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化銀杏(ばけいちょう)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-23 10:26:42  点击:  切换到繁體中文


       三

「別に直ったというでもないけれど、まああんなものさ。あれでもね、おばあさんには大変気の毒がってね、(お年寄がようよう落着おちつきなされたものを、またお転宅ひっこしは大抵じゃアあるまいから、その内可い処があったら、御都合次第お引越しなさるが可し、また一月でも、二月でも、うちにおいでになっても差支えはございませんから)ッて、それッきりになってるのよ。そのかわりね、私にゃ、(芳さんと談話はなしをすることは決してならない)ッて、固くいいつけたわ。やっぱり疑ぐっているらしいよ。」
 少年は火箸ひばしを手にして、ぐいぐい灰に突立てながら、不平なる顔色かおつきにて、
「一体疑ぐるッて何だろう。僕のおばあさんにもね、姉様ねえさんひげが、(お孫さんも出世前の身体からだだから、云々うんぬんが着いてはなりますまい。私は、私で、内の貞に気を着けますから、あなたもそこの処おぬかりなく。)ッさ。内証で言ったそうだ。変じゃないか、え、姉様、何を疑ぐッているんだろう。何か僕と、姉様と、不道徳な関係があるとでもいうことなんかね、それだと失敬極まるじゃあないか、え、姉様。」
 となじり問うに、お貞は、
「ああ。」
 と生返事、胸に手を置き、差俯向さしうつむく。
 少年は安からぬ思いやしけむ。
「じゃあ何だね、こないだあの騒ぎのあった前に、二人で奥に談話はなしをしていた時、髯が戸外おもてから帰って来たので、姉様は、あわアくって駈出かけだしたが、そのせいなの? 一体気が小さいから不可いけないよ。いつに限らずだ。人が、がらりと戸を開けると、何だか大変なことでも見付かったように、どぎまぎして、ものをいうにも呼吸いきをはずまして、可訝おかしいだろうじゃないか。先刻さっき僕の帰った時も、戸をあけると、吃驚びっくりして、何だかおどおどしておいでだったぜ。こないだの時だってもそうだ。髯に向って、(いらっしゃいまし)自分の亭主を迎えるとって、(いらっしゃいまし)なんて、言う奴があるものか。何だってそう気が小さくッて、物驚きをするんだなあ。それだから疑ぐられるんだ。不可いけないねえ。」
 お貞は淋しげなる微笑えみを含み、
「そういってながら芳さんもあの時はやっぱりそそッかしく、二階へけ上ったじゃあないかね。」
 少年は別に考うるていもなく、
「そりゃ何だ、僕は何もこわいことはないけれど、あの髯が嫌だからだ。何だか虫が好かなくッて、見るとしゃくに障るっちゃあない、僕あもう大嫌だいきらいだ。」
 と臆面おくめんもなく言うて退けつ。かれは少年の血気にまかせて、後前あとさき見ずにいいたるが、さすがにその妻の前なるに心着きけむ、お貞の色をうかがいたり。
 お貞は気に懸けたるさまもなく、かえって同意を表するごとく、いきおいなげに歎息して、
「誰が見てもちがいはないねえ。私だってやっぱり嫌だわ。だがね、芳ちゃんは、なぜ好かないの。」
 少年はお貞のことばの吾が意を得たるに元気づきて、声の調子を高めたり。
ほかにね、こうといって、まだ此家ここへ来て、そんなに間もないこったから、どこにどうという取留めたこともないけれど、ただね、髯の様子がね、亡なった姉様の亭主にているからね、そのせいだろうと思うんだ。」
「そうして、不可いけないお方だったの。」
 少年はそぞろに往時を追懐すらむ、慨然がいぜんとしたりけるが、
「不可いどころのさわぎじゃない、姉様を殺した奴だもの。」
 お貞はいたく感ぜしさまにて、
「まあ。」
 とそのうるみたる眼を※(「目+爭」、第3水準1-88-85)みはりぬ。
ひどい人ね、何だッてまた姉様を殺したんだろうね。芳さんのお姉様あねえさんなら、どんなにか優しい、い人だったろうにさ。」
「そりゃ、真実ほんとうに僕を可愛がってくれたッちゃあないよ。今着ている衣服きものなんか、台なしになってるけれど、姉様がわざと縫って寄来よこしたもんだから、大事にして着ているんだ。」
「そのせいで似合うのかねえ。」
 とお貞は今更のごとく少年の可憐なるさまみまもられける。水上芳之助は年紀とし十六、そのいう処、行う処、無邪気なれどもあどけなからず。辛苦のうちにおいたちて浮世を知れる状見えつ。もののいいぶりはきはきして、よわいのわりには大人びたり。

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