はい、浪打際に子産石と云うのがござんす。これこれでここの名所、と土地自慢も、優しく教えて、石段から真直ぐに、畑中を切って出て見なさんせ、と指さしをしてくれました。
いかに石が名所でも、男ばかりで児が出来るか。何と、姉や、と麦にかくれる島田を覗いて、天狗わらいに冴えて来ました、面目もない不了簡。
嘉吉とかを聞くにつけても、よく気が違わずに済んだ事、とお話中に悚気としたよ。
黒門の別荘とやらの、話を聞くと引入れられて、気が沈んで、しんみりと真心から念仏の声が出ました。
途中すがらもその若い人たちを的に仏名を唱えましょう。木賃の枕に目を瞑ったら、なお歴然、とその人たちの、姿も見えるような気がするから、いっそよく念仏が申されようと考える。
聞かしておくれの、お婆さん、お前は善智識、と云うても可い、私は夜通しでも構わんが。
あんまり身を入れて話をする――聞く――していたので、邪魔になっては、という遠慮か、四五人こっちを覗いては、素通をしたのがあります。
近在の人と見える。風呂敷包を腰につけて、草履穿きで裾をからげた、杖を突張った、白髪の婆さんの、お前さんとは知己と見えるのが、向うから声をかけたっけ。お前さんが話に夢中で、気が着かなんだものだから、そのままほくほく去ってしまった。
私も聞惚れていた処、話の腰を折られては、と知らぬ顔で居たっけよ。
大層お店の邪魔をしました、実に済まぬ。」
と扇を膝に、両手で横に支きながら、丁寧に会釈する。
姥はあらためて右瞻左瞻たが、
「お上人様、御殊勝にござります、御殊勝にござります。難有や、」
と浅からず渇仰して、
「本家が村一番の大長者じゃと云えば、申憎い事ながら、どこを宿ともお定めない、御見懸け申した御坊様じゃ。推しても行って回向をしょう。ああもしょう、こうもしてやろう、と斎布施をお目当で……」
とずっきり云った。
「こりゃ仰有りそうな処、御自分の越度をお明かしなさりまして、路々念仏申してやろう、と前途をお急ぎなさります飾りの無いお前様。
道中、お髪の伸びたのさえ、かえって貴う拝まれまする。どうぞ、その御回向を黒門の別宅で、近々として進ぜて下さりませぬか。……
もし、鶴谷でもどのくらい喜びますか分りませぬ。」
十六
鶴谷が下男、苦虫の仁右衛門親仁。角のある人魂めかして、ぶらりと風呂敷包を提げながら、小川べりの草の上。
「なあよ、宰八、」
「やあ、」
と続いた、手ぼう蟹は、夥間の穴の上を冷飯草履、両足をしゃちこばらせて、舞鶴の紋の白い、萌黄の、これも大包。夜具を入れたのを引背負ったは、民が塗炭に苦んだ、戦国時代の駆落めく。
「何か、お前が出会した――黒門に逗留してござらしゃる少え人が、手鞠を拾ったちゅうはどこらだっけえ。」
「直きだ、そうれ、お前が行く先に、猫柳がこんもりあんべい。」
「おお、」
「その根際だあ。帽子のふちも、ぐったり、と草臥れた形での、そこに、」
と云った人声に、葉裏から蛍が飛んだ。が、三ツ五ツ星に紛れて、山際薄く、流が白い。
この川は音もなく、霞のように、どんよりと青田の村を這うのである。
「ここだよ。ちょうど、」
と宰八はちょっと立留まる。前途に黒門の森を見てあれば、秋谷の夜はここよりぞ暗くなる、と前途に近く、人の足許が朦朧と、早やその影が押寄せて、土手の低い草の上へ、襲いかかる風情だから、一人が留まれば皆留まった。
宰八の背後から、もう一人。杖を突いて続いた紳士は、村の学校の訓導である。
「見馴れねえ旅の書生さんじゃ、下ろした荷物に、寝そべりかかって、腕を曲げての、足をお前、草の上へ横投げに投出して、ソレそこいら、白鷺の鶏冠のように、川面へほんのり白く、すいすいと出て咲いていら、昼間見ると桃色の優しい花だ、はて、蓬でなしよ。」
「石竹だっぺい。」
「撫子の一種です、常夏の花と言うんだ。」
と訓導は姿勢を正して、杖を一つ、くるりと廻わすと、ドブン。
「ええ!驚かなくても宜しい。今のは蛙だ。」
「その蛙……いんねさ、常夏け。その花を摘んでどうするだか、一束手ぶしに持ったがね。別にハイそれを視めるでもねえだ。美しい目水晶ぱちくりと、川上の空さ碧く光っとる星い向いて、相談打つような形だね。
草鞋がけじゃで、近辺の人ではねえ。道さ迷ったら教えて進ぜべい、と私もう内へ帰って、婆様と、お客に売った渋茶の出殻で、茶漬え掻食うばかりだもんで、のっそりその人の背中へ立って見ていると、しばらく経ってよ。
むっくりと起返った、と思うとの。……(爺様、あれあれ、)」
その時、宰八川面へ乗出して、母衣を倒に水に映した。
「(手毬が、手毬が流れる、流れてくる、拾ってくれ、礼をする。)
見ると、成程、泡も立てずに、夕焼が残ったような尾を曳いて、その常夏を束にした、真丸いのが浮いて来るだ。
(銭金はさて措かっせえ、だが、足を濡らすは、厭な事だ。)と云う間も無え。
突然ざぶりと、少え人は衣服の裾を掴んだなりで、川の中へ飛込んだっけ。
押問答に、小半時かかればとって、直ぐに突ん流れるような疾え水脚では、コレ、無えものを、そこは他国の衆で分らねえ。稲妻を掴えそうな慌て方で、ざぶざぶ真中で追かける、人の煽りで、水が動いて、手毬は一つくるりと廻った。岸の方へ寄るでねえかね。
(えら!気の疾え先生だ。さまで欲しけりゃ算段のうして、柳の枝を折ぺっしょっても引寄せて取ってやるだ、見さっせえ、旅の空で、召ものがびしょ濡れだ。)と叱言を言いながら、岸へ来たのを拾おう、と私、えいやっと蹲んだが。
こんな川でも、動揺みにゃ浪を打つわ、濡れずば栄螺も取れねえ道理よ。私が手を伸すとの、また水に持って行かれて、手毬はやっぱり、川の中で、その人が取らしっけがな。……ここだあ仁右衛門、先生様も聞かっせえ。」
と夜具風呂敷の黄母衣越に、茜色のその顱巻を捻向けて、
「厭な事は、……手毬を拾うと、その下に、猫が一匹居たではねえかね。」
十七
訓導は苦笑いして、
「可い加減な事を云う、狂気の嘉吉以来だ。お前は悪く変なものに知己のように話をするが、水潜りをするなんて、猫化けの怪談にも、ついに聞いた事はないじゃないか。」
「お前様もね、当前だあこれ、空を飛ぼうが、泳ごうが、活きた猫なら秋谷中私ら知己だ。何も厭な事はねえけんど、水ひたしの毛がよれよれ、前足のつけ根なぞは、あか膚よ。げっそり骨の出た死骸でねえかね。」
訓導は打棄るように、
「何だい、死骸か。」
「何だ死骸か、言わっしゃるが、死骸だけに厭なこんだ。金壺眼を塞がねえ。その人が毬を取ると、三毛の斑が、ぶよ、ぶよ、一度、ぷくりと腹を出いて、目がぎょろりと光ッたけ。そこら鼠色の汚え泡だらけになって、どんみりと流れたわ、水とハイ摺々での――その方は岸へ上って、腰までずぶ濡れの衣を絞るとって、帽子を脱いで仰向けにして、その中さ、入れさしった、傍で見ると、紫もありゃ黄色い糸もかがってある、五色の――手毬は、さまで濡れてはいねえだっけよ。」
「なあよ、宰八、」
「何だえ。」
仁右衛門は沈んだ声で、
「その手毬はどうしたよ。」
「今でもその学生が持ってるかね。」
背後から、訓導がまた聞き挟む。
「忽然として消え失せただ。夢に拾った金子のようだね。へ、へ、へ、」
とおかしな笑い方。
「ふん、」
と苦虫は苦ったなりで、てくてくと歩行き出す。
「嘘を吐け、またはじめた。大方、お前が目の前で、しゃぼん球のように、ぱっと消えてでもなくなったろう、不思議さな。」
「違えます、違えますとも!」
仁右衛門の後を打ちながら、
「その人が、
(爺様、この里では、今時分手毬をつくか。)
(何でね?)
(小児たちが、優しい声、懐しい節で唄うている。
ここはどこの細道じゃ、
秋谷邸の細道じゃ……)
一件ものをの、優しい声、懐しい声じゃ云うて、手毬を突くか、と問わっしゃるだ。
とんでもねえ、あれはお前様、芋※[#「くさかんむり/更」、169-14]の葉が、と言おうとしたが、待ちろ、芸もねえ、村方の内証を饒舌って、恥掻くは知慧でねえと、
(何お前様、学校で体操するだ。おたま杓子で球をすくって、ひるてんの飛っこをすればちゅッて、手毬なんか突きっこねえ、)と、先生様の前だけんど、私一ツ威張ったよ。」
「何だ、見ともない、ひるてんの飛びっことは。テニスだよ、テニスと言えば可い。」
「かね……私また西洋の雀躍か、と思ったけ、まあ、可え。」
「ちっとも可かあない、」
と訓導は唾をする。
「それにしても、奥床しい、誰が突いた毬だろう、と若え方問わっしゃるだが。
のっけから見当はつかねえ、けんど、主が袂から滝のように水が出るのを見るにつけても、何とかハイ勘考せねばなんねえで、その手毬を持って見た、」
と黄母衣を一つ揺上げて、
「濡れちゃいねえが、ヒヤリとしたでね、可い塩梅よ、引込んだのは手棒の方、」
へへ、とまた独りで可笑がり、
「こっちの手で、ハイ海へ落ちさっしゃるお日様と、黒門の森に掛ったお月様の真中へ、高くこう透かして見っけ。
しゃぼん球ではねえよ。真円な手毬の、影も、草に映ったでね。」
「それがまたどうして消えた、馬鹿な!」
と勢込む、つき反らした杖の尖が、ストンと蟹の穴へ狭ったので、厭な顔をした訓導は、抜きざまに一足飛ぶ。
「まあ、聞かっせえ。
玉味噌の鑑定とは、ちくと物が違うでな、幾ら私が捻くっても、どこのものだか当りは着かねえ。
(霞のような小川の波に、常夏の影がさして、遠くに……(細道)が聞える処へ、手毬が浮いて……三年五年、旅から旅を歩行いたが、またこんな嬉しい里は見ない、)
と、ずぶ濡の衣を垂れる雫さえ、身体から玉がこぼれでもするほどに若え方は喜ばっしゃる。」
十八
「――(この上誰か、この手毬の持主に逢えるとなれば、爺さん、私は本望だ、野山に起臥して旅をするのもそのためだ。)
と、話さっしゃるでの。村を賞められたが憎くねえだし、またそれまでに思わっしゃるものを、ただわかりましねえで放擲しては、何か私、気が済まねえ。
そこで、草原へ蹲み込んで、信にはなさりますめえけんど、と嘉吉に蒼い珠授けさしった……」
しばらく黙って、
「の、事を話したらばの。先生様の前だけんど、嘘を吐け、と天窓からけなさっしゃりそうな少え方が、
(おお、その珠と見えたのも、大方星ほどの手毬だろう。)と、あのまた碧い星を視めて云うだ。けちりんも疑わねえ。
(なら、まだ話します事がござります、)とついでに黒門の空邸の話をするとの。
(川はその邸の、庭か背戸を通って流れはしないか。)
と乗出しけよ。……(流れは見さっしゃる通りだ)……」
今もおなじような風情である。――薄りと廂を包む小家の、紫の煙の中も繞れば、低く裏山の根にかかった、一刷灰色の靄の間も通る。青田の高低、麓の凸凹に従うて、柔かにのんどりした、この一巻の布は、朝霞には白地の手拭、夕焼には茜の襟、襷になり帯になり、果は薄の裳になって、今もある通り、村はずれの谷戸口を、明神の下あたりから次第に子産石の浜に消えて、どこへ灌ぐということもない。口につけると塩気があるから、海潮がさすのであろう。その川裾のたよりなく草に隠れるにつけて、明神の手水洗にかけた献燈の発句には、これを霞川、と書いてあるが、俗に呼んで湯川と云う。
霞に紛れ、靄に交って、ほのぼのと白く、いつも水気の立つ処から、言い習わしたものらしい。
あの、薄煙、あの、靄の、一際夕暮を染めたかなたこなたは、遠方の松の梢も、近間なる柳の根も、いずれもこの水の淀んだ処で。畑一つ前途を仕切って、縦に幅広く水気が立って、小高い礎を朦朧と上に浮かしたのは、森の下闇で、靄が余所よりも判然と濃くかかったせいで、鶴谷が別宅のその黒門の一構。
三人は、彼処をさして辿るのである。
ここに渠等が伝う岸は、一間ばかりの川幅であるが、鶴谷の本宅の辺では、およそ三間に拡がって、川裾は早やその辺からびしょびしょと草に隠れる。
ここへは、流をさかのぼって来るので、間には橋一つ渡らねばならぬ。
橋は明神の前へ、三崎街道に一つ、村の中に一つ。今しがた渠等が渡って、ここから見えるその村の橋も、鶴谷の手で欄干はついているが、細流の水静かなれば、偏に風情を添えたよう。青い山から靄の麓へ架け渡したようにも見え、低い堤防の、茅屋から茅屋の軒へ、階子を横えたようにも見え、とある大家の、物好に、長く渡した廻廊かとも視められる。
灯もやや、ちらちらと青田に透く。川下の其方は、藁屋続きに、海が映って空も明い。――水上の奥になるほど、樹の枝に、茅葺の屋根が掛って、蓑虫が塒したような小家がちの、それも三つが二つ、やがて一つ、窓の明も射さず、水を離れた夕炊の煙ばかり、細く沖で救を呼ぶ白旗のように、風のまにまに打靡く。海の方は、暮が遅くて灯が疾く、山の裾は、暮が早くて、燈が遅いそうな。
まだそれも、鳴子引けば遠近に便があろう。家と家とが間を隔て、岸を措いても相望むのに、黒門の別邸は、かけ離れた森の中に、ただ孤家の、四方へ大なる蜘蛛のごとく脚を拡げて、どこまでもその暗い影を畝らせる。
月は、その上にかかっているのに。……
先達の仁右衛門は、早やその樹立の、余波の夜に肩を入れた。が、見た目のさしわたしに似ない、帯がたるんだ、ゆるやかな川添の道は、本宅から約八丁というのである。
宰八が言続いで、
「……(外廻りを流れて来るし、何もハイ空家から手毬を落す筈はねえ。そんでも猫の死骸なら、あすこへ持って行って打棄った奴があるかも知んねえ、草ぼうぼうだでのう、)と私、話をしただがね。」
十九
「それからその少え方は、(どうだろう、その黒門の空家というのを、一室借りるわけには行くまいか、自炊を遣って、しばらく旅の草臥を休めたい、)と相談打ったが。
ねえ、先生様。
お前様、今の住居は、隣の嚊々が小児い産んで、ぎゃあぎゃあ煩え、どこか貸す処があるめえか、言わるるで、そん当時黒門さどうだちゅったら、あれは、と二の足を蹈ましっけな。」
と横ざまに浴せかけると、訓導は不意打ながら、さしったりで、杖を小脇に引抱き、
「学校へ通うのに足場が悪くって、道が遠くって仕様がないから留めたんだ。」
「朝寝さっしゃるせいだっぺい。」
仁右衛門が重い口で。
訓導は教うるごとく、
「第一水が悪い。あの、また真蒼な、草の汁のようなものが飲めるものかい。」
「そうかね――はあ、まず何にしろだ。こっちから頼めばとって、昼間掃除に行くのさえ、厭がります空屋敷じゃ。そこが望み、と仰有るに、お住居下さればその部屋一ツだけも、屋根の草が無うなって、立腐れが保つこんだで、こっちは願ったり、叶ったり、本家の旦那もさぞ喜びましょうが、尋常体の家でねえ。あの黒門を潜らっしゃるなら、覚悟して行かっせえ、可うがすか、と念を入れると、
(いやその位の覚悟はいつでもしている。)
と落着いたもんだてえば。
はてな、この度胸だら盗賊でも大将株だ、と私、油断はねえ、一分別しただがね、仁右衛門よ、」
「おおよ。」
「前刻、着たっきりで、手毬を拾いに川ん中さ飛込んだ時だ。旅空かけて衣服をどうするだ、と私頼まれ効もなかったけえ、気の毒さもあり、急がずば何とかで濡れめえものを夕立だ、と我鳴った時よ。
(着物は一枚ありますから……)
と見得でねえわ、見得でねえね。極りの悪そうに、人の心を無にしねえで言訳をするように言わしっけが、こいつを睨んで、はあ、そこへ私が押惚れただ。
殊勝な、優しい、最愛い人だ。これなら世話をしても仔細あんめえ。第一、あの色白な仁体じゃ……化……仁右衛門よ。」
「何い、」
「暗くなったの、」
「彼これ、酉刻じゃ。」
「は、南無阿弥陀仏、黒門前は真暗だんべい。」
「大丈夫、月が射すよ。」
と訓導は空を見て、
「お前、その手毬の行方はどうしたんだい。」
「そこだてね、まあ聞かっせえ、客人が、その最愛らしい容子じゃ……化、」
とまた言い掛けたが、青芒が川のへりに、雑木一叢、畑の前を背屈み通る真中あたり、野末の靄を一呼吸に吸込んだかと、宰八唐突に、
「はッくしょ!」
胴震いで、立縮み、
「風がねえで、えら太い蜘蛛の巣だ。仁右衛門、お前、はあ、先へ立って、よく何ともねえ。」
「巣、巣どころか、己あ樹の枝から這いかかった、土蜘蛛を引掴んだ。」
「ひゃあ、」
「七日風が吹かねえと、世界中の人を吸殺すものだちゅっけ、半日蒸すと、早やこれだ。」
と握占めた掌を、自分で捻開けるようにして開いたが、恐る恐る透して見ると、
「何ぢゃ、蟹か。」
水へ、ザブン。
背後で水車のごとく杖を振廻していた訓導が、
「長蛇を逸すか、」
と元気づいて、高らかに、
「たちまち見る大蛇の路に当って横わるを、剣を抜いて斬らんと欲すれば老松の影!」
「ええ、静にしてくらっせえ、……もう近えだ。」
と仁右衛門は真面目に留める。
「おい、手毬はどうして消えたんだな、焦ったい。」
「それだがね、疾え話が、御仁体じゃ。化物が、の、それ、たとい顔を嘗めればとって、天窓から塩とは言うめえ、と考えたで、そこで、はい、黒門へ案内しただ。仁右衛門も知っての通り――今日はまた――内の婆々殿が肝入で、坊様を泊めたでの、……御本家からこうやって夜具を背負って、私が出向くのは二度目だがな。」
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