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河童(かっぱ)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-15 15:24:50  点击:  切换到繁體中文



        四

 僕はだんだん河童の使う日常の言葉を覚えてきました。従って河童の風俗や習慣ものみこめるようになってきました。その中でも一番不思議だったのは河童は我々人間の真面目まじめに思うことをおかしがる、同時に我々人間のおかしがることを真面目に思う――こういうとんちんかんな習慣です。たとえば我々人間は正義とか人道とかいうことを真面目に思う、しかし河童はそんなことを聞くと、腹をかかえて笑い出すのです。つまり彼らの滑稽こっけいという観念は我々の滑稽という観念と全然標準をことにしているのでしょう。僕はある時医者のチャックと産児制限の話をしていました。するとチャックは大口をあいて、鼻目金はなめがねの落ちるほど笑い出しました。僕はもちろん腹が立ちましたから、何がおかしいかと詰問しました。なんでもチャックの返答はだいたいこうだったように覚えています。もっとも多少細かいところは間違まちがっているかもしれません。なにしろまだそのころは僕も河童の使う言葉をすっかり理解していなかったのですから。
「しかし両親のつごうばかり考えているのはおかしいですからね。どうもあまり手前勝手ですからね。」
 その代わりに我々人間から見れば、実際また河童かっぱのお産ぐらい、おかしいものはありません。現に僕はしばらくたってから、バッグの細君のお産をするところをバッグの小屋へ見物にゆきました。河童もお産をする時には我々人間と同じことです。やはり医者や産婆さんばなどの助けを借りてお産をするのです。けれどもお産をするとなると、父親は電話でもかけるように母親の生殖器に口をつけ、「お前はこの世界へ生まれてくるかどうか、よく考えた上で返事をしろ。」と大きな声で尋ねるのです。バッグもやはりひざをつきながら、何度も繰り返してこう言いました。それからテエブルの上にあった消毒用の水薬すいやくでうがいをしました。すると細君の腹の中の子は多少気兼ねでもしているとみえ、こう小声に返事をしました。
「僕は生まれたくはありません。第一僕のおとうさんの遺伝は精神病だけでもたいへんです。その上僕は河童的存在を悪いと信じていますから。」
 バッグはこの返事を聞いた時、てれたように頭をかいていました。が、そこにい合わせた産婆はたちまち細君の生殖器へ太い硝子ガラスかんを突きこみ、何か液体を注射しました。すると細君はほっとしたように太い息をもらしました。同時にまた今まで大きかった腹は水素瓦斯すいそガスを抜いた風船のようにへたへたと縮んでしまいました。
 こういう返事をするくらいですから、河童の子どもは生まれるが早いか、もちろん歩いたりしゃべったりするのです。なんでもチャックの話では出産後二十六日目に神の有無うむについて講演をした子どももあったとかいうことです。もっともその子どもは二月目ふたつきめには死んでしまったということですが。
 お産の話をしたついでですから、僕がこの国へ来た三月目みつきめに偶然あるまちかどで見かけた、大きいポスタアの話をしましょう。その大きいポスタアの下には喇叭らっぱを吹いている河童だの剣を持っている河童だのが十二三匹いてありました。それからまた上には河童の使う、ちょうど時計とけいのゼンマイに似た螺旋らせん文字が一面に並べてありました。この螺旋文字を翻訳すると、だいたいこういう意味になるのです。これもあるいは細かいところは間違まちがっているかもしれません。が、とにかく僕としては僕といっしょに歩いていた、ラップという河童の学生が大声に読み上げてくれる言葉をいちいちノオトにとっておいたのです。

遺伝的義勇隊をつのる※[#感嘆符三つ、63-8]
健全なる男女の河童よ※[#感嘆符三つ、63-9]
悪遺伝を撲滅ぼくめつするために
不健全なる男女の河童と結婚せよ※[#感嘆符三つ、63-11]

 僕はもちろんその時にもそんなことの行なわれないことをラップに話して聞かせました。するとラップばかりではない、ポスタアの近所にいた河童はことごとくげらげら笑い出しました。
「行なわれない? だってあなたの話ではあなたがたもやはり我々のように行なっていると思いますがね。あなたは令息が女中にれたり、令嬢が運転手に惚れたりするのはなんのためだと思っているのです? あれは皆無意識的に悪遺伝を撲滅しているのですよ。第一この間あなたの話したあなたがた人間の義勇隊よりも、――一本の鉄道を奪うために互いに殺し合う義勇隊ですね、――ああいう義勇隊に比べれば、ずっと僕たちの義勇隊は高尚ではないかと思いますがね。」
 ラップは真面目まじめにこう言いながら、しかも太い腹だけはおかしそうに絶えず浪立なみだたせていました。が、僕は笑うどころか、あわててある河童かっぱをつかまえようとしました。それは僕の油断を見すまし、その河童が僕の万年筆を盗んだことに気がついたからです。しかし皮膚のなめらかな河童は容易に我々にはつかまりません。その河童もぬらりとすべり抜けるが早いかいっさんに逃げ出してしまいました。ちょうど蚊のようにやせたからだを倒れるかと思うくらいのめらせながら。

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