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暗号音盤事件(あんごうレコードじけん)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-24 10:28:17  点击:  切换到繁體中文



   城塞見物じょうさいけんぶつ


 その夜は、娘さんたちに約束のとおり、白木はホテルの広間を借りきって、豪華なダンスの会をもよおした。
 その盛会だったことは、あきれるばかりで、白木は始終鼻をうごめかしながら、溌剌はつらつたるお嬢さんや、小皺こじわのある夫人たちに、あっちへ引張られ、こっちへ引張られして、もみくちゃにされていた。あとから白木の弁解するところによると、これも重要なる作戦の一つで、われらの旅行目的をカムフラージュし、つはメントール侯の日常を知っている娘さんたちを味方につけて、翌日以後大いに利用しようという魂胆こんたんだったということである。
 さて、その翌朝よくあさとはなった。
 私たちは、軽装けいそうして、宿を出た。物好きに城塞見物じょうさいけんぶつをやって楽しもうという腹に見せかけ、ホテルのボーイに充分の御馳走や酒類を用意させて、おともについて来させる。その上に、例の溌剌たるお嬢さんがたを全部、招待して、まるで、移動する花園の中におもいありと、はたから見る者をしてたんぜしめたのであった。これくらいにやらなければ城塞の番人は、こっちに対して気を許すまいと思われたからであった。
 わが一行は、坂道をのぼっていった。
 陽はつよく反射して、咽喉のどが乾いてこたえられなかった。わが一行は、方々で小憩しょうけいをとった。そのたびにレモナーデだ、ハイボールだなどと、念の入ったことになる。だから、私たちが城塞の下についたころには、私たち二人をのぞいたあとの一行全部は、後遅おくれてしまったのであった。
「おい白木、これじゃしようがないじゃないか」
 と、私がいえば、白木はにやりと笑って、
「いや、これでいいんだよ。皆を待つふりをして、城塞を外からゆっくり拝見といこうではないか」
 と、彼は、太いステッキをあげて、爆弾にくずれた石垣のあたりを指すのであった。
「例の宝物は、どこにあるのか、君は見当がついているのかね」
「さあ、よくは分らないが、何としても、メントール侯の居間の中にあると思うんだ。もっとも、これまでにメントール侯の居間は、幾度も秘密の闖入者ちんにゅうしゃのために捜査されたらしいが、遂に一物も得なかったという。だから、宝物はまだ安全に、そこに隠されてあるのだと思う」
「ふーん、心細い話だ」私が、溜息ためいきと共にそういうと、白木は何を感じたか、私のそばへつと寄り、
「おい六升男爵。そうお前さんのように、何から何まで疑い深く、そして敗戦主義になっちゃ困るじゃないか。始めからそんな引込思案ひっこみじあんな考えでいっちゃ、取れるものも取れやしないよ」
「そうかしら」
「そうだとも。たしかにこの部屋にあるんだ。だから探し出さずには置かないぞ――とこういう風に突進していかなくちゃ、そこに顔を出している宝だって、見つかりはしないよ。引込思案はそもそも日本人の共通な損な性質だ」
 白木は一発、痛いところをついた。そうかもしれない。私たちは、従来の教育でもって、どうもそういう性格がむきだしになっていけない。取れるものも取れないと、白木の警告した点は、さすがに身にしみる。
「おーい、待ってよう」
 このときようやく、お嬢さん方の中で、一等健脚けんきゃくな一団が、私たちの視界の中までのぼってきた。
 それは五人ばかりの一団だった。
 先登せんとうけあがって来た娘の顔を見て、私の心臓は少し動悸をうった。それはバーバラという非常に日本人に近い顔立ちの娘で、昨日から私の目について、望郷病ぼうきょうびょうらしいものを感じさせられたのであった。
「ずいぶん、足が早いのね」
 と、バーバラは、他の四人をずんと抜いて、私たちの間に入ってきたが、そのときあたりをはばかるような小声こごえで、
「これは内緒ないしょよ。気をつけないといけないわ。この村のげじげじ牧師のネッソンが、見慣みなれない七八人の荒くれ男を案内して、下から登ってくるわ。あたし望遠鏡で、それを見つけたのよ」
「やあ、お嬢さん、それはありがとう。で、そのネッソンという奴は、荒くれ男を使って、どんな悪いことをするのかね」白木の顔が、ちょっとかたくなった。
「これまでに、あのげじげじ牧師の手で、密告されて殺されたスパイが、もう五十何名とやらにのぼっているのよ」
「へえ、そうかね。私たちは、スパイじゃないから安心なものだが、油断ゆだんのならない話だね。で、その七八人の荒くれ男というのは一体、どこの国の人たちかね」
「さあ、そんなこと、分らないわ――。あら、お友達が来るわ――その人達は、イギリスの海賊じゃないかしらと思うのよ。もう、何のお話も中止よ」
 バーバラがここまでいったとき、彼女の部隊は、にぎやかな声をあげて追いついた。
 白木は、このとき私にそっと合図をした。そこで私は、彼のうしろについて、そこに見える城塞じょうさい小門こもんをくぐった。白木は、私の方をふりむいた。そしてステッキを叩いていうには、
「これが買って来た軽機銃けいきじゅうだよ。どうやらこいつの役に立ちそうな時が来そうだ」といった。


   (なぞ)音叉おんさ


 メントール侯の居間いまに入りこんだ。
 番人はいたが、白木は石垣いしがきの方を指さして、あとからあのとおり娘たちがのぼってくるから、冷い飲物と、ランチをひろげる場所を用意してもらいたいというと、その番人は両手をひろげて、ほうと大きな声をたてると、にやにやと笑って、くりやの方へ駈けこんでいった。
 私たちは、そのすきに、曲った大きな階段を音のしないように登っていったのであった。
 メントール侯の居間は、さいわいにも破壊されずにあった。それは、聞きしにまさる豪華なものであって、中世紀この方の、武器や、酒のみ道具や、狩猟しゅりょう用具などが、いたるところの壁を占領していた。また大きな卓子の上には、古めかしい書籍が、堆高うずたかく積んであり、それと並んで皮でつくった太鼓のようなものが置いてあった。只一つ、新しいものがあるのが目についた。それは蓄音機ちくおんきであった。
「おい、早いところ宝さがしだ。君には、何か手懸りが見つかったかね」白木が、私にそういった。
「冗談じゃない。今部屋をぐるっと見廻したばかりだ」
炯眼けいがんな探偵は、さっと見廻しただけで、宝でも何でも、欲しいものを探しあてるのだけれど……」
「じゃあ、君がそれをやればいい」
「いや、今度ばかりは、おれは駄目さ。始めからそう思っていたし、それにこの部屋を一目見て断念したよ。おれには科学は苦手さ。君に万事ばんじを頼む」と、いつになく白木は、あっさりさじをなげて、窓のところへいった。
「頼まれても困るが……」
「おい、また敗戦主義か。それだけはよして貰いたいね」
「そうだったな。よろしい、一つ大胆だいたん仮説かせつを立てて、そこからはいり込むことにしよう」
 私は、腕を組んで、あらためて室内を見渡した。
「ええと、メントール侯が、充分安心して暗号簿あんごうぼをこの部屋に隠しているとしよう。すると、どんなところが安心のできる場所だろうか」
「おい、早くやってくれ」
「まあ、そうあわてるな」
「あわてはせんが、無駄に時間をつぶすな」
「ふーん、やっぱりあの蓄音機らしいぞ」
 私は、この部屋に於ける唯一ゆいいつの目ざわりな新時代の道具として、さっきから卓子テーブルの上の蓄音機に目をつけていた。そこで私は、わきへよって、蓋をあけた。
「おお」
 私はうなった。蓄音機は、最近誰かが音盤レコードをかけて鳴らしたらしく、廻転盤にはほこりのたまっている上に、指の跡がまざまざついているのであった。そして針があたりに散乱しているところから見て、この蓄音機を懸けた者は、たいへん気がせいていたのだと思われる。
「すると、誰か既に、この蓄音機に目をつけて、さんざん探した者があるんだな」
 私はちょっと失望したが、しかしすぐ気をとりかえした。あわて者は、肝腎かんじんの宝物に手をふれても、それと気がつかないだろう。まだみゃくがあるにちがいないと、私は合点がてんのいくまで調べる決心をした。
 私は、蓄音機をかけてみようと思った。廻転盤の上には、音盤レコードが載っていなかった。
「音盤はどこにあるのかしらん」
 私はあたりを見廻した。あった。
 音盤を入れる羊の皮で出来た鞄が、小卓子テーブルの上にのっていた。その中を調べてみると、音盤が十枚ほど入っていた。私はその一枚一枚をとりあげてラベルを見た。
 これはいずれも英国の有名な某会社製のものであって、曲目は「ホーム・スイートホーム」とか「英国々歌」とか「トロイメライ」とかいう通俗つうぞくなものばかりであった。
 私はその一枚をとって、蓄音機にかけてみた。ヴィオロンセロを主とする四重奏しじゅうそうで、美しいメロディーがとび出して来た。聴いていると、何だか眠くなるようであった。
 しかし別に期待した異状はなかった。
「駄目だなあ」私は、次の音盤をかけた。これも異状なしであった。それから私は、また次へうつった。
 それは丁度ちょうど八枚目をかけているとき、とつぜん外で銃声を耳にした。と、それにかぶせて、若い女の悲鳴が起った。
「おい、なんだ。どうしたのか」
 私は白木の方をふりかえった。白木は窓のところに立ち、カーテンの蔭から、例のステッキに似せた軽機銃の銃口じゅうこう窓外そうがいにさし向けたまま、石のように硬くなっていた。
「こっちを射撃しやがった。だが命中せずだ。例のげじげじ牧師に案内されて来た曲者くせもの一行の暴行だ」
 といっているとき、またもや銃声が二三発鳴ったと思ったら、窓硝子ガラスが鋭い音をたてて壊れて下に落ちていった。
「おい、暗号は見つかったか」
 白木は、相変あいかわらず石のように硬い姿勢を崩さないで、私にきいた。
「まだだよ。もう少しだ。じゃ外の方は頼んだぞ」
 私はそう叫んで、あと二枚の音盤の調べにかかった。「ローレライ」に「ケンタッキー・ホーム」に「セレナーデ」に……と調べていったが、私は大きな失望にぶつかった。期待していた最後の二枚にも、遂に何の異状もなかった。暗号らしいものの隠されている徴候ちょうこうは、一向発見されなかったのである。
「そんな筈はないんだが……もし、蓄音機が暗号に無関係だとすると、これはもう簡単に手懸てがかりを発見することは不可能だ」私は失望して、白木の方を見た。
 白木は、はっと身をひいて、壁にぴたりと身体をつけた。又銃声と共に、彼の傍の窓硝子が水のように飛び散った。
 と、こんどは白木がひらりと身をひるがえして床の上に腹匐はらばいになると、例の機銃を肩にあてて遂に銃声はげしく撃ちだした。私の身体は、びーんと硬直した。
「おい、まだかね、まだ発見できないか」
 白木は叫ぶ。私は、はっとれに戻った。
「うん……もうすこしだ。頑張っていてくれ」
 私は、心ならずも嘘をつかねばならなかった。私は全身に熱い汗をかいた。ここですべてをあきらめてしまえば、これまでここに入りこんだヘボ密偵と同じことになる。私の頭の中には、蓄音機や音盤レコードやモールス符号やメントール侯爵の顔や島の娘の顔が、走馬灯そうまとうのようにぐるぐると廻る。
「何かあるにちがいないのだが……」私は室内をぶらぶら歩きはじめた。それから心を落ちつけ、目を皿のようにして、室内の什器じゅうきを一つ一つ見ていった。その間に、白木の撃ちだす銃声が、しきりに私の心臓に響いた。
「あっ、これかな……」
 私は、思わずそう叫んだ。暖炉だんろの上においてある音叉をとりあげた。それは非常に振動数の高いもので、ガーンと叩いても、殆んど振動音の聴えぬ程度のものだった。しかしその音叉にも別に異状はなかった。
「これも駄目か。が――、待てよ」
 そのとき私は、メントール侯が、いつも音叉おんさをもちあるいて、相手に歌をうたわせながら、音叉をぴーんといて耳をかたむけていたことを思い出した。と同時に、私は一種の霊感れいかんともいうべきものを感じて、再び蓄音機の傍によって音盤レコードをかけてみたのであった。
 蓄音機は再び美しいメロディーをかなではじめた。――私は、そのそばへ音叉を持っていって、ぴーんと弾いてみた。蓄音機から出てくる音楽と、音叉から出る正しい振動数の音とがたがい干渉かんしょうし合って、また別に第三の音――一しゅ異様いよううなる音が聴えはじめたのであった。が、それはまだ成功とはいえなかったけれど、白木の奮戦ふんせんまもられながら、これをくりかえしていくうちに、私はつい凱歌がいかをあげたのであった。「海を越えて」の音盤!
 その音盤をかけながら、音叉をぴーんと弾くと、音楽以外に顕著けんちょな信号音が、或る間隔かんかくをもって、かーんと飛び出してくるのであった。音叉を停めれば、それは消え、音叉をかければ、その音盤が廻っているかぎり、かーんかーんという音は響く。これこそ、時限じげん暗号というもので、音と音との間隔が、暗号数字になっているのであった。私は白木の傍へとんでいって、手短てみじかにこれを報告した。
「そうか、遂に発見されたか。うん、そいつは素晴らしい。それでこそ、日本人の名をあげることが出来るぞ。じゃそれを持って、早速さっそくずらかろう」
「大丈夫か、外から狙っている奴等の包囲陣ほういじんを突破することは……」
「なあに、突破しようと思えば、いつでも突破できるのだ。只、君が仕事の終るのを待っていただけだ。かねて逃げ路の研究もしておいたから、安心しろ」
 私は白木のことばを聞いて、大安心をした。そして早速さっそく宝物の音盤と、謎を解く音叉を、紙に包んだ。
「さあ、こっちへ来い」
 白木は、にっこり笑いながら、悠容ゆうようとせまらない態度でいった。そして私の腕をひったてると、かくドアを開いて、さあ先に入れと、合図あいずをした。
 危地突破きちとっぱについては、日頃からの白木の腕前を絶対に信頼していいであろう。今度もわれわれの勝利である。





底本:「海野十三全集 第7巻 地球要塞」三一書房
   1990(平2)年4月30日初版発行
初出:「講談雑誌」
   1942(昭和17)年1月号
入力:tatsuki
校正:浅原庸子
2003年3月23日作成
2003年5月11日作成
青空文庫作成ファイル:
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