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歌行灯(うたあんどん)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-22 12:06:21  点击:  切换到繁體中文



       五

「そうめられちゃお座がめる、酔も醒めそうで遣瀬やるせがない。たかが大道芸人さ。」
 と兄哥あにいは照れた風で腕組みした。
「私がお世辞を言うものですかな、真実まったくですえ。あの、その、なあ、悚然ぞっとするような、恍惚うっとりするような、めたような、投げたような、緩めたような、まあ、んと言うてかろうやら。海の中に柳があったら、お月様の影の中へ、身を投げて死にたいような、……何んとも言いようのない心持になったのですえ。」
 と、脊筋をくねって、肩を入れる。
「おかた、お方。」
 と急込せきこんで、訳もない事に不機嫌な御亭ごていが呼ばわる。
「何じゃいし。」と振向くと、……亭主いつの間にか、神棚のもとに、しゃと構えて、帳面を引繰ひっくって、苦くにらみ、
升屋ますやかけはまだ寄越さんかい。」
 と算盤そろばんを、ぱちりぱちり。
「今時どうしたえ、三十日みそかでもありもせんに。……お師匠さん。」
「師匠じゃないわ、升屋が懸じゃい。」
「そないに急に気になるなら、良人あんた、ちゃと行って取ってい。」
 と下唇の刎調子はねぢょうし。亭主ぎゃふんと参ったていで、
「二進が一進、二進が一進、二一にいち天作の五一三六七八九ぐいちさぶろくななやあここの。」と、饂飩の帳の伸縮のびちぢみは、加減さしひきだけで済むものを、醤油したじに水を割算段。
 と釜の湯気の白けた処へ、星のてそうな按摩あんまの笛。月天心つきてんしんの冬の町に、あたかもこれこがらしを吹込む声す。
 門附の兄哥あにいは、ふとせた肩を抱いて、
「ああ、霜に響く。」……と言った声が、物語を読むように、ほがらかえて、且つ、鋭く聞えた。
「按摩が通る……女房おかみさん、」
「ええ、笛を吹いてですな。」
「畜生、しからず身に染みる、たまらなく寒いものだ。」
 と割膝に跪坐かしこまって、飲みさしの茶の冷えたのを、茶碗に傾け、ざぶりと土間へ、
「一ツこいつへいでおくんな、その方がお前さんも手数が要らない。」
「何んの、私はちっとも構うことないのですえ。」
「いや、御深切は難有ありがたいが、薬罐やかんの底へ消炭けしずみで、くあとからめる処へ、氷で咽喉のどえぐられそうな、あのピイピイを聞かされちゃ、身体からだにひびったけがはいりそうだ。……持って来な。」
 と手を振るばかりに、一息にぐっとあおった。
「あれ、お見事。」
 と目を※(「目+爭」、第3水準1-88-85)みはって、
「まあな、だけれどな、無理酒おしいなえ。沢山たんと、あの、心配する方があるのですやろ。」
「お方、八百屋の勘定は。」
 と亭主まばたきしてあごを出す。女房は面白半分、見返りもしないで、
「取りに来たらお払いやすな。」
「ええ……と三百は三銭かい。」
 で、算盤を空にはじく。
女房おかみさん。」
 と呼んだ門附の声が沈んだ。
「何んです。」
「立続けにもう一つ。そしてあとを直ぐ、合点がってんかね。」
「あい。合点でございますが、あんた、えら大酒たいしゅですな。」
「せめて酒でも参らずば。」
 と陽気な声を出しかけたが、つと仰向あおむいてまなじりを上げた。
「あれ、また来たぜ、按摩の笛が、北の方の辻から聞える。……ヤ、そんなにまだ夜は更けまいのに、屋根ごしの町一つ、こう……田圃たんぼあぜかとも思う処でも吹いていら。」
 と身忙みぜわしそうに片膝立てて、当所あてどなく※(「目+爭」、第3水準1-88-85)みまわしながら、
おとは同じだがが違う……女房おかみさん、どれが、どんなつらの按摩だね。」
 と聞く。……その時、白眼しろまなこの座頭の首が、月にあおざめてのぞきそうに、屋の棟を高く見た……目が鋭い。
「あれ、あんた、鹿の雌雄めすおすではあるまいし、笛の音で按摩の容子ようすは分りませぬもの。」
「まったくだ。」
 と寂しく笑った、なみなみいだる茶碗の酒を、きっと見ながら、
「杯の月をもうよ、座頭殿。」と差俯さしうつむいて独言ひとりごとした。……が博多節の文句か、知らず、陰々として物寂しい、表の障子も裏透くばかり、霜の月の影冴えて、辻に、町に、按摩の笛、そのあるものは波に響く。

       六

「や、按摩どのか。何んだ、唐突だしぬけに驚かせる。……要らんよ。要りませぬ。」
 と弥次郎兵衛。湊屋の奥座敷、これが上段の間とも見える、次に六畳の附いた中古ちゅうぶるの十畳。障子の背後うしろは直ぐに縁、欄干てすりにずらりと硝子戸がらすどの外は、水煙渺みずけむりびょうとして、曇らぬ空に雲かと見る、長洲ながすの端に星一つ、水に近くらめいた、揖斐川の流れのすそは、うしおめた霧白く、月にもとまを伏せ、みのす、繋船かかりぶねの帆柱がすくすくと垣根に近い。そこに燭台をかたわらにして、火桶ひおけに手を懸け、怪訝けげんな顔して、
「はて、お早いお着きお草臥くたびれ様で、と茶を一ツ持って出て、年増としまの女中が、唯今ただいま引込ひっこんだばかりの処。これから膳にもしよう、酒にもしようと思うちょっとの隙間へ、のそりと出した、あのつらはえ?……
 この方、あの年増めを見送って、入交いりかわって来るは若いのか、と前髪の正面でも見ようと思えば、霜げた冬瓜とうがん草鞋わらじ打着ぶちつけた、という異体なつらを、ふすまの影からはすに出して、
(按摩でやす。)とまた、悪く抜衣紋ぬきえもんで、胸を折って、横坐りに、蝋燭火ろうそくび紙火屋かみぼやのかかったあかりの向うへ、ぬいと半身で出た工合が、見越入道みこしにゅうどう御館おやかたへ、目見得めみえの雪女郎を連れて出た、ばけの慶庵と言うていだ。
 要らぬと言えば、黙然だんまりで、腰からさきへ、板廊下の暗い方へ、スーと消えたり……怨敵おんてき退散たいさん。」
 と苦笑いして、……床の正面に火桶を抱えた、法然天窓ほうねんあたまの、つれの、その爺様を見遣って、
「捻平さん、お互に年は取りたくないてね。ちと三絃ぺんぺんでも、とあるべき処を、お膳の前に按摩が出ますよ。……見くびったものではないか。」
「とかく、その年効としがいもなく、旅籠屋の式台口から、何んと、事も慇懃いんぎんに出迎えた、うちの隠居らしい切髪の婆様ばあさまをじろりと見て、
(ヤヤ、難有ありがたい、仏壇の中に美婦たぼが見えるわ、の子の天井から落ちい。)などと、膝栗毛の書抜きを遣らっしゃるで魔がすのじゃ、屋台は古いわ、造りも広大。」
 と丸木の床柱を下から見上げた。
「千年の桑かの。川の底もはかられぬ。あかりも暗いわ、かわうそも出ようず。ちとりさっしゃるがい。」
「さんぞうろう、これに懲りぬ事なし。」
 と奥歯のあたりを膨らまして微笑ほほえみながら、両手を懐に、胸を拡く、ふすまの上なる額を読む。題していわく、臨風榜可小楼りんぷうぼうかしょうろう
「……とある、いかさまな。」
「床にけたは、白の小菊じゃ、一束ひとたばにしてつかみざし、喝采おお。」とめる。
「いや、翁寂おきなさびた事を言うわ。」
「それそれ、たったいま懲りると言うた口の下から、何んじゃ、それは。やあ、見やれ、其許そこの袖口から、茶色の手の、もそもそとしたやつが、ぶらりと出たわ、揖斐川のかわうその。」
「ほい、」
 とながめて、
南無三宝なむさんぼう。」とあわただしく引込ひッこめる。
「何んじゃそれは。」
「ははははは、拙者うまれつき粗忽そこつにいたして、よくものを落す処から、内のばばあどのが計略で、手袋を、ソレ、ト左右糸でつないだものさね。袖から胸へくぐらして、ずいと引張ひっぱって両手へめるだ。何んと恐しかろう。捻平さん、かくまで身上しんしょうを思うてくれる婆どのに対しても、無駄な祝儀は出せませんな。ああ、南無阿弥陀仏なむあみだぶつ。」
たぬきめが。」
 と背を円くして横を向く。
「それ、年増が来る。秘すべし、秘すべし。」
 で、手袋をたくし込む。
 処へ女中が手をいて、
「御支度をなさりますか。」
「いや、やっと、今草鞋わらじを解いたばかりだ。泊めてもらうから、支度はしません。」と真面目に言う。
 色は浅黒いが容子ようすい、その年増の女中が、これには妙な顔をして、
「へい、御飯は召あがりますか。」
「まず酒から飲みます。」
「あの、めしあがりますものは?」
「姉さん、ここは約束通り、焼蛤やきはまぐりが名物だの。」

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