您现在的位置: 贯通日本 >> 作家 >> 芥川 竜之介 >> 正文

邪宗門(じゃしゅうもん)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-16 9:03:37  点击:  切换到繁體中文



        十三

 そこでお話は元へ戻りますが、その間に若殿様は、思いもよらない出来事から、かねて御心を寄せていらしった中御門なかみかどの御姫様と、親しい御語いをなさる事が御出来なさるように相成りました。その思いもよらない事と申しますのは、もう花橘はなたちばな※(「均-土」、第3水準1-14-75)におい時鳥ほととぎすの声とが雨もよいの空をおもわせる、ある夜の事でございましたが、その夜は珍しく月が出て、夜目にも、おぼろげには人の顔が見分けられるほどだったと申します。若殿様はある女房の所へ御忍びになった御帰り途で、御供の人数にんずも目立たないように、僅か一人か二人御召連れになったまま、その明るい月の中を車でゆっくりと御出でになりました。が、何しろ時刻が遅いので、人っ子一人通らない往来には、遠田とおだかわずの声と、車の輪の音とが聞えるばかり、殊にあの寂しい美福門びふくもんの外は、よく狐火の燃える所だけに、何となく鬼気が身に迫って、心無い牛の歩みさえ早くなるような気が致されます。――そう思うと、急に向うの築土ついじの陰で、怪しいしわぶきの声がするや否や、きらきらと白刃しらはを月に輝かせて、盗人と覚しい覆面の男が、左右から凡そ六七人、若殿様の車を目がけて、猛々たけだけしく襲いかかりました。
 と同時に牛飼うしかい童部わらべを始め、御供の雑色ぞうしきたちは余りの事に、魂も消えるかと思ったのでございましょう。驚破すわと云う間もなく、さんを乱して、元来た方へ一散に逃げ出してしまいました。が、盗人たちはそれには目もくれる気色けしきもなく、矢庭やにわに一人が牛の※(「革+橿のつくり」、第3水準1-93-81)はづなを取って、往来のまん中へぴたりと車を止めるが早いか、四方から白刃しらはの垣を造って、犇々ひしひしとそのまわりを取り囲みますと、先ず頭立かしらだったのが横柄にすだれを払って、「どうじゃ。この殿に違いはあるまいな。」と、仲間の方を振り向きながら、念を押したそうでございます。その容子ようすがどうも物盗りとも存ぜられませんので、御驚きの中にも若殿様は不審に思召されたのでございましょう。それまでじっとしていらっしったのが、扇をななめに相手の方を、透かすようにして御窺いなさいますと、その時その盗人の中にしわがれた声がして、
「おう、しかとこの殿じゃ。」と、憎々にくにくしげに答えました。するとその声が、また何となくどこかで一度、御耳になすったようでございましたから、いよいよ怪しく思召して、明るい月の光に、その声のぬしを、きっと御覧になりますと、おもてこそ包んで居りますが、あの中御門の御姫様に年久しく御仕え申している、平太夫へいだゆうに相違はございません。この一刹那はさすがの若殿様も、思わず総身そうみの毛がよだつような、恐ろしい思いをなすったと申す事でございました。なぜと申しますと、あの平太夫が堀川の御一家ごいっけかたきのように憎んでいる事は、若殿様の御耳にも、とうからはいっていたからでございます。
 いや、現にその時も、平太夫がそう答えますと、さっきの盗人は一層声をあららげて、太刀の切先きっさきを若殿様の御胸に向けながら、
「さらば御命おんいのちを申受けようず。」と罵ったと申すではございませんか。

        十四

 しかしあの飽くまでも、物に御騒ぎにならない若殿様は、すぐに勇気を御取り直しになって、悠々と扇を御弄おもてあそびなさりながら、
「待て。待て。予の命が欲しくば、次第によって呉れてやらぬものでもない。が、その方どもは、何でそのようなものを欲しがるのじゃ。」と、まるで人事のように御尋ねになりました。すると頭立かしらだった盗人は、白刃しらはますます御胸へ近づけて、
中御門なかみかどの少納言殿は、誰故の御最期ごさいごじゃ。」
「予は誰やら知らぬ。が、予でない事だけは、しかとしたあかしもある。」
「殿か、殿の父君か。いずれにしても、殿はかたきの一味じゃ。」
 頭立った一人がこう申しますと、残りの盗人どもも覆面の下で、
「そうじゃ。仇の一味じゃ。」と、声々に罵り交しました。中にもあの平太夫へいだゆうは歯噛みをして、車の中を獣のように覗きこみながら、太刀たちで若殿様の御顔を指さしますと、
「さかしらは御無用じゃよ。それよりは十念じゅうねんなと御称え申されい。」と、嘲笑あざわらうような声で申したそうでございます。
 が、若殿様は相不変あいかわらず落ち着き払って、御胸の先の白刃も見えないように、
「してその方たちは、皆少納言殿の御内みうちのものか。」と、ほうり出すように御尋ねなさいました。すると盗人たちは皆どうしたのか、一しきり答にためらったようでございましたが、その気色けしきを見てとった平太夫は、透かさず声を励まして、
「そうじゃ。それがまた何と致した。」
「いや、何とも致さぬが、もしこの中に少納言殿の御内みうちでないものがいたと思え。そのものこそはあめした阿呆あほうものじゃ。」
 若殿様はこう仰有おっしゃって、美しい歯を御見せになりながら、肩をゆすって御笑いになりました。これには命知らずの盗人たちも、しばらくはきもを奪われたのでございましょう。御胸に迫っていた太刀先さえ、この時はもう自然と、車の外の月明りへ引かれていたと申しますから。
「なぜと申せ。」と、若殿様は言葉を御継ぎになって、「予を殺害せつがいした暁には、その方どもはことごとく検非違使けびいしの目にかかり次第、極刑ごっけいに行わるべき奴ばらじゃ。元よりそれも少納言殿の御内のものなら、おのが忠義に捨つる命じゃによって、定めて本望に相違はあるまい。が、さもないものがこの中にあって、わずかばかりの金銀が欲しさに、予が身を白刃に向けるとすれば、そやつは二つとない大事な命を、その褒美ほうびと換えようず阿呆ものじゃ。何とそう云う道理ではあるまいか。」
 これを聞いた盗人たちは、今更のように顔を見合せたけはいでございましたが、平太夫へいだゆうだけは独り、気違いのようにたけり立って、
「ええ、何が阿呆ものじゃ。その阿呆ものの太刀にかかって、最期さいごを遂げる殿の方が、百層倍も阿呆ものじゃとは覚されぬか。」
「何、その方どもが阿呆ものだとな。ではこのうちに少納言殿の御内でないものもいるのであろう。これは一段と面白うなって参った。さらばその御内でないものどもに、ちと申し聞かす事がある。その方どもが予を殺害しようとするのは、全く金銀が欲しさにする仕事であろうな。さて金銀が欲しいとあれば、予はその方どもに何なりと望み次第の褒美を取らすであろう。が、その代り予の方にもまた頼みがある。何と、同じ金銀のためにする事なら、褒美の多い予の方に味方して、利得を計ったがよいではないか。」
 若殿様は鷹揚おうように御微笑なさりながら、指貫さしぬきの膝を扇で御叩きになって、こう車の外の盗人どもと御談じになりました。

上一页  [1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8] [9] [10]  ... 下一页  >>  尾页


 

作家录入:贯通日本语    责任编辑:贯通日本语 

  • 上一篇作家:

  • 下一篇作家:
  •  
     
     
    网友评论:(只显示最新10条。评论内容只代表网友观点,与本站立场无关!)
     

    没有任何图片作家

    广告

    广告