您现在的位置: 贯通日本 >> 作家 >> 泉 鏡花 >> 正文

高野聖(こうやひじり)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-22 13:25:57  点击:  切换到繁體中文



     十七

「優しいなかに強みのある、気軽に見えてもどこにか落着のある、馴々なれなれしくて犯しやすからぬ品のいい、いかなることにもいざとなれば驚くに足らぬという身にこたえのあるといったような風の婦人おんな、かく嬌瞋きょうしんを発してはきっといいことはあるまい、今この婦人おんな邪慳じゃけんにされては木から落ちた猿同然じゃと、おっかなびっくりで、おずおず控えていたが、いや案ずるよりうむが安い。
貴僧あなた、さぞおかしかったでござんしょうね、)と自分でも思い出したように快く微笑ほほえみながら、
(しようがないのでございますよ。)
 以前と変らず心安くなった、帯も早やしめたので、
(それではうちへ帰りましょう。)と米磨桶こめとぎおけ小腋こわきにして、草履ぞうりひっかけてつとがけのぼった。
(おあぶのうござんすから。)
(いえ、もうだいぶ勝手が分っております。)
 ずッと心得こころえつもりじゃったが、さてあがる時見ると思いのほか上までは大層高い。
 やがてまた例の木の丸太を渡るのじゃが、さっきもいった通り草のなかに横倒れになっている木地がこうちょうどうろこのようで、たとえにもよくいうが松の木はうわばみに似ているで。
 ことに崖を、上の方へ、いい塩梅あんばいうねった様子が、とんだものに持って来いなり、およそこのくらいな胴中どうなかの長虫がと思うと、頭と尾を草に隠して、月あかりに歴然ありありとそれ。
 山路の時を思い出すと我ながら足がすくむ。
 婦人おんなは深切にうしろ気遣きづこうては気を付けてくれる。
(それをお渡りなさいます時、下を見てはなりません。ちょうどちゅうとでよッぽど谷が深いのでございますから、目がうと悪うござんす。)
(はい。)
 愚図愚図ぐずぐずしてはいられぬから、我身わがみを笑いつけて、まず乗った。ひっかかるよう、きざが入れてあるのじゃから、気さえたしかなら足駄あしだでも歩行あるかれる。
 それがさ、一件じゃからたまらぬて、乗るとこうぐらぐらして柔かにずるずるといそうじゃから、わっというと引跨ひんまたいで腰をどさり。
(ああ、意気地いくじはございませんねえ。足駄では無理でございましょう、これとお穿えなさいまし、あれさ、ちゃんということをくんですよ。)
 わしはそのさっきからんとなくこの婦人おんな畏敬いけいの念が生じて善か悪か、どの道命令されるように心得たから、いわるるままに草履を穿いた。
 するとお聞きなさい、婦人おんなは足駄を穿きながら手を取ってくれます。
 たちまち身が軽くなったように覚えて、わけなくうしろに従って、ひょいとあの孤家ひとつや背戸せどはたへ出た。
 出会頭であいがしらに声をけたものがある。
(やあ、大分手間が取れると思ったに、ご坊様ぼうさまもとの体で帰らっしゃったの。)
(何をいうんだね、小父様おじさんうちの番はどうおしだ。)
(もういい時分じゃ、またわしあんまおそうなっては道が困るで、そろそろ青を引出して支度したくしておこうと思うてよ。)
(それはお待遠まちどおでござんした。)
(何さ、行ってみさっしゃいご亭主ていしゅは無事じゃ、いやなかなかわしが手には口説くどき落されなんだ、ははははは。)と意味もないことを大笑おおわらいして、親仁おやじうまやの方へてくてくと行った。
 白痴ばかはおなじ処になお形を存している、海月くらげも日にあたらねば解けぬとみえる。」

     十八

「ヒイイン! しっ、どうどうどうと背戸をまわ鰭爪ひづめの音がえんひびいて親仁おやじは一頭の馬を門前へ引き出した。
 轡頭くつわづらを取って立ちはだかり、
(嬢様そんならこのままでわし参りやする、はい、ご坊様ぼうさまにたくさんご馳走ちそうして上げなされ。)
 婦人おんな炉縁ろぶち行燈あんどう引附ひきつけ、俯向うつむいてなべの下をいぶしていたが、振仰ふりあおぎ、鉄の火箸ひばしを持った手をひざに置いて、
(ご苦労でござんす。)
(いんえごねんごろには及びましねえ。しっ!)と荒縄あらなわつなを引く。青で蘆毛あしげ裸馬はだかうまたくましいが、たてがみの薄いおすじゃわい。
 その馬がさ、私も別に馬は珍しゅうもないが、白痴殿ばかどの背後うしろかしこまって手持不沙汰てもちぶさたじゃから今引いて行こうとする時縁側へひらりと出て、
(その馬はどこへ。)
(おお、諏訪すわの湖のあたりまで馬市へ出しやすのじゃ、これから明朝あしたお坊様が歩行あるかっしゃる山路を越えて行きやす。)
(もし、それへ乗って今からおげ遊ばすおつもりではないかい。)
 婦人おんなあわただしく遮って声を懸けた。
(いえ、もったいない、修行しゅぎょうの身が馬で足休めをしましょうなぞとは存じませぬ。)
(何でも人間を乗っけられそうな馬じゃあござらぬ。お坊様は命拾いをなされたのじゃで、大人おとなしゅうして嬢様のそでの中で、今夜は助けてもらわっしゃい。さようならちょっくら行って参りますよ。)
(あい。)
畜生ちくしょう。)といったが馬は出ないわ。びくびくとうごめいて見えるおおき鼻面はなッつらをこちらへじ向けてしきりに私等わしらが居る方を見る様子。
(どうどうどう、畜生これあだけたけものじゃ、やい!)
 右左にして綱を引張ったが、あしから根をつけたごとくにぬっくと立っていてびくともせぬ。
 親仁おやじ大いに苛立いらだって、たたいたり、ったり、馬の胴体について二三度ぐるぐると廻ったが少しも歩かぬ。肩でぶッつかるようにして横腹よこっぱらたいをあてた時、ようよう前足を上げたばかりまた四脚よつあし突張つッぱり抜く。
(嬢様嬢様。)
 と親仁おやじわめくと、婦人おんなはちょっと立って白いつまさきをちょろちょろと真黒まっくろすすけた太い柱をたてに取って、馬の目の届かぬほどに小隠れた。
 その内腰にはさんだ、煮染にしめたような、なえなえの手拭てぬぐいを抜いて克明こくめいに刻んだ額のしわの汗をいて、親仁おやじはこれでよしという気組きぐみ、再び前へ廻ったが、もとによって貧乏動びんぼうゆるぎもしないので、綱に両手をかけて足をそろえて反返そりかえるようにして、うむと総身そうみに力を入れた。とたんにどうじゃい。
 すさまじくいなないて前足を両方中空なかぞらひるがえしたから、小さな親仁おやじは仰向けにひっくりかえった、ずどんどう、月夜に砂煙がぱっと立つ。
 白痴ばかにもこれは可笑おかしかったろう、この時ばかりじゃ、真直まっすぐに首をえて厚いくちびるをばくりと開けた、大粒おおつぶな歯を露出むきだして、あの宙へ下げている手を風であおるように、はらりはらり。
(世話が焼けることねえ、)
 婦人おんなは投げるようにいって草履ぞうりつッかけて土間へついと出る。
(嬢様勘違かんちがいさっしゃるな、これはお前様ではないぞ、何でもはじめからそこなお坊様に目をつけたっけよ、畜生俗縁ぞくえんがあるだッぺいわさ。)
 俗縁はおどろいたい。
 すると婦人が、
貴僧あなたここへいらっしゃるみちで誰にかおいなさりはしませんか。)」

上一页  [1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8] [9] [10]  ... 下一页  >>  尾页


 

作家录入:贯通日本语    责任编辑:贯通日本语 

  • 上一篇作家:

  • 下一篇作家:
  •  
     
     
    网友评论:(只显示最新10条。评论内容只代表网友观点,与本站立场无关!)
     

    没有任何图片作家

    广告

    广告