。そして、他にきみたちの仲間がいるときは、ぼくは決して口をきかなければいいんでしょう。ねえハイロ君、そうしようよ」
 そういわれて、ハイロはしぶしぶしょうちしてしまった。
「じゃあ、そうしますか。しかし、へたをするとたいへんなことになるがなあ」
「大丈夫だよ、ハイロ君。ぼくは、へまなことをやりゃしないよ」
「それでは、お面と服と靴は、わしが用意をしましょう」
 そこで三根夫は、怪星ガンの名所見物をすることができるようになったのだ。もっとも、この妙案は、三根夫が考えついたものではなく、あらかじめテッド隊長のまえで幹部があつまって、ちえをしぼったもので、主として帆村荘六の考えだしたものだった。
 さて三根夫は、サミユル博士の家へハイロをたずねていった。ハイロは、その日はきげんがよくなかった。
「三根夫さん。あぶないから、見物はもっと先にのばしましょう」
「いやいや、早いほうがいいよ。ぼくは、もうちゃんとお土産なんかも用意してきたんだもの。やくそくどおり、すぐでかけようよ」三根夫は、ハイロがまだ知らない品物をおくりものとしてかれにあたえた。それはオルゴール人形だった。
 箱の上に、美しい少女の人形が立っていた。箱の横にあるネジをまき、人形の背中についているボタンに、ちょっとさわるときれいなオルゴールの曲がなりはじめ、それと同時に人形がおどりはじめるのだった。このオルゴール人形は、三根夫が地球を出発するときに、買物をした三つの品物のうちの一つであり、そして一等高価なものだった。このおくりものは、たいへんハイロの気に入った。オルゴールの音にあわせて、人形とおなじようなかっこうで踊りだしたほどだ。悪かったかれのきげんも、すっかりどこかへ吹きとんでしまったようである。
「そのほか、ぼくはこの箱の中に、十ぴきの南京ナンキンねずみをいれて持ってきたんだよ。まんいち、途中でやかましくいう者があったら、これを一ぴきずつあげて、きげんをなおしてもらおうと思うんだ。ハイロ君、よろしくやってくれたまえね」
「ああ、それはいいことだ」
「もし、見物がおわるまでに、南京ねずみが残れば、みんなきみにあげますよ」
「おお、それはたいへんけっこうです。それではあなたの仕度をはじめましょう」
 ハイロは、三根夫のために、ちゃんとガン人のお面と、服と靴とを用意してあったのだ。まず靴をはいた。こうしておけば、ガン人とおなじ足あとがつく。それからお面をすっぽりと頭からかぶった。それは胸のところまではいった。そのうえに、服を着た。すると三根夫は、すっかり頭でっかちのガン人に見えるようになった。
「目のところは、よく合っていますかい」
「ああ、よく合っていますよ。これはありがたい、変調眼鏡もつけておいてくれたのね」
「そうですよ。それがないと、わしたちの仲間がどこにいるのか分らなくて、きっとへまをやるでしょうからね」
「これは便利だ。さあ、でかけよう」
「でかけましょう。留守番のカルカン君にあとをよく頼んできます。そうだ、この南京ねずみのはいっている箱は、わしが持っていってあげましょう」
「あ、それはいいんだ。ぼくが持っていく」
 三根夫は、卓子テーブルの上においた箱のほうへいそいで両手をのばし、それを大事そうにかかえた。じつはこの箱には、南京ねずみが十ぴきはいっているほかに、この箱は秘密の写真機と録音機になっているのであった。その使い道は、いまさらいうまでもなく、怪星ガンの重要なる場所を写真にとったり、脱出方法の発見の手がかりになるような音響や、ガン人の話を録音してくるためだった。
 なるほど、こんな大切な箱包みなら、ハイロに持ってもらうことはできないはずだ。


   秘密の地階へ


 ハイロは、三根夫をつれて、外へでた。
 ちょっと見たところ、ふたりのガン人が歩いているとしか見えない。
 うしろをふりかえったり、横を見たりいそがしく身体を動かしているほうの、すこし背の高い方がハイロだった。三根夫は、ハイロよりもすこし低い。そして、なるべく見とがめられないようにと、かたくなって歩いている。ハイロは、三根夫がいままでに見たことのないところへ、案内してくれというものだから、まず地下道へはいっていった。
 これまでテッド博士をはじめ、地球人間はこの地下道へはまったくはいることを許されなかったものである。それは工場ばかりであった。なぜこんなに沢山の工場がならんでいるのか、なぜそんな必要があるのか、三根夫にはわけがわからなかった。それで、そっとハイロにたずねた。
「そんなことはわかっているじゃありませんか。われわれの生活にいるものをじゅうぶんに作るには、これだけの工場がいるんです」生活必需品の工場ばかりだった。家具をこしらえたり、器物をつくったり、紙や衣料をこしらえている。食物の加工をする工場も、たくさんあった。
 三根夫は一つ質問を思いついた。
「ハイロ君。この国にはどこに畑があるのかしら。果物や野菜なんかつくるにはやっぱり畑がいるのでしょう」
「ふふふ。それは、もう一階下ですよ」
 そういってハイロは、三根夫を、さらにもう一階下へ案内した。地階へおりるには、動いている道路というものがあって、それに乗っていると、やや爪先つまさきさがりにぐるぐるとまわっているといつの間にか地階へつくのであった。エレベーターよりもいっそう進歩した仕掛けだと思われた。
「ほほう。これは温室村へきたようだ。うわあ、すばらしくひろい温室だ」
「しいッ。声が高い」三根夫は、ハイロから注意をうけた。
 まったくすばらしい温室式の農場であった。いや、工場のような農場だといったほうがいいだろう。何段にも野菜の植わったたながあって、それがずらりと遠くまでならび美しいしまを見るようであった。太陽はない。上から特殊な光線がこの野菜棚を照らして、太陽の光りにあたるよりもずっとよく育つのだそうだ。また肥料もそれぞれの野菜に合ったものがじゅうぶんにあたえられ、植物ホルモンがうまく利用せられ、そのうえに、生長をたすける電波がかけられているので、野菜のできはいいし、その生長もたいへんはやい。
 三根夫は、べつのところで、果物くだもの畑を見た。これもきちんと箱にはいって、ならんでいる。木の太さの割合いには、すばらしくたくさんのみごとな実がなっていた。これも人工的の特殊の栽培法が行なわれているためである。おなじ階に、ひろびろとした牧場があった。また養魚場があった。どっちも三根夫をたいへんおどろかせた。というのは、牧場には、牛や豚の姿はなく、三根夫がはじめて見るふしぎな獣が飼われていたからだ。また、養魚場で見た魚も、地球上であまり見かけない種類のものであって、なんだか気持がへんになった。
 そういうことについていちいち記していくと、きりがないので、あとはとくに重要なものについてだけ、のべておこう。もう一階下へハイロが三根夫をつれこむとき、
「三根夫さん。これからは気をつけてくださいよ。この国の心臓にあたる重要な、そして秘密な場所ですからね。それは兵器工場なんです」と、耳うちした。兵器工場があるというのだ。
 やっぱりそうであったか。怪星ガンも、兵器を作って、持っているのか。どんな兵器を作っているのかと、三根夫は好奇心を強くした。ハイロに案内されて、そこへ下りていってみると、その工場の大仕掛けなのにおどろいて、思わず「あッ、これは……」と叫んで、あわてて口をとじた三根夫だった。どうしてこんな大工場があるのかと、あきれるばかりだ。そこに働いているガン人の数も、おどろくほど数が多い。それにくるくるごうごうとまわる大小無数の工作機械が、どんどん作りだしていくそのスピードの早いことといったら、目がまわるほどだ。
 これを見ても、ガン人は、地球人類よりもずっと感覚もするどく、能力もすぐれていることがわかる。しかし、そこに作りだされる兵器るいは、いったいどうして、どのように使うものだかさっぱりわけがわからないものが多かった。三根夫は、それについて、いちいちハイロにたずねたく思ったが、あいにくどこにもたくさんのガン人の職工がいるので、三根夫はきくことができなかった。なぜなら、三根夫は頭からガン人の首のつくりものをかぶっているので、これは三根夫が口をひらいても、つくりもののほうは口をあけないから、すぐあやしまれてしまう。
 そのかわり、三根夫は、れいの写真機と、録音機を中にひそませた四角い箱をさかんに活用して、生産されつつある兵器の写真をとり、また職工たちがしゃべっていることばを録音した。
 この広い兵器工場を見終ったときには、三根夫はすっかりくたびれてしまった。それで動く道路のそばにしゃがみこんでハイロに、しばらく休ませてくれといった。

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