ストロボ鏡の発明
いつの間にか、地球をうかがっていた、不逞の宇宙魔ミミ族のことは、放送電波にのって全世界へひびきわたった。そして世界中の人間は、はじめて耳にする怪魔ミミ族の来襲に色を失う者が多かった。
「もうだめだ。ミミ族というやつは、地球人類より何級も高等な生物なんだから、戦えばわれら人類が負けるにきまっているよ。こうとしったら、穴倉でもこしらえて、食料品をうんとたくわえておくんだった」
「どこか逃げだすところはないかなあ、噴射艇にのって、ミミ族のおいかけてこない星へ移住する手はないだろうか」
などと、あいかわらず弱音をはく人間が、いわゆる文化国民の間に少くなかった。
そうかと思うと、てんでミミ族を甘く見ているのんきな連中もいた。
「ミミ族だって、地球人類をすぐ殺すつもりでやってきたわけじゃあるまい。なにか物資をとりかえっこしたいというんだろう。そんならこっちもミミ族のほしい物をだしてやって、交易をやったらいいじゃないか。喧嘩腰はよして、まずミミ族の招待会を開いて、酒でものませてやったらどうだ」
「そうだ、そうだ。ミミ族だって、地球人類だって同じ生物だ。話せばわかるにちがいない。ひとつ訪問団をこしらえて、ミミ族の代表者を迎えにいってはどうか」
「それがいいなあ。とりあえず僕は、ミミ族におくる土産物を用意するよ」
こんな連中も、多くではないが、のさばりでた。だが、こののんきな連中は、まもなく大きな失望に見舞われた。
それはミミ族の一隊が突然カナダのある町にあらわれて、その町を、住民ごとすっかり天空へさらっていってしまったという、驚くべき事件が起ったからであった。
もちろん警察飛行隊はすぐ出動して、嵐にまう紙屑のように、天空に吸いあげられていく町の人々や、木や、家や、牛や、馬や、犬などのあとをおいかけた。しかし一時間ばかりすると、どの飛行機ももどってきた。
彼らの報告は、きまって同じだった。あの奇妙な竜巻をおいかけていったが、そのうちどこへ消えたか、彼らの姿が全然見えなくなったそうである。そして晴れわたった青い空に、太陽だけがかがやいていたという。
こんな騒動が、世界のあちらこちらで起り、それはあとからあとへ世界中へ放送され、人々の恐怖は日とともにつのっていった。
ふしぎなことに、そういう事件が相ついで起っても、ミミ族は一ども姿を見せなかった。ミミ族の方では、よほど注意して、人類の目にふれることをさけたのである。
しかし、そうとは知らない騒動の町の学者たちは、帆村の報告した「ミミ族会見記」をうたがいだし、相ついで起る騒動も、じつは天災であって、ミミ族などという、宇宙生物のせいではないと力説する者さえでてくるしまつだった。
これに対して帆村荘六は、すぐには弁明しなかった。それというのが、彼はわが地球人類の目をくらますミミ族の裏をかいて、ミミ族の行動がはっきり見える器械――それを帆村は「電子ストロボ鏡」と名づけたが、その器械を設計し、その試作をいくつかやっては、新しく改良を加えていたから、たいへん忙しかったのだった。
この電子ストロボ鏡は、帆村の手によって、ついに完成せられた。そしてそれは大量生産にうつり、やがて各隊へくばられた。
この電子ストロボ鏡には、大小いろいろとあって、大きいのは天文台の望遠鏡くらいもあったし、一番小さいものは、手のひらに握ってしまえるほどであった。しかしその能力にはかわりはなく、肉眼ではとても見えないものが、はっきり見えた。
このストロボ鏡の一番大きいものは、左倉少佐のところにあった。
それを参観にきたあるえらい軍人は、ストロボ鏡を通して、天空をのぞいてみてびっくりした。それもそのはずであった。一片の雲もなき晴れた大空に、楕円形の風船みたいなものが浮かんでおり、そしてよく見ると、その風船みたいなものの中に、蟻くらいの大きさの生物が、さかんに走りまわっているのが見えた。
「見えましたか。その楕円形のものが、帆村荘六の名づけた『魔の空間』です。それから中にうごめいているのは、ミミ族であります」
「ほんとうに本物が見えているのかね。この望遠鏡みたいなものの中に、なにか仕掛があって、絵でも書いてあるのではないか」
と、そのえらい軍人は、半分はじょうだんにまぎらわして、不審な顔をした。
「いや、絵がはりつけてあるわけではありません。絵でないしょうこには、ミミ族はしきりに活動しておりましょう」
「ふむ、なるほど、これは絵ではない。ふしぎだなあ。普通の望遠鏡では見えないものが、これで見るとちゃんと見えるのはどういうわけか」
「はあ。それはミミ族や楕円体は、たいへんはげしい震動をしているので、肉眼では見えません。しかしこの電子ストロボ鏡では、相手の震動がとまるところばかりを続けて見る仕掛になっているから、ちゃんと見えるのです。その原理は、ちょうどフイルム式の映画を映写幕にうつすときと似ています。いずれあとから、発明者の帆村荘六がくわしく御説明するでしょう」
帆村荘六の発明した、この電子ストロボ鏡は、ミミ族にとっておそるべき器械だった。
もはやミミ族は、この器械の前には姿をかくすことができなくなったのである。
こうしてミミ族は、帆村の発明のために、急に形勢不利となった。
戦はこれから
帆村荘六の発明した電子ストロボ鏡によって、今まで地球人類の目には見えなかったミミ族や、「魔の空間」がよく見えるようになって、人類はたいへん力を加えた。
だが、この電子ストロボ鏡の発明だけで、人類はミミ族を征服できるわけではなかった。帆村の発明は、敵の姿が見えるようになったというだけのことにすぎない。ミミ族を攻撃するには、もっとミミ族という怪生物を調べ、そしてミミ族が、どんな力に弱いかを知らなければならない。
帆村荘六が、山岸中尉の隊からはなれ、新しく作られたミミ族研究所長に就任したのは、この際まことに結構なことであった。
帆村は、山岸少年を連れていった。そのほかに、頭脳明晰な科学者を十数名集めて、このミミ族研究所は、いそがしく発足したのであった。
班長左倉少佐は、帆村にぜひ一日も早く、ミミ族の正体と弱点とを探しだしてくれるようにと頼んだ。左倉少佐は、山岸中尉から「魔の空間」脱出当時のすべての話を聞いて、今は帆村をぜったい信用しているのだった。そして帆村の研究のため、あらゆる便宜をはかる決心だった。
帆村は事実たいへん便宜をえた。海軍航空隊を出動させることなんか、全くすぐやってくれるし、宇宙線を通さない丈夫な箱――それはミミ族の檻に使うつもりだった――を作るのに、なかなか手まどると聞けば、隊の資材や労力を貸してくれるという風で、帆村のやりたいことや、欲しいものは、思いどおりにかなった。
そのために、帆村はいよいよミミ族と正面からぶつかる用意を、わずかあれから三箇月後に完了したのだった。帆村はそのことを報告するために、一日左倉少佐を訪ねたのであった。左倉少佐はたいへん喜んで、すぐ別室から山岸中尉を呼びよせ、二人で帆村の報告を聞くことにした。
「おかげさまで用意はととのいましたから、いよいよ明日から、ミミ族狩りをはじめます。また御支援を願わねばなりません」
帆村はミミ族狩りの決行を報告した。
「そうか。いよいよやるか。しかし相手は、人間ばなれのした恐しい奴だから、じゅうぶん気をつけるように……」
班長は注意を与えた。
「はい。じゅうぶん注意します」
「で、どういう風に、ミミ族狩りをするのか」
「は。ミミ族は、こちらに電子ストロボ鏡のあることを知らないらしく、好きなときに、空から地上へ「魔の空間」を近づけてきます。私はそのうちに、どこか内地の手ごろなところへ下りてくるやつを、攻撃してみるつもりです」
「そうか。で、攻撃兵器は……」
「いま、二種だけ用意してあります。一つは怪力線砲です。これはごぞんじのとおり、短い電磁波を使ったもの。もう一つは音響砲です」
「音響砲、それは初耳だなあ」
左倉少佐は、山岸中尉と顔を見あわせる。
「班長、その音響砲は、帆村君の最近の発明兵器です。なかなか有効です」
山岸中尉がにこにこして言った。
「私の発明したものには違いありませんが、大したものではありません。要するに特別の音響が、ホースから水がとびだすように、一本になって相手にかかるのです。この音響は、多くは人類の耳には聞えない超音波です。これを『魔の空間』にあびせると、『魔の空間』を震動させている機関に異状がおこり、そして『魔の空間』は墜落するのではないかと思うのです」
「なるほど、それは面白い考えだ」
「とにかく私の、いま持っている狙いは、『魔の空間』を撃墜するためには、『魔の空間』の原動力になっている、強くて周波数の高い震動を、なんとかして邪魔して停止させることと、もう一つは、ミミ族の生活力は宇宙線であるから、ミミ族を捕らえて、宇宙線の供給をだんだん少くしてゆくと、ミミ族はおとなしくなるだろうということと、この二つです。いかがですか」
帆村は、二人の顔を見くらべる。
「ミミ族のことは君にまかせるよ。われわれは戦闘を引き受ける。なあ、帆村君」
少佐はそういって微笑した。
「班長の信頼は大きい。帆村君、しっかり頼むよ」
「山岸中尉。少しは私の考えを批評してください」
「われわれには、よくわからないのだ。正直に言えばね。が、とにかく面白い狙いだと思う。それでやり抜くことにしたがいいなあ」
「そういってくだされば、大いにはげみがつきます」
帆村は、はじめて笑顔になった。
話はそれからいろいろとのびていったが、左倉少佐からも、帆村へ報告すべきことがあった。それは、いまも「魔の空間」にとどまっていると思われる、彗星一号艇の望月大尉たちにたいして、地上から、連日しきりに連絡をとっているが、まだ一度も連絡に成功しないこと、しかしミミ族は、こっちからの無電を聞いているらしく、時々奇妙な音響を聞かせること、それからもう一つの報告は、近くこの臨時研究班は解散し、それにかわって第一宇宙戦隊が編成せられ、左倉少佐が、その司令に就任することが内定しているというのであった。
「ほう、第一宇宙戦隊。いよいよ宇宙戦隊が誕生するのですね。それは結構なことだ。もちろんこれはミミ族と闘うためでしょうね」
「相手はミミ族だけではない。どんな相手であろうと、わが宇宙にけしからん野望をとげようとする者あらば、わが第一宇宙戦隊は容赦しないのだ」
左倉少佐は決然と言いはなった。
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