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怪星ガン(かいせいガン)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-24 11:00:22  点击:  切换到繁體中文


   恐怖きようふの敵


「たいへんだ。これは、たいへんなことになりましたよ、三根夫さん」
 ハイロは顔色をかえて、三根夫にいった。
「どうしたの。第一級の非常事態が起こったというが、それはどんな事態なの」
 三根夫はたずねた。
「第一級の非常事態というのは、わたしたちがいまこうして住んでいる星が破壊の危険にさらされているということなんです」
「ガン星が破壊するって。それはなぜ破壊するの」
「なぜか、ここではわかりません。はやく下へおりましょう。わたしもすぐじぶんの配置につかなくてはならないんです」ハイロは三根夫をうながして、天蓋のところから階段をおりかかる。
 するとうしろにガスコの声が聞こえた。
「わっはっはっはっ。ざまを見ろ。どいつもこいつも、つらをしてえられるだけ吠えろというんだ。宇宙第一の自由星だなんていばっていて、このざまは何だ」
 三根夫はハイロの腕をひきとめて、ガスコの無礼きわまる悪口をがまんして聞き入った。
「怪星ガンがなんだい。ガンマ和尚おしょうがなんだい。おれがちょっと宇宙の一角へむけて信号すればたちまちガン星は死相しそうをあらわす。ふふン、おれの力も、こうなるとなかなかたいしたものだぞ」
 ガスコは、好きなことをしゃべり散らしている。三根夫はたいへん腹が立った。
「ハイロ。ちょっとここに待っていてくれたまえ」
「えッ。どうするんですか三根みねさん」
「どうするって、大悪人ガスコをあのままにしておけるものか。あいつはスパイを働いているのにちがいない。あいつはさっき発令された非常事態に深い関係を持っているのだ。ね、ほら。あいつの持っていた長い筒ね、あれは信号灯だよ。あれを使って、このガン星の中にもぐりこんでいる陰謀団に合図をしていたのにちがいない。すぐ取押えて、つきだしてやらねばならない」
 三根夫は、ガスコが地球人のくせに、こんなところで地球人のつらよごしになるようなことをして、すこしも恥じないのをこのまま見のがしておくことはできなかった。
「いや、それはよしたほうがいい。ここでガスコをおさえると、わたしたちがなぜこんなところへまぎれこんでいたかと、ぎゃくにこっちが牢の中へぶちこまれますよ、それよりも、一刻もはやく下街したまちへもどることにしましょう」
 ハイロのいうことは、理屈にかなっている。三根夫は腹が立って立って、ガスコをなんとかしないと腹がおさまらなかったが、このハイロのことばにしたがわないわけにいかなかった。
 二人は階段をおりた。吊り橋のような廊下には、ガン人たちが真剣な顔付になって、あるいは左へ走りあるいは右へ走りして、大混乱をきたしている。
「さあ、はやくヘリコプターのところへいきつかないと、誰かに使われてしまうかもしれない。さあ、はやく」
 ハイロはそういって、三根夫の手を痛いほど握ると、人波をわけて矢のように走った。
 走りながら三根夫は、この非常事態がどうして起こったのか、どんな状況なのかを知りたいと思って聞き耳をたてながら走る。その間にかれは切れぎれながら次のような短かいことばを耳にした。
「ぐんぐん追いついてくるそうな。こっちはスピードがでない。いずれ追いつかれてしまうよ」
「……また襲われるのか。あの賊星ぞくせいとはもう縁がきれたと思っていたんだがなあ」
「……このまえの賊星プシではないらしいっていうことだぞ。プシ星よりは十数倍も大きな構築星こうちくせいだってよ」
「……分った、わかった。竜骨星座りゅうこつせいざ生まれのアドロ彗星すいせいだ。もうだめだ。あいつに追っかけられては、もうどうにもならん」
「アドロ彗星の尾に包まれてしまえば、一億五千度の[#「一億五千度の」はママ]高温に包まれるわけだからぼくたちの身体はもちろん、構築物も工場も何も、みんなたちまちガス体となってしまうだろう。ああ、おそろしい目にあうものだ」
「……そう悲観することはない。ガンマ王もそこはよく研究してたいさくが考えてあるはずだ。ほら、耳をすましてあれを聞け。エンジンの音が強くなったじゃないか。わがガン星もいまずんずんスピードをあげているぞ」
「アドロ彗星に追いつかれるか、うまく逃げられるか。はあ、これはどうなることか。やっぱりアドロ彗星にくわれてしまうんじゃないかなあ」
「けっきょく、ちえくらべさ。ガン人のちえと、アドロ彗星人のちえと、どっちが上かということさ」
「それははっきりしているよ。けたちがいだ。まえからアドロ彗星人は宇宙を支配するだろうといわれているじゃないか」


   急ぐハイロ


 三根夫とハイロは、ようようにヘリコプターをつないであるところへいきついた。
 ところが、三根夫のヘリコプターは、見えなかった。誰かが使って、乗っていったものらしい。
「困った。一つしかない」ハイロが顔をしかめた。
「一つでもいい。ハイロ君。きみが乗りたまえ」
「だって、三根夫さんをここに残しておけないよ」
「いいんだ。ぼくはきみのヘリコプターの下にぶらさがっておりる。下街したまちへつくまでぐらい、なんとかがんばりとおすよ」
「息がとまっても、しりませんよ」
「そのときには、降下スピードをすこしゆるめてもらうさ」
「よろしい。それでは早くこれへ……」
 ハイロはヘリコプターの座席にはいった。かれはじぶんの身体をゆわく皮バンド四本をじぶんの用には使わないで、外にらした。そしてすばやく金具のところを結びあわせると、三根夫のほうを見て、皮バンドをたたいてみせた。
 三根夫はりょうかいした。そして尻ごみすることなく、そのバンドの中へ両脚をつっこんだ。
「よろしい。出発だ」と、三根夫はバンドを両手でつかんだ。
「でかけますよ」ヘリコプターは吊り橋をはなれて、すうすうと下へまいおりていった。
 それから下界へ到着するまでの時間の長かったことといったら、ハイロは座席からのびあがって、下にぶらさがっている三根夫の息づかいや、顔色を見ながらスピードを調節していったんだが、マスクも酸素管もない三根夫にとっては、この降下も楽ではなかった。かれはしばしば息がとまりそうになり、心臓はその反対にめちゃくちゃにはやくうった。でもかれはがんばりとおした。もっとも半分ばかりおりたあたりで楽になった。それから下はもちろんたいへん楽であった。
「やれやれ、助かった」
 と、三根夫はため息をついた。そしてれいの大事な撮影録音機の包みが、ちゃんとじぶんの腰にぶらさがっているのをたしかめて安心した。下界げかいへおりると、さいわいにとがめられないで、地下へもぐることができた。すべり台式の降下路こうかろにとびこんですーイすーイと地階を何階も通り越して、おりていった。そうしてやっとじぶんたちの居住区きょじゅうくまでたどりついた降下路を街へでてみると、どうしたわけであろうか、人ッ子ひとり見えない。まるで、死んだ町のようであった。
「誰もいないよ。これはいったいどうしたのだろうかね、ハイロ君」
「わたしはおくれてしまったんですよ」
「おくれてしまったとは……」
「市民たちは、すでにめいめいの配置についてしまったのです。わたしは、大変におくれてしまった」
「でも、この町をからっぽにしておくことは危険じゃないかね。やはり警備員をおかないと安心ならないと思うがね」
「いや、こんなところなんか、どうでもいいのですよ。市民たちの多くは、機関区のほうへいってしまったんですよ」
「機関区だって」
「ほら、三根夫さんをはじめに案内していって見せたじゃありませんか。最地階に近く動力室や機関室があったことを忘れましたか」
「ああ、あれか。どうしてみんなあそこへ集まるのかね」
「だってそうでしょう。わが星は、いま最大のスピードまであげて宇宙を飛ばなくてはならないのです。スピードがあがらなければ、いっさい生物も機構も、そしてすばらしいガン星の歴史もまったく失われてしまうのです」いつもはのんき者に見えていたハイロが、深刻な表情を見せる。
「あれだね、さっきちょっと聞いたけれど、本星はアドロ彗星に追っかけられているんだそうだね」
「それを知っておいででしたか。三根夫さん。わたしはここでお別れしますよ。おくればせながら、わたしは配置へいそがねばなりません」ハイロはかけだそうとする。
「おっと、ハイロ君。ちょっと待ってくれたまえ。きみの配置はどこなの。あとでたずねていきたいから……」
「だめです。とてもこられませんよ。たとえきても、地球人の肉体では、生きていることができない場所です」ハイロはおそろしいことをいう。
「へえーッ。地球人は生きていられないというのかい。まるで地獄みたいなところなんだね。そういわれると、ますます聞きたくなる。いったいどこなんだい」
「もうお別れです。さようなら、三根夫さん。あなたはわたしをかわいがって、いろいろおもしろいものをくれました」
「お別れなんて、そんなことをいうと心細くなるよ」
「地球人の生命はもろい。わたしたちにはたえられる熱にも電気にも、光りにも空気密度にも、地球人の体質ではたえられない。お気の毒でなりません」ハイロは、さっきから妙なことをいっている。
「なにをいっているんだい、ハイロ君。そんなことよりも配置はどこなんだか、はやく教えたまえ」
「原子熱四百万度管区第十三区です。では三根夫さん。あなたの幸福と平安を祈ります」
「あッ、待ちたまえ」と、三根夫は、ハイロのほうへ腕をのばしたけれど、ハイロはもうふりむこうともせず、いそいでかけだしていった。そうしてその姿は、地階の下深くつうずる『動く道路』の乗り場をしめしている傘状かさじょうの塔のなかへ消えた。ハイロがいったように、これがかれと三根夫のさよならとなったことは、後になってそれと思いあたるのであった。

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