爆発原因
帆村は、手に汗をにぎって、映写幕のうえに見入っていた。
かれは、しばしばうなった。こうしてじっとして惨劇を見ているにたえなかった。じぶんもすぐ艇外へとびだして、あの気のどくな第六号艇の漂流者たちのなかに身を投じ、ともに苦しみともにはげましあって、この危機の脱出に協力したかった。
だが、そんなことはゆるされない。艇外へとびだしたとて、何のやくに立とうぞ。
第六号艇のまわりには、僚艇から放射する探照灯が数十本、まぶしく集まっていた。その中には、空間漂流器を身体につけて、艇からばったのようにとびだす乗組員たちの姿もうつっていた。また、すでにその漂流器にすがって空間をただよっている乗組員たちの姿をとらえることもできた。それはどこかタンポポの種子ににていた。上に六枚羽根のプロペラがあり、それから長軸が下に出、そして種子の形をした耐圧空気室があった。人間はこのなかへ頭を突っ込んでいるが、だんだんと下から上へはいりこむと、しまいには全身をそのなかに入れることもできた。
この耐圧空気室のなかには、いろいろな重要な器具や食糧や燃料などがそろっていた。まず発光装置があって、遠方からでもその位置がわかるように空間漂流器全体が照明されている。
無電装置は送受両用のものがついているから、連絡にはことかかない。
原子力発電機があって、ひつようにおうじてヘリコプター式のプロペラを廻して、上昇することもできる。その外にやはり原子力をりようしたロケット推進器がついており、航続時間は約千時間というから、四十日間は飛べる力を持っている。
そのほか、空気清浄器や食糧いろいろの貯蔵もあり、娯楽用の小説やトランプもあり、聖書とハンドブックもあった。
これだけの用意ができている空間漂流器だったから、乗組員はじゅうぶん安心して、これに生命をあずけておくことができた。
だが、それだけで安心するにははやい。なぜなれば、もし第六号艇が、テッド博士のおそれる第二の爆発を起こすようであったら、その附近から大して遠くはなれてない空間漂流者たちは爆発とともに、まず生命はなくなるものと思わなければならない。
「おい、ゲーナー君。なぜきみは早く退避しないのか」
無電で、隊長テッド博士が、ゲーナー艇長を叱りつけるようにいった。
「もうすぐ退避する。二十八名、二十八名だ。まだ一名艇内に残っている者がある」
少佐は、艇員がもう一名残っているのを気にして、じぶんは危険をおかして踏みとどまっているのだ。
それを聞くと隊長テッド博士は、胸が迫ってきた。
「ゲーナー君。きみは数えまちがえている。二十九名だよ、今空中を漂流しているのは……」
博士は、生涯にはじめて嘘を一つついた。
「二十九名? ほんとうに二十九名が漂流していますか」
「ほんとうだ。いくらかぞえても二十九名いるぜ」
「ははは、ぼくはあわてていたらしい。じゃあこんどはぼくが飛びだす番だ……」
と少佐は壁から空間漂流器をおろして身体にしばりつけようとした。そのとき少佐は、おどろいた顔になって戸口をふりかえった。
「誰だ? まさか……」
もう誰も残っていないはず。が、戸の外からどんどんたたく音がする。人間らしい。そのようなことがあっていいものか。
少佐は漂流器を下において、戸口へとんでいった。そして戸をまえへ開いた。
と、戸といっしょに、ひとりの人間の身体がころがりこんできた。
たしかに人間だった。乗組員だ。しかし誰だわからない。上半身が黒こげだ。顔も両手も黒こげだ。
「誰だ、きみは……」
その黒こげの人物は、火ぶくれになった顔をあげ、ぶるぶるふるえる両手に一つの黒い箱をささえて少佐にさしだした。
「きみはモリだな」
「森です」火傷の男は苦しそうにあえいで、
「艇長。これを発火現場で見つけました。本艇の出火はこれが原因です」
「これはなにか」
「強酸と金属とをつかった発火装置です。艇長、本隊を不成功におわらせようという陰謀があるにちがいありません。他の艇にも、こんなものがはいっているかもしれません。至急、僚艇へ警告してください」
「うん、わかった。すぐ司令艇へ報告する」
艇長は、痛む胸をおさえて後をふりかえって、テレビ電話のほうを見た。映写幕には、司令艇の隊長テッド博士の顔が大うつしになって、うなずいていた。
『ばんじわかったぞ。はやく退避せよ』と目で知らせているのだ。少佐は安心した。
「報告はすんだ。モリ、さあぼくといっしょにはやく艇から脱出しよう。きみの空間漂流器は……おお、これを着ろ」
少佐はじぶんの漂流器を森に着せようとした。
「それはいけません。艇長のふかい情に合掌します。しかしわたしはもうだめです。助かりっこありません。艇長、わたしにかまわず、はやくこの艇をはなれてください」
「そんなことはできない……」
「艦長。はやく艇をはなれてください」
森は、最後の力をふるって立ちあがった。そして漂流器を少佐にかぶせた。それから操縦室の床にある自動開扉の釦をおして、床がぽっかりと穴があくと、その中へ少佐の身体を押しこんだ。
すぐその外に、まっ暗な空があった。漂流器にはまった少佐の身体は、ついに艇をはなれた。艇は、ものすごい落下速度がついているので、頭部を下にして急行列車のように少佐のそばをすりぬけて下へ落ちていった。
それから十五分の後、おそるべき第二の大爆発が起こって、第六号艇は無数の火の玉と化して空中にとび散った。
椿事の原因をとらえた倉庫員森もまた、その火の玉の一つとなったことであろう。
救う者、呪う者、魔力をふるう者。
大宇宙を舞台に、奇々怪々事はつづく。……
危機一歩まえ
三根夫少年も帆村荘六探偵も、第六号艇のいたましい最後を涙とともに見送った。
「おじさん。第六号艇は自然爆発したのでしょうか。それとも誰か悪い人がいて爆発させたのでしょうか」
三根夫は、どうもようすがあやしいので、帆村にたずねた。
「さあ。いまのところ、どっちともわからないが」
と帆村探偵は首を横にふり、すこし考えているようすだったが、
「うむ、そうか。これは気をつけないといけない」
といって、顔色を白くした。
「やっぱり悪人がいるんですか」
「うむ。ミネ君にいわれて気がついたんだが、六号艇の爆発した中心部だね、その中心部の位置を考えると、どうしても自然爆発が起こったとは思われない。あそこはぜったい安全な場所だった。……だから、時間の関係から考えても、これは時限爆薬で爆発させられたものと見て、まずたいしたまちがいはないだろう」
さすがは名探偵だ。
爆発がどの場所に起こったかを見落としはしなかった。そして爆発の場所から考えて、それは自爆でなく、他人の陰謀によってこの大惨劇がひきおこされたことを推理したのだ。
このことは、あとに六号艇の艇長ゲーナー少佐が救助されたけっかはっきりした。
空間漂流器に身体をまかせて、極寒のまっくらな空間をあてもなくただよっていた六号艇の乗組員たちは、六名の犠牲者をのぞいて、全部僚艇に助けられた。
そのうちの一名は、みずから艇とともに運命をともにした倉庫員のモリであり、他の五名は、六号艇が爆発したとき、すごい勢いでまわりに飛び散った艇の破片によって、不幸にも漂流器をこわされ、あるいは身体に致命傷をうけた人びとだった。
その救助のときはそうかんだった。
九台の僚艇は、全部が六号艇の遭難現場のまわりに集まってきて、四方八方から六号艇のほうへ強力なる照空灯で照らした。あたりは光りの海と化した。六号艇からふきでる火災の煙が、地上の場合とははんたいに、照明をたすけた。顕微鏡で見たみじんこのような形をした空間漂流器が、明かるく光る。それを目あてに、救助作業がはじまったのだ。
しかし六号艇が爆発して飛び散ったときには、みんなひやっとした。それは破片がとんできてじぶんの艇をぶちこわしはしないだろうかと、きもをひやしたのだった。だがさいわいにも、それによる損傷はなくてすんだ。
ゲーナー少佐は、司令艇に救助された。
救援隊長のテッド博士は、少佐をむかえて、しっかり抱きしめた。
「けがはないのかね」
「たいしたことはないです」
「ほう。やっぱりけがをしているんだね。ドクトル、手当をたのみます」
医局長がすぐに手当にかかった。両手と左脚をやられていた。手のほうは火傷だ。
「隊長、倉庫員のモリが重大なる発見をしたのです。それは……」
と、少佐は傷の手当をうけおわるのが待っていられないというようすで、艇長に報告をはじめた。
艇長テッド博士は、非常におどろいた。
そばに、それを聞いていた人たちも顔色をかえた。
聞きおわった艇長は、何おもったか、ものをもいわず、いそいでそこを去った。そして司令室にはいった。
「いそぎの命令だ、各艇に時限爆薬がかくされているおそれがある。各艇はすぐさま艇内を全部しらべろ。六号艇の爆破の原因は、時限爆薬のせいとわかった」
隊長は僚艇に無電で命令をつたえた。
たしかにそのおそれがあった。六号艇が特別にねらわれる理由はないようだ。だから時限爆薬は、他の九台の艇にもかくされているおそれはじゅうぶんであった。
この命令をうけた各艇は、ふるえあがった。そんなぶっそうなものがあっては一大事だ。各艇は総員を集め、大至急で艇内の捜査をはじめた。
そのけっか、隊長テッド博士のはやい命令がよかったことがわかった。というのは、第二号艇と第三号艇と、それから博士が乗組んでいる司令艇と、この三台の艇内に、やはり時限爆薬がかくされていたことがわかった。
そのあぶないお客さまは、ただちに艇外に放りだされた。それは木箱にはいっていて、機械の部分を入れた箱のように見えた。もう五分間探しあてるのがおそかったら、司令艇は六号艇とおなじ運命におちいったことであろう。じつにあぶないところであった。
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