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高野聖(こうやひじり)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-22 13:25:57  点击:  切换到繁體中文



     十三

「そこから下りるのだと思われる、松の木の細くッて度外れに背の高い、ひょろひょろしたおよそ五六間上までは小枝一ツもないのがある。その中をくぐったが、あおぐとこずえに出て白い、月の形はここでも別にかわりは無かった、浮世うきよはどこにあるか十三夜で。
 先へ立った婦人おんなの姿が目さきを放れたから、松のみきつかまってのぞくと、つい下に居た。
 仰向あおむいて、
(急に低くなりますから気をつけて。こりゃ貴僧あなたには足駄あしだでは無理でございましたかしら、よろしくば草履ぞうりとお取交とりかえ申しましょう。)
 立後たちおくれたのを歩行悩あるきなやんだと察した様子、何がさて転げ落ちても早く行ってひるあかを落したさ。
(何、いけませんければ跣足はだしになります分のこと、どうぞお構いなく、嬢様にご心配をかけては済みません。)
(あれ、嬢様ですって、)とやや調子を高めて、艶麗あでやかに笑った。
(はい、ただいまあの爺様じいさんが、さよう申しましたように存じますが、夫人おくさまでございますか。)
(何にしても貴僧あなたには叔母おばさんくらいな年紀としですよ。まあ、お早くいらっしゃい、草履もようござんすけれど、とげがささりますといけません、それにじくじく湿れていてお気味が悪うございましょうから。)と向うむきでいいながら衣服きもの片褄かたつまをぐいとあげた。真白なのがやみまぎれ、歩行あるくとしもが消えて行くような。
 ずんずんずんずんと道を下りる、かたわらのくさむらから、のさのさと出たのはひきで。
(あれ、気味が悪いよ。)というと婦人おんな背後うしろへ高々とかかとを上げて向うへ飛んだ。
(お客様がいらっしゃるではないかね、人の足になんかからまって、贅沢ぜいたくじゃあないか、お前達は虫を吸っていればたくさんだよ。
 貴僧あなたずんずんいらっしゃいましな、どうもしはしません。こう云う処ですからあんなものまで人なつかしゅうございます、いやじゃないかね、お前達と友達をみたようではずかしい、あれいけませんよ。)
 蟇はのさのさとまた草を分けて入った、婦人おんなはむこうへずいと。
(さあこの上へ乗るんです、土が柔かでえますから地面は歩行あるかれません。)
 いかにも大木のたおれたのが草がくれにその幹をあらわしている、乗ると足駄穿あしだばき差支さしつかえがない、丸木だけれどもおそろしく太いので、もっともこれを渡り果てるとたちまちながれの音が耳にげきした、それまでにはよほどのあいだ
 仰いで見ると松のはもう影も見えない、十三夜の月はずっと低うなったが、今下りた山のいただきに半ばかかって、手が届きそうにあざやかだけれども、高さはおよそ計り知られぬ。
貴僧あなた、こちらへ。)
 といった婦人おんなはもう一息、目の下に立って待っていた。
 そこは早や一面の岩で、岩の上へ谷川の水がかかってここによどみを作っている、川幅は一けんばかり、水にのぞめば音はさまでにもないが、美しさは玉を解いて流したよう、かえって遠くの方ですさまじく岩にくだけるひびきがする。
 向う岸はまた一座の山のすそで、頂の方は真暗まっくらだが、山のからその山腹を射る月の光に照し出されたあたりからは大石小石、栄螺さざえのようなの、六尺角に切出したの、つるぎのようなのやら、まりの形をしたのやら、目の届く限り残らず岩で、次第に大きく水に※(「くさかんむり/(酉+隹)/れんが」、第3水準1-91-44)ひたったのはただ小山のよう。」

     十四

「(いい塩梅あんばいに今日は水がふえておりますから、中へ入りませんでもこの上でようございます。)と甲をひたして爪先つまさきかがめながら、雪のような素足で石のばんの上に立っていた。
 自分達が立ったかわは、かえってこっちの山の裾が水に迫って、ちょうど切穴の形になって、そこへこの石をめたようなあつらえ。川上も下流も見えぬが、向うのあの岩山、九十九折つづらおりのような形、流は五尺、三尺、一間ばかりずつ上流の方がだんだん遠く、飛々とびとびに岩をかがったように隠見いんけんして、いずれも月光を浴びた、銀のよろいの姿、のあたり近いのはゆるぎ糸をさばくがごとく真白にひるがえって。
(結構な流れでございますな。)
(はい、この水は源がたきでございます、この山を旅するお方はな大風のような音をどこかで聞きます。貴僧あなたはこちらへいらっしゃる道でお心着きはなさいませんかい。)
 さればこそ山蛭やまびる大藪おおやぶへ入ろうという少し前からその音を。
(あれは林へ風の当るのではございませんので?)
(いえ、たれでもそう申します、あの森から三里ばかり傍道わきみちへ入りました処に大滝があるのでございます、それはそれは日本一だそうですが、みちけわしゅうござんすので、十人に一人参ったものはございません。その滝がれましたと申しまして、ちょうど今から十三年前、おそろしい洪水おおみずがございました、こんな高い処まで川の底になりましてね、ふもとの村も山も家も残らず流れてしまいました。このかみほらも、はじめは二十軒ばかりあったのでござんす、この流れもその時から出来ました、ご覧なさいましな、この通り皆な石が流れたのでございますよ。)
 婦人おんなはいつかもう米をしらげ果てて、衣紋えもんの乱れた、乳のはしもほの見ゆる、ふくらかな胸をそらして立った、鼻高く口を結んで目を恍惚うっとりと上を向いて頂を仰いだが、月はなお半腹のその累々るいるいたるいわおを照すばかり。
(今でもこうやって見ますとこわいようでございます。)と屈んでうでの処を洗っていると。
(あれ、貴僧あなた、そんな行儀ぎょうぎのいいことをしていらしってはおめしれます、気味が悪うございますよ、すっぱり裸体はだかになってお洗いなさいまし、私が流して上げましょう。)
(いえ、)
(いえじゃあござんせぬ、それ、それ、お法衣ころもそでひたるではありませんか、)というと突然いきなり背後うしろから帯に手をかけて、身悶みもだえをして縮むのを、邪慳じゃけんらしくすっぱりいで取った。
 わし師匠ししょうきびしかったし、経を読む身体からだじゃ、はださえ脱いだことはついぞ覚えぬ。しかも婦人おんなの前、蝸牛まいまいつぶろが城を明け渡したようで、口をくさえ、まして手足のあがきも出来ず、背中を円くして、ひざを合せて、縮かまると、婦人おんなは脱がした法衣ころもかたわらの枝へふわりとかけた。
(お召はこうやっておきましょう、さあおせなを、あれさ、じっとして。お嬢様とおっしゃって下さいましたお礼に、叔母さんが世話を焼くのでござんす、お人の悪い。)といって片袖を前歯で引上げ、玉のような二の腕をあからさまに背中に乗せたが、じっと見て、
(まあ、)
(どうかいたしておりますか。)
あざのようになって、一面に。)
(ええ、それでございます、ひどい目にいました。)
 思い出してもぞッとするて。」

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