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化銀杏(ばけいちょう)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-23 10:26:42  点击:  切换到繁體中文



       七

「だから、西岡は何でも一方に超然として、考えていることがあるんだろう。えらい! という者もあるよ。」
 お貞は「何の。」という顔色かおつき
「考えてるッて、大方内のことばかり考えてて、何をしても手が附かないでいるんだろう。聞いて御覧、芳さんが来てからは、また考えようがいっそきびしいに相違ちがいないから。何だって、またあの位、嫉妬しっと深い人もないもんだね。
 前にもはなした通り、旦那はね、病気で帰省をしてから、それなり大学へはかないで、ただぶらぶらしていたもんだから、沢山たんとないお金子かね坐食いぐいていでなくなるし、とうとうせんに居たうちを売って、去々年おととしここの家へ引越したの。
 それでもまあ方々から口があって、みんな相当で、悪くもなくって、中でも新潟県だった、師範学校のね芳さん、校長にされたのよ。校長はいけれど、私は何だか一所に居るのが嫌だから、金沢に残ることにして、旦那ばかり、任地あっちへ行くようにという相談をしたが不可いけなくって、とうとう新潟くんだりまで、引張ひっぱり出されたがね。どういうものか、嫌で、嫌で、片時も居たたまらなくッてよ。金沢へ帰りたい帰りたいで、例の持病で、気が滅入めいっちゃあ泣いてばかり。
 旦那が学校から帰って来ても、出迎でむかえもせず俯向うつむいちゃあ泣いてるもんだから、
(ああ、またか。)となさけなそうに言っちゃあ、しおれて書斎へ入って行ったの。別につらあてというンじゃあ決してなかったんだけれど、ほんとうに帰りたかったんだもの。
 旦那もとうとうを折って(それじゃあ帰るが可い、)というお許しが出ると、直ぐに元気づいて、はきはきして、五日ばかり御膳も頂かれなかったものが、急に下婢げじょを呼んで、(直ぐ腕車夫くるまやを見ておいで。)さ、それが夜の十時すぎだから恐しいじゃあないかえ。何だか狂人きちがいじみてるねえ。
 旦那を残し、坊やはその時分五歳いつつでね、それを連れて金沢こっちへ帰ると、さっぱりしてその居心のかったっちゃあない。坊もまた大変に喜んだのさ。
 それがというと、坊やも乳児ちのみの時から父親おとっさんにゃあちっとも馴染なじまないで、少しものごころが着いて来ると、顔を見ちゃ泣出してね。草履を穿いて、ちょこちょこ戸外おもてへ遊びに出るようになると、なさけないじゃあないかえ。うちへ入ろうとしちゃあ、いつでもさ。外戸おもてどの隙からそッと透見すきみをして、小さな口で、(母様かあちゃん父様おとっちゃん家に居るの?)と聞くんだよ。
(ああ。)と返事をすると、そのまま家へ入らないで、もののほしくなった時分でも、また遊びに行ってしまって、父様居ない、というと、いそいそ入って来ちゃあ、私が針仕事をしている肩へつかまって。」
 と声に力をめたりけるが、追愛の情の堪え難かりけむ、ぶるぶると身を震わし、見る見る面の色激して、突然長火鉢の上におおわれかかり、真白き雪のかいなもて、少年のうなじ掻抱かいいだき、
「こんな風に。」
 とものぐるわしく、真面目まじめになりたる少年を、惚々ほれぼれうちまもり、
「私の顔をのぞき込んじゃあ、(母様おっかさん)ッて、(母様)ッて呼んでよ。」
 お貞はいたく激しおれり。
「そうしてね、(父様おとっちゃんが居ないといねえ。)ッて、いつでも、そう言ったわ。」
 言懸けてうつむく時、ゆるき前髪の垂れけるにぞ、うるさげに掻上かきあぐるとて、ようやく少年にからみたる、そのかいなほどきけるが、なおかれが手を握りつつ、
「そんな時ばかりじゃあないの。私が何かくさくさすると、可哀相にこどもにあたって、叱咤ひッちかッて、押入へ入れておく。あとで旦那が留守になると、自分でそッと押入から出て来てね、そッと抜足かなんかで、私のそばへ寄って来ちゃあ、肩越に顔をのぞいて、(母様おっかちゃん、父様が居ないと可いねえ)ッさ。五歳いつつ六歳むッつで死んで行くは、ほんとうに賢いのね。女のはまた格別情愛があるものだよ。だからもう世の中がつまらなくッて、つまらなくッて、仕様がなかったのを、こどものせいで紛れていたがね、去年(じふてりや)で亡くなってからは、私ゃもう死んでしまいたくッてたまらなかったけれど、旦那が馬鹿におとなしくッて、かッと喧嘩することがないものだから、身投げに駈出かけだおりがなくッて、ついぐずぐずできてたが、芳ちゃん、お前に逢ってから、私ゃ死にたくなくなったよ。」
 と、じっとその手をしめたるトタンに靴音高く戸を開けたり。

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