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みさごの鮨(みさごのすし)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-23 10:41:46  点击:  切换到繁體中文



       八

 ここの湯のくるわは柳がいい。分けて今宵は月夜である。五株、六株、七株、すらすらと立ち長くなびいて、しっとりと、見附みつけめぐって向合う湯宿が、皆この葉越はごしうかがわれる。どれも赤い柱、白い壁が、十五けん間口、十間間口、八間間口、大きな(舎)という字をさながらに、湯煙ゆけむりの薄い胡粉ごふんでぼかして、月影に浮いていて、いらかの露も紫に凝るばかり、中空にえた月ながら、気の暖かさにおぼろである。そして裏に立つ山にき、処々に透く細い町に霧が流れて、電燈のあお砂子すなごちりばめた景色は、広重ひろしげがピラミッドの夢を描いたようである。
 柳のもとには、二つ三つ用心みずの、石で亀甲きっこうに囲った水溜みずたまりの池がある。が、れて、寂しく、雲も星も宿らないで、一面に散込んだ柳の葉に、山谷の落葉を誘って、塚を築いたように見える。とすれば月がのぞく。……覗くと、光がちらちらとさすので、水があるのを知って、影が光る、柳も化粧をするのである。分けて今年はあたたかさに枝垂しだれた黒髪はなおこまやかで、中にも真中まんなかに、月光を浴びて漆のように高く立った火の見階子ばしごに、袖を掛けた柳の一本ひともと瑠璃天井るりてんじょうの階子段に、遊女のもたれた風情がある。
 このあたりを、ちらほらと、そぞろ歩行あるきの人通り。見附正面の総湯の門には、浅葱あさぎに、紺に、茶の旗が、納手拭おさめてぬぐいのように立って、湯の中は祭礼まつりかと思う人声の、女まじりの賑かさ。――だぶだぶと湯の動く音。軒前のきさきには、駄菓子みせ、甘酒の店、あめの湯、水菓子の夜店が並んで、客も集れば、湯女ゆなも掛ける。ひげすする甘酒に、歌の心は見えないが、白い手にむく柿の皮は、染めたささがにの糸である。
 みな立つ湯気につつまれて、布子も浴衣の色に見えた。
 人の出入り一盛り。仕出しの提灯ちょうちん二つ三つ。あかいは、おでん、白いは、蕎麦そば。横路地をついと出て、ややかどとざす湯宿の軒を伝う頃、一しきりしずかになった。が、十夜をあての夜興行の小芝居もどりにまた冴える。女房、娘、若衆わかいしゅたち、とある横町の土塀の小路こみちから、ぞろぞろと湧いて出た。が、陸軍病院の慰安のための見物がえりの、四五十人の一行が、白いよそおいでよぎったが、霜の使者つかいが通るようで、宵過ぎのうそ寒さの再び春に返ったのも、更に寂然せきぜんとしたのであった。
 月夜鴉つきよがらすが低く飛んで、水をくぐるように、柳から柳へ流れた。
「うざくらし、いやな――おあんさん……」
 芝居がえりの過ぎたあと、土塀際の引込んだ軒下に、潜戸くぐりどを細目に背にした門口かどぐちに、月に青い袖、帯黒く、客を呼ぶのか、招くのか、人待顔に袖を合せて、肩つき寒くたたずんだ、影のようなおんながある。と、裏の小路からふらりと出て、横合からむずと寄って肩を抱いた。その押つぶしたような帽子の中の男の顔を、じっとすかして――そう言った。
「おかどが違うやろね、早う小春さんのとこへ行く事や。」と、格子の方へくるりと背く。
 紙屋は黙って、ふいと離れて、すぐ軒ならびの隣家となりの柱へ、腕で目をおさえるように、帽子ぐるみ附着くッついた。
 何の真似やら、おなじような、あたまから羽織をひっかぶった若いしゅが、溝を伝うて、二人、三人、胡乱々々うろうろする。
 この時であった。
 も既に、十一時すぎ、の刻か。――柳を中に真向いなる、かどとざし、戸を閉めて、屋根も、軒も、霧の上に、苫掛とまかけた大船のごとく静まって、ふくろが演戯をする、板歌舞伎の趣した、近江屋の台所口の板戸が、からからからと響いて、軽くすべると、帳場が見えて、勝手はあかるい――そこへ、真黒まっくろ外套がいとうがあらわれた。
 背後うしろについて、長襦袢ながじゅばんするすると、伊達巻だてまきばかりに羽織という、しどけない寝乱れ姿で、しかも湯上りの化粧の香が、月に脈うって、ぽっと霧へ移る。……と送って出しなの、肩を叩こうとして、のびた腰に、ポンと土間に反った新しい仕込みのぼらと、比目魚ひらめのあるのを、うっかりまたいで、おびえたようなはぎ白く、莞爾にっこりとした女が見える。
「くそったれめ。」
 見え透いた。が、外套が外へ出た、あとを、しめざまにほっそりと見送る処を、外套が振返って、頬ずりをしようとすると、あれ人が見る、島田をって、おくれ毛とともに背いたけれども、弱々となって顔を寄せた。
 これを見た治兵衛はどうする。血は火のごとくうろこを立てて、さかさまとがって燃えた。
 途端に小春の姿はかくれた。
 あとの大戸を、金の額ぶちのように背負しょって、揚々として大得意のていで、紅閨こうけいのあとを一散歩、ぜいる黒外套が、悠然と、柳を眺め、池をのぞき、火の見を仰いで、移香うつりが惜気おしげなく、えいざましに、月の景色を見るさまの、その行く処には、返咲かえりざきの、桜が咲き、柑子こうじも色づく。……よその旅館の庭の前、垣根などをぶらつきつつ、やがて総湯の前に近づいて、いま店をひらきかけて、屋台になべをかけようとする、なしの饂飩屋うどんやの前に来た。
 獺橋かわうそばしの婆さんと土地で呼ぶ、――この婆さんが店を出すのでは……もう、十二時を過ぎたのである。
 犬ほどの蜥蜴とかげが、修羅をもやして、煙のようにさっと襲った。
「おどれめ。」
 とうめくがはやいか、治兵衛坊主が、その外套の背後うしろから、ナイフを鋭く、つかをせめてグサと刺した。
「うーむ。」と言うと、ドンと倒れる。
 獺橋の婆さんが、まだ火のない屋台から、顔を出してニヤリとした。串戯じょうだんだと思ったろう。
「北国一だ――」
 と高く叫ぶと、その外套の袖があおって、あかい裾が、はらはらと乱れたのである。

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