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伯爵の釵(はくしゃくのかんざし)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-23 10:19:57  点击:  切换到繁體中文



       三

 その御手洗の高い縁に乗っている柄杓ひしゃくを、取りたい、とまた稚児がそう言った。
 紫玉は思わず微笑ほほえんで、
「あら、こうすれば仔細わけないよ。」
 と、半身を斜めにして、溢れかかる水の一筋を、玉のしずくに、さっと散らして、赤く燃ゆるような唇にけた。ちょうどかわいてもいたし、水のきよい事を見たのは言うまでもない。
「ねえ、お前。」
 稚児が仰いで、じっと紫玉をて、
「手をきよめる水だもの。」
 直接じかくちつけるのは不作法だ、ととがめたように聞えたのである。
 劇壇の女王にょおうは、気色けしきした。
「いやにお茶がってるよ、生意気な。」と、軽くそのつむりてのひらたたき放しに、と広前を切れて、坂に出て、見返りもしないで、さてやがてこの茶屋に憩ったのであった。――
 今思うと、手を触れた稚児のつむりも、女か、男か、不思議にその感覚が残らぬ。気は涼しかったが、暑さに、いくらかぼうとしたものかも知れない。
ねえさん、町から、この坂を上る処に、お宮がありますわね。」
「はい。」
「何と言う、お社です。」
「浦安神社でございますわ。」と、片手を畳に、娘は行儀正しく答えた。
「何神様が祭ってあります。」
「お父さん、お父さん。」と娘が、ついそばに、蓮池はすいけに向いて、(じんべ)というひざぎりの帷子かたびらで、眼鏡の下に内職らしい網をすいている半白の父を呼ぶと、急いで眼鏡を外して、コツンと水牛の柄を畳んで、台に乗せて、それから向直って、丁寧に辞儀をして、
「ええ、浦安様は、浦安かれとの、その御守護じゃそうにござりまして。水をばおつかさどりなされます、竜神と申すことでござります。これの、太夫様にお茶を替えて上げぬかい。」
 紫玉は我知らず衣紋えもんしまった。……となえかたは相応そぐわぬにもせよ、へたな山水画のなかの隠者めいた老人までが、確か自分を知っている。
 心着けば、正面神棚の下には、我が姿、昨夜ゆうべふんした、劇中女主人公ヒロインの王妃なる、玉の鳳凰ほうおうのごときが掲げてあった。
「そして、……」
 声も朗かに、且つ慎ましく、
「竜神だと、女神おんながみですか、男神おとこがみですか。」
「さ、さ。」と老人は膝を刻んで、あたかもこのといを待構えたように、
「その儀は、とかくに申しまするが、いかがか、いずれとも相分りませぬ。この公園のずッと奥に、真暗まっくら巌窟いわやの中に、一ヶ処清水のく井戸がござります。古色のおびただしい青銅の竜がわだかまって、井桁いげたふたをしておりまして、金網を張り、みだりに近づいてはなりませぬが、霊沢金水れいたくこんすいと申して、これがためにこの市の名が起りましたと申します。これが奥の院と申す事で、ええ、貴方様あなたさまが御意の浦安神社は、その前殿まえどのと申す事でござります。御参詣おまいりを遊ばしましたか。」
「あ、いいえ。」と言ったが、すぐまた稚児の事が胸に浮んだ。それなり一時言葉が途絶える。
 森々しんしんたる日中ひなかの樹林、濃く黒く森に包まれて城の天守は前にそびゆる。茶店の横にも、見上るばかりのえんじゅえのきの暗い影がもみかえでを薄くまじえて、藍緑らんりょくながれ群青ぐんじょうの瀬のあるごとき、たらたらあがりのこみちがある。滝かと思う蝉時雨せみしぐれ。光る雨、輝くの葉、この炎天の下蔭は、あたかも稲妻にこもる穴に似て、ものすごいまで寂寞ひっそりした。
 木下闇こしたやみ、その横径よこみち中途なかほどに、空屋かと思う、ひさしの朽ちた、誰も居ない店がある……

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