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夜叉ヶ池(やしゃがいけ)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-23 10:49:40  点击:  切换到繁體中文

 
学円 やあ、どぎどぎと鋭いな。(と鎌を見る。)
晃 月影に……(空へかざす)なお光るんだ。これでも鎌をぐことを覚えたぜ。――こっちだ、こっちだ。(と先へ立つ。)
百合 お気をつけ遊ばせよ。(とうるみ声にて、送り出づる時、可愛かわゆき人形袖にあり。)
晃 何だい、こんなもの。(見返る。)
百合 太郎がちょっとお見送り。(と袖でしめつつ)小父おじちゃんもお早くお帰りなさいまし、坊やが寂しゅうございます。(と云いながら、学円の顔をみまもり、小家こやの内を指し、うつむいてほろりとする。)
学円 (かばさまに手を挙げて、また涙ぐみ)御道理ごもっともじゃ、が、大丈夫、夢にも、そんな事が、貴女、(と云って晃に向きかえ)わしに逢うて、里心が出て、君がこれなり帰るまいか、という御心配じゃ。
百合 (きまりわるげに、つと背向せむきになる。)
晃 ああ、それで先刻さっきから……馬鹿、嬰児ねんねえだな。
学円 何かい、ちょっと出懸でがけに、キスなどせんでもいかい。
晃 旦那方じゃあるまいし、鐘撞かねつき弥太兵衛でがんすての。
と両人連立ち行く。
百合 (じっとしばし)まさかと思うけれど、ねえ、坊や、大丈夫お帰んなさるわねえ。おおおお目ン目をねむって、うなずいて、まあ、可愛い。(と頬摺ほおずりし)坊やは、おつぱをおあがりよ。かあさんは一人でお夕飯も欲しくない。早く片附けてお留守をしましょう。一人だと見て取ると、村の人がうるさいから、月はし、灯を消して戸をしめて。――
かまちにずッと雨戸を閉める。閉め果てると、戸のかぎがガチリと下りる。やがて、納戸のともしび、はっと消ゆ。
※(歌記号、1-3-28)出る化ものの数々は、一ツ目、見越みこし、河太郎、かわうそに、海坊主、天守におさかべ、化猫は赤手拭あかてぬぐい篠田しのだくずの葉、野干平やかんべい、古狸の腹鼓はらつづみ、ポコポン、ポコポン、コリャ、ポンポコポン、笛に雨を呼び、酒買小僧、鉄漿着女かねつけおんなの、けたけたわらい、里の男は、のっぺらぼう。
と唄――
与十よじゅう、竹の小笠おがさ仰向あおむけに、こいを一尾、嬉しそうな顔して見て、ニヤニヤと笑って出づ。
与十 でかい事をしたぞ。へい、雪さ豊年のしるしだちゅう、ひでりうおの当りだんべい。大沼小沼が干たせいか、じょんじょろ水に、びちゃびちゃと泳いだ処を、ちょろりとしゃくった。……(鯉跳ねる)わい! 銀のうろこだ。ずずんと重い。四貫目あるべい。村長様が、大囲炉裡おおいろりの自在竹に掛った滝登りより、えッとでっけえ。こりゃおらがで食おうより、村会議員のひげどのに売るべいわさ。やれ、鯉。髯どのに身売をしろじゃ。値になれ、値になれ。(鯉跳ねる)ふあ、銀の鱗だ。かねが光る――光るてえば、鱗てえば、ここな、(と小屋を見て)鐘撞かねつき先生がってしめた、神官かんぬし様の嬢様さあ、お宮の住居すまいにござった時分は、背中に八枚鱗が生えた蛇体だと云っけえな。……そんではい、夜さり、夜ばいものが、寝床をのぞくと、いつでもへい、白蛇しろへびなげいのが、嬢様のめぐり廻って、のたくるちッて、現に、はい、目のくり球廻らかいて火を吹いたやつさえあっけえ。……
鐘撞先生には何事もねえと見えるだ。まんだ、丈夫にきてござって、執殺とりころされもさっしゃらねえ。見ろやい、取っても着けねえ処に、銀の鱗さ、ぴかぴかと月に光るちッて、われがを、(と鯉をじろじろ)ばけものか蛇体と想うて、手を出さずば、うまい酒にもありつけぬ処だったちゅうものだ。――嬢様が手本だよ。はってな、今時分、真暗まっくらだ。舐殺なめころされはしねえだかん、待ちろ。(と抜足で寄って、小屋の戸の隙間すきまを覗く。)
蟹五郎かにごろう。朱顔、おどろなる赤毛頭あかげがしらの衣したる山伏の扮装いでたち山牛蒡やまごぼうの葉にていたる煙草たばこを、シャと横銜よこぐわえに、ぱっぱっと煙を噴きながら、両腕を頭上に突張つッぱり、トはさみ極込きめこみ、しゃがんで横這よこばいに、ずかりずかりと歩行あるき寄って、与十の潜見すきみする向脛むこうずねを、かっきと挟んで引く。
与十 いてえ。(と叫んで)わっ、(と反る時、鯉ぐるみ竹の小笠を夕顔の蔭に投ぐ。)ひゃあ、藪沢やぶさわ大蟹おおがにだ。人殺し!
し飛んでぐ。――蟹五郎すかりすかりと横に追う。
鯉七こいしち。鯉の精。夕顔の蔭より、するするとあらわる。黒白鱗こくびゃくうろこ帷子かたびら、同じ鱗形うろこがた裁着たッつけひれのごときひらひら足袋。くだんの竹の小笠に、おもておおいながら来り、はたとその小笠をなげうつ。顔白く、口のまわり、べたりとひげ黒し。蟹、これを見て引返す。
鯉七 (ばくばくと口を開けて、はっと溜息ためいきし)ああ、人間がひでりの切なさを、今にして思当った。それがしが水離れしたと同然と見える。……おお、大蟹、今ほどはお助け嬉しい、難有ありがたかったぞ。
蟹五郎 水心、魚心だ、その礼に及ぼうかい。また、だが、滝登りもするものが、何じゃとて、笠の台に乗せられた。
鯉七 里へ出る近道してな、無理なながれを抜けたと思え。石に鰭がつまずいて、膚捌はださばきのならぬ処を、ばッさりとくらった奴よ。
蟹五郎 こいつにか。(と落ちたる笠を挟んでおさえる。)
鯉七 鬼若丸以来という、難儀に逢わせた。百姓めが、うぬ。(と笠をむ。)
笠 おれじゃねえ、己じゃねえ。(と、声ばかりして蔭にて叫ぶ。)
鯉七 はあ、いかさまきさまのせいでもあるまい。助けてやろう――そりゃ行け。やい、稲が実ったら案山子かかしになれ!
と放す。しかけにて、竹の小笠はたはたとあおってげる。
はははは飛ぶわ飛ぶわ、南瓜畠かぼちゃばたけへ潜ってそろ
蟹五郎 人間の首が飛んださまだな、気味助きびすけ、気味助。かッかッかッ。(と笑い)鯉七、これからどこへ行く。
鯉七 むう、ちと里方へ用がある。ところで滝を下って来た。何が、この頃のひでりで、やれ雨が欲しい、それ水をくれろ、と百姓どもが、姫様ひいさまのお住居すまい、夜叉ヶ池のほとりへ五月蠅うるさきほどにたかってせる。それはまだい。が、何の禁厭まじないか知れぬまで、鉄釘かなくぎ鉄火箸かなひばし錆刀さびがたなや、破鍋われなべの尻まで持込むわ。まだしもよ。お供物だと血迷っての、犬の首、猫の頭、目をき、ひげを動かし、舌をべらべら吐く奴を供えるわ。胡瓜きゅうりならば日野川の河童かっぱかじろう、もっての外な、汚穢むそうて汚穢うて、お腰元たちが掃除をするに手がかかって迷惑だ。
ところで、姫様ひいさまのお乳母どの、湯尾峠ゆのおとうげ万年姥まんねんうばが、それがしへ内意==降らぬ雨なら降るまでは降らぬ、向後汚いものなど撒散まきちらすにおいてはその分に置かぬ==と里へ出て触れい、とある。ためにの、このひれを煩わす、厄介な人間どもよ。
蟹五郎 その事かい、御苦労、御苦労。ところで、大池の姫様ひいさまには、なかなか雨を下さる思召おぼしめしは当分ないかい。
鯉七 分らんの。旱は何も、姫様ひいさま御存じの事ではない。第一、其許そこもとなども知る通りよ。姫様は、それ、御縁者、白山はくさんの剣ヶ峰千蛇ヶ池の若旦那にあこがれて、恋し、恋しと、そればかり思詰めてましますもの、人間の旱なんぞ構っている暇があるものかッてい。
蟹五郎 神通じんずう広大――俺をはじめ考えるぞ。さまで思悩んでおいでなさらず、両袖で飜然ひらりと飛んで、はやく剣ヶ峰へおいでなさるがいではないか。
鯉七 そこだの、姫様ひいさまが座をお移し遊ばすと、それ、たちどころに可恐おそろしい大津波が起って、この村里は、人も、馬も、水の底へ沈んでしまう……
蟹五郎 何が、何が、第一俺が住居すまいも広うなる……村が泥沼になるを、何が遠慮だ。勧めろ、勧めろ。
鯉七 忘れたか、つりがねがここにある。……御先祖以来、人間との堅い約束、夜昼三度、打つ鐘を、彼奴等あいつらが忘れぬうちは、村は滅びぬ天地の誓盟ちかい姫様ひいさまにも随意ままにならぬ。さればこそ、御鬱懐ごうっかい、その御ふびんさ、おいとしさを忘れたの。
蟹五郎 南無三宝なむさんぽう、堂の下で誓を忘れて、つりがねの影を踏もうとした。が、山も田圃たんぼ晃々きらきらとした月夜だ。まだまだしめった灰も降らぬとなると、俺も沢を出て、山の池、御殿の長屋へかずばなるまい。同道を頼むぞ、鯉。
鯉七 むむ、その儀は、ぱくりと合点のみこんだ。かわりにはの、道が寂しい……里へは、きこう同道せい。
蟹五郎 帰途かえりはお池へ伴侶みちづれだ。
鯉七 月のなわてを、唄うてこうよ。
蟹五郎 何と唄う?
鯉七 ==山を川にしょう==と唄おうよ。
蟹五郎 面白い。
と同音に、鯉はふらふらと袖を動かし、蟹は、ぱッぱッとけむを吹いて、==山を川にしょう、山を川にしょう==と同音に唄い行く。行掛けてよどみ、行途むこうを望む。
鯉七 待て、見馴みなれぬものが、何やら田のあぜを伝うて来る。
蟹五郎 かッかッ、怪しいものだ。小蔭こがくれて様子を見んかい。
両個、姿を隠す。
百合 (人形を抱き、なまめかしき風情にて戸を開き戸外こがいに出づ。)夜の長い事、長い事……何の夏が明易あけやすかろう。坊やも寝られないねえ、――お月様幾つ、お十三、七つ――今も誰やら唄うて通ったのをお聞きかい、――山を川にしょ――ああ、この頃では村の人が、山を川にもしたかろう、お気の毒だわねえ。……まあ、良い月夜、峰の草も見えるような。晃さん、お客様の影も、あの、松のあたりに見えようも知れないから、鐘堂かねつきどうあがりましょうね。……ひょっとかして、袖でも触って鳴ると悪いね、田圃たんぼの広場へ出て見ようよ。(と小屋のうらに廻って入る。)
鯰入ねんにゅう。花道より、濃い鼠すかしの頭巾ずきんつら一面に黒し。白き二根にこんひげ、鼻下より左右にわかれて長くすそまで垂る。墨染の法衣ころもまとい、ひれの形したる鼠の足袋。一本ひともとあしつえつき、片手に緋総ひぶさ結びたる、美しき文箱ふばこを捧げて、ふらふらと出できたる。
鯰入 遥々はるばると参った。……もっての外の旱魃かんばつなれば、思うたより道中難儀じゃ。(とはるかに仰いで)はあ、争われぬ、峰の空に水気が立つ。嬉しや、……夜叉ヶ池は、あれに近い。(と辿たどり寄る。)
鯉、蟹、前途ゆくて立顕たちあらわる。
鯉七 誰だ。これへ来たは何ものだ。
蟹五郎 お山の池の一の関、藪沢やぶさわ関守せきもりが控えた。名のって通れ。
鯰入 (杖を袖にまきじって)さては縁のない衆生でないの。……これは、北陸道無双の霊山、白山、剣ヶ峰千蛇ヶ池の御公達ごきんだちより、当国、三国ヶ岳夜叉ヶ池の姫君へ、文づかいに参るものじゃ。
鯉七 おお、聞及んだ黒和尚くろおしょう
蟹五郎 鯰入は御坊ごぼうかい。
鯰入 これは、いずれも姫君のお身内な。夜叉ヶ池の御眷属ごけんぞくか。よい所で出会いました、案内を頼みましょう。
蟹五郎 お使つかい、御苦労です。


 

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