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夢(ゆめ)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-18 16:05:02  点击:289  切换到繁體中文

底本: 芥川龍之介全集6
出版社: ちくま文庫、筑摩書房
初版発行日: 1987(昭和62)年3月24日
入力に使用: 1993(平成5)年2月25日第6刷


底本の親本: 筑摩全集類聚版芥川龍之介全集
出版社: 筑摩書房
初版発行日: 1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月

 

わたしはすっかり疲れていた。肩やくびるのは勿論、不眠症もかなり甚しかった。のみならず偶々たまたま眠ったと思うと、いろいろの夢を見勝ちだった。いつか誰かは「色彩のある夢は不健全な証拠だ」と話していた。が、わたしの見る夢は画家と云う職業も手伝うのか、大抵たいてい色彩のないことはなかった。わたしはある友だちと一しょにある場末ばすえのカッフェらしい硝子戸ガラスどなかへはいって行った。そのまたほこりじみた硝子戸の外はちょうど柳の新芽をふいた汽車の踏み切りになっていた。わたしたちは隅のテエブルに坐り、何かわんに入れた料理を食った。が、食ってしまって見ると、椀の底に残っているのは一すんほどのへびあたまだった。――そんな夢も色彩ははっきりしていた。
 わたしの下宿は寒さの厳しい東京のある郊外にあった。わたしは憂鬱ゆううつになって来ると、下宿の裏から土手どての上にあがり、省線電車の線路を見おろしたりした。線路は油や金錆かなさびに染った砂利じゃりの上に何本も光っていた。それから向うの土手の上には何かしいらしい木が一本斜めに枝を伸ばしていた。それは憂鬱そのものと言っても、少しもつかえない景色だった。しかし銀座や浅草よりもわたしの心もちにぴったりしていた。「毒を以て毒を制す、」――わたしはひとり土手の上にしゃがみ、一本の煙草をふかしながら、時々そんなことを考えたりした。
 わたしにも友だちはないわけではなかった。それはある年の若い金持ちの息子むすこの洋画家だった。彼はわたしの元気のないのを見、旅行に出ることをすすめたりした。「金の工面くめんなどはどうにでもなる。」――そうも親切に言ってくれたりした。が、たとい旅行に行っても、わたしの憂鬱のなおらないことはわたし自身誰よりも知りつくしていた。現にわたしは三四年前にもやはりこう云う憂鬱に陥り、一時でも気をまぎらせるためにはるばる長崎ながさきに旅行することにした。けれども長崎へ行って見ると、どの宿もわたしには気に入らなかった。のみならずやっと落ちついた宿も夜は大きい火取虫が何匹もひらひら舞いこんだりした。わたしはさんざん苦しんだ揚句あげく、まだ一週間とたたないうちにもう一度東京へ帰ることにした。……
 ある霜柱の残っている午後、わたしは為替かわせをとりに行った帰りにふと制作慾を感じ出した。それは金のはいったためにモデルを使うことの出来るのも原因になっていたのに違いなかった。しかしまだそのほかにも何か発作的ほっさてきに制作慾の高まり出したのも確かだった。わたしは下宿へ帰らずにとりあえずMと云う家へ出かけ、十号ぐらいの人物を仕上げるためにモデルを一人雇うことにした。こう云う決心は憂鬱の中にも久しぶりにわたしを元気にした。「この画さえ仕上げれば死んでも善い。」――そんな気も実際したものだった。
 Mと云う家からよこしたモデルは顔は余り綺麗きれいではなかった。が、体は――殊に胸は立派りっぱだったのに違いなかった。それからオオル・バックにした髪の毛も房ふさしていたのに違いなかった。わたしはこのモデルにも満足し、彼女を籐椅子とういすの上へ坐らせて見た後、早速さっそく仕事にとりかかることにした。裸になった彼女は花束の代りに英字新聞のしごいたのを持ち、ちょっと両足を組み合せたまま、くびを傾けているポオズをしていた。しかしわたしは画架がかに向うと、今更のように疲れていることを感じた。北に向いたわたしの部屋には火鉢の一つあるだけだった。わたしは勿論この火鉢に縁のげるほど炭火を起した。が、部屋はまだ十分に暖らなかった。彼女は籐椅子に腰かけたなり、時々両腿りょうももの筋肉を反射的に震わせるようにした。わたしはブラッシュを動かしながら、その度に一々苛立いらだたしさを感じた。それは彼女に対するよりもストオヴ一つ買うことの出来ないわたし自身に対する苛立たしさだった。同時にまたこう云うことにも神経を使わずにはいられないわたし自身に対する苛立たしさだった。
「君のうちはどこ?」
「あたしのうち? あたしの家は谷中三崎町さんさきちょう。」
「君一人で住んでいるの?」
「いいえ、お友だちと二人で借りているんです。」
 わたしはこんな話をしながら、静物せいぶついた古カンヴァスの上へおもむろに色を加えて行った。彼女はくびを傾けたまま、全然表情らしいものを示したことはなかった。のみならず彼女の言葉は勿論、彼女の声もまた一本調子だった。それはわたしには持って生まれた彼女の気質としか思われなかった。わたしはそこに気安さを感じ、時々彼女を時間外にもポオズをつづけて貰ったりした。けれども何かの拍子ひょうしには目さえ動かさない彼女の姿にある妙な圧迫を感じることもないわけではなかった。
 わたしの制作ははかどらなかった。わたしは一日の仕事を終ると、大抵たいてい絨氈じゅうたんの上にころがり、頸すじや頭をんで見たり、ぼんやり部屋の中を眺めたりしていた。わたしの部屋には画架のほかに籐椅子の一脚あるだけだった。籐椅子は空気の湿度しつどの加減か、時々誰も坐らないのにとうきしむ音をさせることもあった。わたしはこう云う時には無気味になり、早速どこかへ散歩へ出ることにしていた。しかし散歩に出ると云っても、下宿の裏の土手伝いに寺の多い田舎町いなかまちへ出るだけだった。
 けれどもわたしは休みなしに毎日画架に向っていた。モデルもまた毎日かよって来ていた。そのうちにわたしは彼女の体に前よりも圧迫を感じ出した。それにはまた彼女の健康に対するうらやましさもあったのに違いなかった。彼女は不相変あいかわらず無表情にじっと部屋の隅へ目をやったなり、薄赤い絨氈じゅうたんの上に横わっていた。「この女は人間よりも動物に似ている。」――わたしは画架にブラッシュをやりながら、時々そんなことを考えたりした。
 ある生暖なまあたたかい風の立った午後、わたしはやはり画架に向かい、せっせとブラッシュを動かしていた。モデルはきょうはいつもよりは一層むっつりしているらしかった。わたしはいよいよ彼女の体に野蛮やばんな力を感じ出した。のみならず彼女のわきしたや何かにある※(「均のつくり」、第3水準1-14-75)においも感じ出した。その※(「均のつくり」、第3水準1-14-75)はちょっと黒色人種こくしょくじんしゅ皮膚ひふ臭気しゅうきに近いものだった。
「君はどこで生まれたの?」
「群馬県××町」
「××町? 機織はたおの多い町だったね。」
「ええ。」
「君ははたを織らなかったの?」
「子供の時に織ったことがあります。」
 わたしはこう云う話の中にいつか彼女の乳首ちちくびの大きくなり出したのに気づいていた。それはちょうどキャベツののほぐれかかったのに近いものだった。わたしは勿論ふだんのように一しんにブラッシュを動かしつづけた。が、彼女の乳首に――そのまた気味の悪い美しさに妙にこだわらずにはいられなかった。
 そのばんも風はやまなかった。わたしはふと目をさまし、下宿の便所へ行こうとした。しかし意識がはっきりして見ると、障子しょうじだけはあけたものの、ずっとわたしの部屋の中を歩きまわっていたらしかった。わたしは思わず足をとめたまま、ぼんやりわたしの部屋の中に、――殊にわたしの足もとにある、薄赤い絨氈じゅうたんに目を落した。それから素足すあしの指先にそっと絨氈をでまわした。絨氈の与える触覚は存外毛皮に近いものだった。「この絨氈の裏は何色だったかしら?」――そんなこともわたしには気がかりだった。が、裏をまくって見ることは妙にわたしには恐しかった。わたしは便所へ行った後、※(「勹<夕」、第3水準1-14-76)そうそう床へはいることにした。
 わたしは翌日の仕事をすますと、いつもよりも一層がっかりした。と云ってわたしの部屋にいることは反ってわたしには落ち着かなかった。そこでやはり下宿の裏の土手の上へ出ることにした。あたりはもう暮れかかっていた。が、立ち木や電柱は光の乏しいのにもかかわらず、不思議にもはっきり浮き上っていた。わたしは土手伝いに歩きながら、おお声に叫びたい誘惑を感じた。しかし勿論そんな誘惑は抑えなければならないのに違いなかった。わたしはちょうど頭だけ歩いているように感じながら、土手伝いにある見すぼらしい田舎町いなかまちりて行った。

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