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燕と王子(つばめとおうじ)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-21 11:24:07  点击:  切换到繁體中文


 そうこうするうちに気候はだんだんと寒くなってきました。青銅からかねの王子の肩ではなかなかしのぎがたいほどになりました。しかし王子は次の日も次の日も今まで長い間見て知っている貧しい正直しょうじきな人や苦しんでいるえらい人やに自分のからだの金を送りますので、燕はなかなか南に帰るひまがありません。日中は秋とは申しながらさすがに日がぽかぽかとうららかで黄金色の光が赤いかわらや黄になった木の葉を照らしてあたたかなものですから、燕は王子のおおせのままにあちこちと飛び回って御用をたしていました。そのうちに王子のからだの金はだんだんにすくなくなってかわいそうにこの間までまばゆいほどに美しかったおすがたが見るかげもないものになってしまいました。ある日の夕方王子は静かに燕をかえり見て、
「燕、おまえは親切ものでよくこの寒いのもいとわず働いてくれたが、私にはもう人にやるものがなくなってしまってこんなみにくいからだになったからさぞおまえも私といっしょにいるのがいやになったろう。もうお帰り、寒くなったし、ナイル川には美しい夏がおまえを待っているから。この町はもうやがて冬になるとさびしいし、おまえのようなしなやかなきれいな鳥はいたたまれまい。それにしてもおまえのようなよい友だちと別れるのは悲しい」とおっしゃいました。燕はこれを聞いてなんとも言えないここちになりまして、いっそ王子の肩で寒さにこごえて死んでしまおうかとも思いながらしおしおとして御返事もしないでいますと、だれか二人王子の像の下にある露台ろだいこしかけてひそひそ話をしているものがあります。
 王子も燕も気がついて見ますとそこには一人のわかい武士と見目みめ美しいおとめとがこしをかけていました。二人はもとよりお話を聞くものがあろうとは思いませんので、しきりとたがいに心のありたけを打ち明かしていました。やがて武士が申しますのには、
「二人は早く結婚けっこんしたいのだけれどもたいせつなものがないのでできないのは残念だ。それは私の家では結婚する時にきっと先祖から伝えてきた名玉を結婚の指輪に入れなければできない事になっています、ところがだれかがそれをぬすんでしまいましたからどうしても結婚の式をあげることはできません」
 おとめはもとよりこの武士がわかいけれども勇気があって強くってたびたびの戦いで功名こうみょうてがらをしたのをしたってどうかそのおくさんになりたいと思っていたのですから、なみだをはらはらと流しながら嘆息たんそくをして、なんのことばの出しようもありません。しまいには二人手を取りあっていていました。
 燕は世の中にはあわれな話もあるものだと思いながらふと王子をあおいで見ますと、王子の目からも涙がしきりと流れていました。燕はおどろいてちかぢかとすりよりながら「どうなさいました」と申しますと王子は、
「きのどくな二人だ。かのわかい武士の言う名玉というのは今は私のひとみになっている、二つのオパールの事であるが、王が私の立像を造られようとなされた時、私のひとみに使うほどりっぱな玉がどこにもなかったので、たいそう心をいためておいでなさると悪いへつらいずきな家来が、それはおやすい御用でございますと言ってあのわかい武士の父上をおとずれてよもやまの話のまぎれにそっとあの大事な玉をぬすんでしまったのだ。私はもう目が見えなくなってもいいからどうか私の目からひとみをぬき出してあの二人にやってくれ」
 とおっしゃりながらなお涙をはらはらと流されました。およそ世の中でめくらほどきのどくなものはありません。毎日きれいに照らす日の目も、毎晩美しくかがやく月の光も、青いわか葉もあか紅葉もみじも、水の色も空のいろどりも、みんな見えなくなってしまうのです。試みに目をふさいで一日だけがまんができますか、できますまい。それを年が年じゅう死ぬまでしていなければならないのだから、ほんとうに思いやるのもあわれなほどでしょう。
 王子はありったけの身のまわりをあわれな人におやりなすったのみか、今はまた何よりもたいせつな目までつぶそうとなさるのですもの。燕はほとほとなんとお返事をしていいのかわからないでうつぶいたままでこれもしくしく泣きだしました。
 王子はやがて涙をはらって、
「ああこれは私が弱かった。泣くほど自分のものをおしんでそれを人にほどこしたとてなんの役にたつものぞ。心から喜んでほどこしをしてこそ神様のお心にもかなうのだ。むかしキリストというおかたは人間のためには十字架じゅうじかの上で身を殺してさえ喜んでいらっしたのではないか。もう私は泣かぬ。さあ早くこの玉を取ってあのわかい武士にやってくれ、さ、早く」
 とおせきになります。燕はなおも心を定めかねて思いわずらっていますうちに、わかい武士とおとめとは立ち上がって悲しそうに下を向きながらとぼとぼとおしろの方に帰って行きます。もう日がとっぷりとくれて、に帰る鳥が飛び連れてかあかあと夕焼けのした空のあなたに見えています。王子はそれをごらんになるとおしかりになるばかり、燕をせいて早くひとみをぬけとおっしゃいます。燕はひくにひかれぬ立場になって、
「それではしかたがございません、御免ごめんこうむります」
 と申しますと、観念して王子の目からひとみをぬいてしまいました。おくれてはなるまいとその二つをくちばしにくわえるが早いか、力をこめて羽ばたきしながら二人のあとを追いかけました。王子はもとのとおり町を見下ろした形で立っていられますが、もうなんにも見えるのではありませんかった。
 燕がものの四、五町も走って行って二人の前にオパールを落としますとまずおとめがそれに目をつけて取り上げました。わかい武士は一目見るとおどろいてそれを受け取ってしばらくは無言で見つめていましたが、
「これだ、これだ、この玉だ。ああ私はもう結婚ができる。結婚をして人一倍の忠義ができる。神様のおめぐみ、ありがたいかたじけない。この玉をみつけた上は明日あすにでも御婚礼ごこんれいをしましょう」
 と喜びがこみ上げて二人とも身をふるわせて神にお礼を申します。
 これを見た燕はどんなけっこうなものをもらったよりもうれしく思って、心も軽く羽根も軽く王子のもとに立ちもどってお肩の上にちょんとすわり、
「ごらんなさい王子様。あの二人の喜びはどうです。おどらないばかりじゃありませんか。ごらんなさい泣いているのだかわらっているのだかわかりません。ごらんなさいあのわかい武士が玉をおしいただいているでしょう」
 と息もつかずに申しますと、王子は下を向いたままで、
「燕や私はもう目が見えないのだよ」
 とおっしゃいました。
 さて次の日に二人の御婚礼がありますので、町中の人はこの勇ましいわかい武士とやさしく美しいおとめとをことほごうと思って朝から往来をうずめて何もかもはなやかな事でありました。家々の窓からは花輪や国旗やリボンやが風にひるがえって愉快ゆかいな音楽の声で町中がどよめきわたります。燕はちょこなんと王子の肩にすわって、今馬車が来たとか今小児が万歳をやっているとか、美しい着物の坊様ぼうさまが見えたとか、せいの高い武士が歩いて来るとか、詩人がお祝いの詩を声ほがらかに読み上げているとか、むすめの群れがおどりながら現われたとか、およそ町に起こった事を一つ一つ手に取るように王子にお話をしてあげました。王子はだまったままで下を向いて聞いていらっしゃいます。やがて花よめ花むこが騎馬きばでお寺に乗りつけてたいそうさかんな式がありました。その花むこの雄々おおしかった事、花よめの美しかった事は燕の早口でも申しつくせませんかった。
 天気のよい秋びよりは日がくれると急に寒くなるものです。さすがににぎやかだった御婚礼が済みますと、町はまたもとのとおりに静かになって夜がしだいにふけてきました。燕は目をきょろきょろさせながら羽根を幾度いくどか組み合わせ直してくびをちぢこめてみましたが、なかなかこらえきれない寒さでつかれません。まんじりともしないで東の空がぼうっとうすむらさきになったころ見ますと屋根の上には一面に白いきらきらしたものがしいてあります。
 燕はおどろいてその由を王子に申しますと、王子もたいそうおおどろきになって、
「それはしもというもので――霜と言う声を聞くと燕はあしの言った事を思い出してぎょっとしました。葦はなんと言ったか覚えていますか――冬の来た証拠しょうこだ、まあ自分とした事が自分の事にばかり取りまぎれていておまえの事を思わなかったのはじつに不埒ふらちであった。長々御世話になってありがたかったがもう私もこの世には用のないからだになったからナイルの方に一日も早く帰ってくれ。かれこれするうちに冬になるととてもおまえの生命は続かないから」
 としみじみおっしゃいました。燕はなんでいまさら王子をふりすてて行かれましょう。たとえこごえ死にに死にはするともここ一足ひとあしも動きませんと殊勝しゅしょうな事を申しましたが、王子は、
「そんなわからずやを言うものではない。おまえが今年ことし死ねばおまえと私の会えるのは今年限り。今日ナイルに帰ってまた来年おいで。そうすれば来年またここで会えるから」
 と事をわけて言い聞かせてくださいました。燕はそれもそうだ、
「そんなら王子様来年またお会い申しますから御無事でいらっしゃいまし。お目が御不自由で私のいないために、なおさらの御不自由でしょうが、来年はきっとたくさんのお話を持って参りますから」
 と燕は泣く泣く南の方へと朝晴れの空を急ぎました。このまめまめしい心よしの友だちがあたたかい南国へ羽をのして行くすがたのなごりも王子は見る事もおできなさらず、おいたわしいおつむりをお下げなすったままうすら寒い風の中にひとり立っておいででした。
 さてそのうちに日もたって冬はようやく寒くなり雪だるまのできる雪がちらちらとふりだしますと、もうクリスマスには間もありません。欲張りもけちんぼうも年寄りも病人もこのころばかりは晴れ晴れとなって子どものようになりますので、かしげがちの首もまっすぐに、下向きがちの顔も空を見るようになるのがこのごろです。で、往来の人は長々見わすれていた黄金の王子はどうしていられる事かとふりあおぎますと、おどろくまい事かすき通るほど光ってござった王子はまるで癩病らいびょうやみのように真黒まっくろで、目は両方ともひたとつぶれてござらっしゃります。
「なんだこのぶざまは、町のまん中にこんなものは置いて置けやしない」
 と一人が申しますと、
「ほんとうだ、クリスマス前にこわしてしまおうじゃないか」
 と一人がほざきます。
「生きてるうちにこの王子は悪い事をしたにちがいない。それだからこそ死んだあとでこのざまになるんだ」とまた一人がさけびます。
「こわせこわせ」
「たたきこわせたたきこわせ」
 という声がやがてあちらからもこちらからも起こって、しまいには一人が石をなげますと一人はかわらをぶつける。とうとう一かたまりのわかい者がなわとはしごを持って来てなわを王子の頸にかけるとみんなで寄ってたかってえいえい引っぱったものですから、さしもに堅固けんごな王子の立像も無惨むざんな事にはいしずえをはなれてころび落ちてしまいました。
 ほんとうにかわいそうな御最期ごさいごです。
 かくて王子のからだは一か月ほど地の上に横になってありましたが、町の人々は相談してああして置いてもなんの役にもたたないからというのでそれをとかして一つのかねを造ってお寺の二階に収める事にしました。
 その次の年あの燕がはるばるナイルから来て王子をたずねまわりましたけれどもかげも形もありませんかった。
 しかし今でもこの町に行く人があれば春でも夏でも秋でも冬でもちょうど日がくれて仕事が済む時、ともしがついて夕炊ゆうげのけむりが家々から立ち上る時、すべてのものが楽しく休むその時にお寺の高いとうの上からんだすずしい鐘の音が聞こえておにであれであれ、悪い者は一刻いっこくもこの楽しい町にいたたまれないようにひびきわたるそうであります。めでたしめでたし。





底本:「一房の葡萄」角川文庫、角川書店
   1952(昭和27)年 3月10日初版発行
   1967(昭和42)年 5月30日39版発行
   1987(昭和62)年11月10日改版32版発行
初出:「婦人の国」1926(大正15)年4月
入力:土屋隆
校正:鈴木厚司
2003年6月26日作成
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