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吉原新話(よしわらしんわ)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-23 10:57:55  点击:1161  切换到繁體中文



       十七

「話してる私も黙れば、聞いている人たちも、ぴったり静まる……
 と遣手やりてらしい三階の婆々ばばあの影が、蚊帳の前を真暗まっくらな空の高い処で見えなくなる、――とやがてだ。
 二三度続け様に、水道尻居まわりの屋根近やねぢかな、低い処で、からすいた。夜烏も大引けの暗夜やみだろう、可厭いやな声といったら。
 すたすたとけたたましい出入りの跫音あしおと、四ツ五ツ入乱れて、駆出す……馳込はしりこむといったように、しかも、なすりつけたように、滅入めいって、寮のかどあわただしい。
 私のたもとを、じっと引張って、
(あれ、照吉ねえさんが亡くなるんじゃなくッて)ッて、少し震えながらお三輪が言うと、
(引潮時だねちょうど……)と溜息ためいきをしたは、油絵の額縁をこしらえる職人風の鉄拐てっかな人で、中での年寄だった。
 婦人おんなの一人が、
(姉さん、姉さん、)
 と、お三輪を、ちょうどその時だった、呼んだのが、なぜか、気が移って、今息を引取ろうという……照吉の枕許に着いていて言うような、こう堅くなった沈んだ声だった。
(ははい、)
 とこれもかすかにね。
 浜谷ッて人だ、その婦人は、お蘭さんというのが、
(内にお婆さんはおいでですか。)
 と聞くじゃないか。」
「まあ、」と梅次は呼吸いきを引く。
 民弥はしずか煙管きせるを置いて、
「お才さんだって、年じゃあるが、まだどうして、あねえで通る、……婆さんという見当では無い。みんな、それに、それだと顔は知っている。
 女中がわりに送迎おくりむかえをしている、ぜんに、それ、柳橋の芸者だったという、……耳の遠い、ぼんやりした、何とか云う。」
「お組さん、」
いき年増としまだ、可哀相に。もう病気であんなになってはいるが……だって白髪しらがの役じゃ無い。
(いいえ、お婆さんは居ませんの。)
(そう……)
 と婦人が言ったっけ。附着くッつくようにして、床の間の傍正面わきしょうめんにね、丸窓を背負しょって坐っていた、二人、背後うしろが突抜けに階子段はしごだんの大きな穴だ。
 その二人、もう一人のが明座ッてやっぱり婦人で、今のを聞くと、二言ばかり、二人で密々ひそひそと言ったが否や、手を引張合ひっぱりあった様子で、……もっとも暗くってよくは分らないが。そしてスーと立って、私の背後うしろへ、足袋の白いのがさっと通って、香水のかおりが消えるように、次の四畳を早足でもって、トントンと階下したへ下りた。
 また、みんな、黙ったっけ。もっとも誰が何をして、どこに居るんだか、暗いから分らない。
 しばらく、たもとの重かったのは、お三輪がしっかり持ってるらしい。
 急にあがって来ないだろう。
階下したじゃ起きているかい。)
(起きてるわ、あの、だけど、さあちゃんは照吉さんのとこへちょっと行ってるかも知れなくってよ。)
(何は、何だっけ。)
(お組さん、……ええ、火鉢のとこに居てよ。でも、もうあの通りでしょう、坐眠いねむりをしているかも分らないわ。)
(三輪ちゃんか、ちょっと見てあげてくれないか、はばかりが分らないのかも知れないぜ。)と一人気を着けた。
(ええ、)
 てッたが、もう可恐こわくッて一人では立てません。
 もう一ツ、袂が重くなって、
(一所に……兄さん、)
 と耳のとこへ口をつける……頬辺ほっぺたひやりとするわね、びんの毛で。それだけ内証ないしょのつもりだろうが、あのだもの、みんな、聞えるよ。
(ちょいと、失礼。)
(奥方に言いつけますぜ。)と誰か笑った、が、それも陰気さ。」

       十八

「暗い階子はしごをすっと抜ける、と階下した電燈でんきだ、お三輪はさっと美しい。
 見ると、どうです……二階から下して来て、足の踏場も無かった、食物、道具なんか、掃いたように綺麗に片附いて、かどを閉めた。節穴へあかりが漏れて、古いから森のよう、下したしとみ背後うしろにして、上框あがりがまちの、あの……客受けの六畳の真中処まんなかどころへ、二人、お太鼓の帯で行儀よく、まるで色紙へ乗ったようでね、ける、かな、と端然きちんと坐ってると、お組が、精々気を利かしたつもりか何かで、お茶台に載っかって、ちゃんとお茶がその前へ二つ並んでいます……
 お才さんは見えなかった。
 ところが、お組があれだろう。男なら、こつでなり、勘でなり、そこはばつも合わせようが、何の事は無い、松葉ヶやつの尼寺へ、振袖の若衆わかしゅが二人、という、てんで見当の着かないお客に、不意に二階から下りて坐られたんだから、ヤ、妙な顔で、きょとんとして。……
 次の茶のから、敷居際まで、擦出ずりだして、煙草盆たばこぼんにね、一つ火を入れたのを前に置いて、御丁寧に、もう一つ火入ひいれに火を入れている処じゃ無いか。
 座蒲団ざぶとんは夏冬とも残らず二階、長火鉢の前の、そいつは出せず失礼と、……煙草盆を揃えて出した上へ、団扇うちわを二本の、もうちっとそのままにしておいたら、お年玉の手拭てぬぐいの残ったのを、上包みのまま持って出て、別々に差出そうという様子でいる。
 さあ、お三輪の顔を見ると、嬉しそうに双方を見較べて、ほっ一呼吸ひといきいた様子。
(才ちゃんは、)
 とお三輪が、調子高に、直ぐに聞くと、さきへ二つばかりゆっくりと、うなずき頷き、
(姉さんは、ちょいと照吉さんの様子を見に……あの、三輪ちゃん。)
 と戸棚へ目をって、手で円いものをちらりとこしらえたのは、菓子鉢へ何か? の暗号あいず。」
 ああ、病気に、あわれ、耳も、声も、江戸のはりさえ抜けたさまは、のりを売るよりいじらしい。
「お三輪が、笑止そうに、
(はばかりへおいでなすったのよ。)
 お組は黙ってかぶりを振るのさ。いいえ、と言うんだ。そうすると、成程二人は、最初はじめッからそこへ坐り込んだものらしい。
(こちらへいらっしゃいな。)とその一人が、お三輪を見て可懐なつかしそうに声を懸ける。
(佐川さん、)
 とひどく疲れたらしく、弱々とその一人が、もっとも夜更しのせいもあろう、髪もぱらつく、顔色も沈んでいる。
(どうしたんです。)と、ちょうどい、その煙草盆を一つ引攫ひっさらって、二人の前へ行って、中腰に、敷島を一本。さあ、こうなると、多勢の中から抜出ぬけだしたので、常よりは気が置けない。
(頭痛でもなさるんですか、お心持が悪かったら、蔭へ枕を出させましょうか。)
(いいえ、別に……)
(御無理をなすっちゃ不可いけません。何だかお顔の色が悪い。)
(そうですかね。)とお蘭さんが、片頬かたほぐように手を当てる。
(ねえ、貴方あなた、お話しましょう。)
(でも……)
(ですがね、)
 とちらちらと目くばせがひらめく、――言おうか、言うまいかッて素振そぶりだろう。
 聞かずにはおかれない。
(何です、何です、)
 と肩を真中まんなかへ挟むようにして、私が寄る、と何か内証ないしょの事とでも思ったろう、ぼけていても、そこは育ちだ。お組が、あのに目で知らせて、二人とも半分閉めた障子の蔭へ。ト長火鉢のさしの向いに、結綿ゆいわた円髷まげが、ぽっと映って、火箸が、よろよろとして、鉄瓶がぽっかり大きい。
 お種さんが小さな声で、
(今、二階からいらっしゃりがけに、物干の処で、)
 とすこし身をすくめて、一層低く、
(何か御覧なさりはしませんか。)
 私は悚然ぞっとした。」

       十九

「が、わざと自若じじゃくとして、
(何を、どんなものです。)って聞返したけれど、……今の一言で大抵分った、婆々ばばあが居た、と言うんだろう。」
可厭いや、」と梅次は色を変えた。
「大丈夫、まあ、お聞き、……というものは――内にお婆さんは居ませんか――ッて先刻さっきお三輪に聞いたから。……
 はたして、そうだ。
(何ですか、お婆さんらしい年寄が、貴下あなた、物干からのぞいていますよ。)
 とまた一倍滅入った声して、お蘭さんが言うのを、お種さんが取繕うように、
(気のせいかも知れません、多分そうでしょうよ……)
(いいえ、たしかなの、佐川さん、それでね、ただ顔を出して覗くんじゃありません。ふくろう見たように、膝を立てて、しゃがんでいて、窓の敷居の上まで、物干の板からそっと出たり、入ったり、)
(ああ、可厭いやだ。)
 と言って、揃って二人、ぶるぶると掃消はらいけすように袖を振るんだ。
 その人たちより、私の方がたまりません。で無くってさえ、蚊帳かやの前を伝わった形が、昼間のくらがり坂のにていてたまらない処だもの、……烏はく……とすぐにあの、寮のかどで騒いだろう。
 気にしたら、どうして、突然いきなりポンプでも打撒ぶちまけたいくらいな処だ。
(いつから?……)
(つい今しがたから。)
(全体ぜんにから、あの物干の窓が気になってしようがなかったんですよ。……時々、電車のですかね、いなびかりですか、薄いあおいのが、真暗まっくらな空へ、ぼっとしますとね、黄色くなって、大きな森が出て、そして、五重の塔の突尖とっさきが見えるんですよ……上野でしょうか、天竺てんじくでしょうか、何にしても余程遠くで、方角が分りませんほど、私たちが見てすごかったんです。
 その窓に居るんですもの。)
(もっとお言いなさいよ。)
(何です。)
可厭いやだ、私は、)
(もっととは?)
貴女あなたおっしゃいよ、)
 と譲合った。トお種さんが、となりのお三輪にもかくしたそうに、
(頭にね、何ですか、手拭てぬぐいのようなものを、ひらったく畳んで載せているものなんです。貴下あなたがお話しの通りなの、……佐川さん。)
 私は口が利けなかった。――無暗むやみとね、火入ひいれ巻莨まきたばこをこすり着けた。
 お三輪の影が、火鉢を越して、震えながら、結綿ゆいわた円髷まげ附着くッついて、耳のはたで、
(お組さん、どこのか、お婆さんは、内へ入って来なくッて?)
(お婆さん……)
 とぼやけた声。
(大きな声をおしでないよ。)
 とじれったそうにたしなめると、大きく合点がってん々々しながら、
(来ましたよ。)
 ときょとんとして、仰向いて、鉄瓶をでて澄まして言うんだ。」
「来たの、」
 と梅次が蘇生よみがえった顔になる。
「三人が入乱れて、その方へ膝を向けた。
 御注進の意気込みで、お三輪も、はらりとこっちへ立って、とんと坐って、せいせい言って、
(来たんですって。ちょいと、どこの人。)
 と、でも、やっぱり、内証で言った。
 胸から半分、障子の外へ、お組が、みんなが、油へ水をさすような澄ました細面ほそおもての顔を出して、
(ええ、一人お見えになりましてすよ。)
(いつさ?)
(今しがた、可厭いやからすが泣きましたろう……)
 いや、もうそれには及ばぬものはまた意地悪く聞える、と見える。
(照吉さんの様子を見に、お才はんが駆出してきなすった、かど開放あけはなしたまんまでさ。)
 みんなが振向いて門を見たんだ。」――

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