您现在的位置: 贯通日本 >> 作家 >> 海野 十三 >> 正文

暗号数字(あんごうすうじ)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-24 10:25:56  点击:  切换到繁體中文

底本: 海野十三全集 第5巻 浮かぶ飛行島
出版社: 三一書房
初版発行日: 1989(平成元)年4月15日
入力に使用: 1989(平成元)年4月15日第1版第1刷
校正に使用: 1989(平成元)年4月15日第1版第1刷


底本の親本: 俘囚 其の他<推理小説叢書7>
出版社: 雄鷄社
初版発行日: 1947(昭和22)年6月5日

 

   帆村探偵現る


 ちかごろ例の青年探偵帆村荘六ほむらそうろくの活躍をあまり耳にしないので、先生一体どうしたのかと不審に思っていたところ、某方面からの依頼で、面倒な事件に忙しい身の上だったと知れた。最近にいたって、彼はずっと自分の事務所にいるようである。某方面の仕事も一段落ついたので、それで休養かたがた当分某方面の仕事を休ませてもらうことに話がついたといっていた。
 僕は、実はきのう、久しぶりで或るところで帆村荘六に会った。
 彼は例の長身を地味な背広に包んで、なんだか急に年齢としがふけたように見えた。顔色もたいへん黒く焦げて、例の胃弱らしい青さがどこかへ行ってしまった。色眼鏡を捨てて縁の太い眼鏡にかえ、どこから見てもじじむさくなった。そのことを僕が揶揄からかうと、彼は例の大きな口をぎゅっと曲げてにやりと笑い、
「ふふふふ、ちかごろはこれでなくちゃいけないんだ。街へ出ても田舎へ行っても、どこにでも行きあうようなオッサンに見えなくちゃ、御用がつとまらないんだよ。そういう連中の中に交って、こっちの身分をさとられずに眼を光らせていなくちゃならないんだからね。昔のように自分の趣味から割りだしたおしゃれの服装をしていたんじゃ、魚がみな逃げてしまう」
 と、俗っぽい服装の弁を一くさりやった。
 そこで僕は、彼がちかごろ取扱った探偵事件のなかで、特に面白いやつを話して聞かせろとねだったのであるが、帆村はあっさり僕の要求を一蹴いっしゅうした。
「諜報事件に面白いのがあるがね、しかし僕がどんな風にしてそれをあばいたかなんてことを公表しようものなら、これから捕えようとしている大切な魚がみな逃げてしまうよ」
 と、彼は同じことをくりかえし云った。
 そのような事件におどる魚は、そんなにはしっこいものであるのか。そういう問にたいして帆村荘六は、
「そういう事件に登場する相手は非常に智的な人物ばかりなんだ。だからしちょっとこっちが油断をしていれば、たちまち逆に利用されてしまう。全く油断も隙もならないとはこのことだ。そして相手はみんな生命がけなんだから、あぶないったらないよ。しかも相手の人数は多いし、組織はすばらしくりっぱで、あらゆる力を持っている。そういう相手に対し、われわれ少人数でぶつかって行くんだから、本当に骨が折れる」
「なんかその辺で、差支さしつかえない話でも出てきそうなものじゃないか」
 と僕がすかさず水を向けると、彼は新しいたばこに火をつけながら、
「うん、一つだけ話をきかせようかな。これは八、九年前に僕自身が自演した失敗談だ。例の手剛てごわい相手どもが如何に物を考えてやっているかという一つの材料になると思うよ。しかも僕としては、いまだかつて、これほど頭をひねった事件はなかったのだ。脳細胞がばらばらに分解しやしないかと思ったほど、いやもう頭をつかった。――しかも後でふりかえってみると、実に腹が立って腹が立ってたまらないくらい、僕ひとりで独楽こまのようにくるくる廻っていたという莫迦莫迦ばかばかしい精力浪費事件なのさ」
 帆村はそういって、心外でたまらぬという風に大きなくちびるをぐっと曲げた。
 ぜひ聞かせてもらいたいというと、彼は、
「うん、話をするが、この事件は結局いくら莫迦莫迦しくったって、さっきもいうとおり僕が取扱った事件の中で一番骨身をけずって苦しんだ事件なんだから、そこに深甚なる同情を持って君もゆっくり考えながら終りまで黙って聞いてくれなくちゃ困るよ」
 と、いつになく彼は僕に聞き手としての熱意を強いるのであった。
 もちろん僕は大いに謹聴すると誓ったが、これから思うと、その事件において帆村は、よほど、にがにがしい苦杯をめたものらしい。
 以下、帆村の物語となる。


   秘密の人


 恐らく、あの頃から後の数年が、一番多種多様の諜報機関が、国内で活動した時期だと思う。国際関係のものは勿論のこと、営利専門のものもあるし、情報通信のもの、経済関係のものなどと、ずいぶんいろいろの諜者ちょうじゃが活躍をしていた。時には同士討どうしうちもあって面白いこともあった。
 およそ相手方の諜者にやらせてならぬことは、こっちの秘密を知られることと、これを相手方の本部へ通達されることの二つである。なかでも後者に属する通信であるが、これに対しては、水も洩らさぬ警戒をしなければならなかった。
 あらゆる秘密通信機関を探しだして、これを諜報者の手から取上げることも、焦眉しょうびの急を要することだった。幸いわが国の通信事業は官庁の独占または監督下にあったため、比較的取締に都合がよかったし、また秘密通信機がコツコツとモールス符号を送りだしてもすぐそれを探しあてるほどの監督技術をもっていたから、これも都合がよかった。その当時、そういう秘密通信機関で摘発され、或いは発見されたものの数はすこぶる多い。
 帆村荘六が事務所に備えつけていた最新式の短波通信機も当局の臨検にあい、もちろんのこと押収の議題にのぼったけれど、当時彼は既にもう某方面の仕事を命ぜられていたので、その方に必要なる道具であるとして幸いにも押収を免れた。そのとき帆村は、この短波通信機が此処ここへ来てそれほど貴重なものとなったとは認識していなかったけれど、後から聞いた話によると、民間機でその当時押収を喰わなかったものとては、帆村機の外に殆んどなかったとのことである。当時帆村はそういう事態を、それほどまで深刻に認識していなかったのだ。もちろん誰かからそういう説明を聞けばよく分って警戒もしたであろうが、事実説明はなかったとのことである。
 さて或る日、帆村の事務所へ電話がかかってきた。大辻おおつじという助手が出て、相手の名前を訊ねたところ、貴方は帆村氏かという。大辻助手が、私は主人の帆村ではないと応えると、相手は帆村氏を電話口へ出してくれといって、なかなか身柄を明かさない。そこで大辻はその由を帆村に伝えたが、まあこんな風な電話のかかって来方は事件依頼主が身柄を秘したいときによくやる手で、それほど大したことではなかった。
 入れかわって帆村が電話口に出てみると、相手はまた入念に帆村であることを確かめた上で、
「――実は、こっちは内務省なんですが、秘密に貴下の御力を借りたいのです」
 と、始めて身柄を明かした。
 そういう官庁とは、はじめての交渉であったけれど、官庁のことゆえ、帆村は助力をしてもいいが、と一応承諾の用意があることを明らかにし、その依頼事件の内容について訊ねた。
 すると相手は、
「いや、もちろん電話ではお話できませんから、お会いしたい」
 という。
「ではいつそちらへ伺いましょうか」
 と帆村が訊ねると、
「なるべく早いことを希望します。しかしこっちへお出でになると、いろいろな人物も出入していることだしするから、目に立っていけません。だから外でお目に懸りましょう。それには、こうしてください」
 といって、木村氏と名乗るその役人は、帆村に対し、今から三十分後、日比谷ひびや公園内のどこそこに立っていてくれ、すると自分はこれこれの番号のついた自動車に乗ってそこを通るから、そこで車に一緒にのってくれるように、あとはこっちは委せてくれということだった。帆村は承知の旨を応えて、電話を切った。
 大辻助手には、すぐに出懸けるからと前提して、電話の内容を手短かに話をし、帆村がどこに連れてゆかれるかを確かめるため、適当に車をもって公園の中に隠れており、うまく尾行をするように、そして送りこまれたところが分れば、すぐに事務所に戻っているように、またそれから一時間経って、帆村からなんの電話も懸ってこないときは、すぐさま飛びこんでくるように申し渡して、事務所を出たのであった。というのも、官庁は別に怪しくなくても、いつ悪者どもが官庁の御用らしく見せかけて、こっちに油断をさせないでもないからのことだった。
 帆村は十分の仕度をして、木村氏にいわれたとおり、三十分のちには日比谷公園の所定の場所に立っていた。
 それから五分おくれて、形は大きいセダンではあるが、型は至極古めかしい自動車がとおりかかった。なるほど一目でそれと知れる官庁自動車だった。ラジエーターの上には官庁のマークの入った小旗がたてられていた。
「ああこれだな」
 と思った折しも、車が帆村の前にぴたりと停り、中にいた四十がらみの鼻下に髭のある紳士が帆村の方へ顔をちかづけて、
「木村です。さあどうぞ」
 と、柔味のある声音で呼びかけた。
 帆村はそのまま車内の人となった。
 そして彼は、木村氏の案内によって築地つきじの某料亭の門をくぐったのであった。時刻は丁度午後三時十七分であった。

[1] [2] [3] [4] [5] 下一页  尾页


 

作家录入:贯通日本语    责任编辑:贯通日本语 

  • 上一篇作家:

  • 下一篇作家:
  •  
     
     
    网友评论:(只显示最新10条。评论内容只代表网友观点,与本站立场无关!)
     

    没有任何图片作家

    广告

    广告