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貝殻(かいがら)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-15 15:20:02  点击:  切换到繁體中文



     六 東京人

 或待合まちあひのおかみさんが一人ひとり、懇意な或芸者の為に或出入りの呉服屋へ帯を一本頼んでやつた。さてその帯が出来上つて見ると、それは註文ぬしのお上さんには勿論、若い呉服屋の主人にも派手はで過ぎると思はずにはゐられぬものだつた。そこでこの呉服屋の主人は何も言はずに二百円の帯を百五十円にをさめることにした。しかしこちらの心もちは相手のお上さんには通じてゐた。
 おかみさんは金を払つたのち、格別その帯を芸者にも見せずに箪笥たんすの中にしまつて置いた。が、芸者は暫くたつてから、「お上さん、あの帯はまだ?」と言つた。お上さんはやむを得ずその帯を見せ、実際は百五十円払つたのに芸者には値段を百二十円に話した。それは芸者の顔色かほいろでも、やはり派手過ぎると思つてゐることは、はつきりお上さんにわかつた為だつた。が、芸者もまた何も言はずにその帯を貰つて帰つたのち、百二十円の金を届けることにした。
 芸者は百二十円と聞いたものの、その帯がもつと高いことは勿論ちやんと承知してゐた。それから彼女自身はしめずに妹にその帯をしめさせることにした。何、莫迦莫迦ばかばかしい遠慮ばかりしてゐる?――東京人と云ふものは由来ゆらいかう云ふ莫迦莫迦しい遠慮ばかりしてゐる人種なのだよ。

     七 幸福な悲劇

 彼女は彼を愛してゐた。彼もまた彼女を愛してゐた。が、どちらも彼等の気もちを相手に打ち明けるのに臆病だつた。
 彼はその後彼女以外の――仮に3と呼ぶとすれば、3と云ふ女と馴染なじみ出した。彼女は彼に反感を生じ、彼以外の――仮に4と呼ぶとすれば、4と云ふ男に馴染み出した。彼は又急に嫉妬を感じ、彼女を4から奪はうとした。彼女も彼と馴染むことは本望ほんまうだつたのに違ひなかつた。しかしもうその時には幸福にも――或は不幸にもいつか4に愛を感じてゐた。のみならず更に幸福だつたことには――或はこれも不幸だつたことには彼もいざとなつて見ると、ひややかに3と別れることは出来ない心もちに陥つてゐた。
 彼は3と逢ひながら、時々彼女のことを思ひ出してゐる。彼女も亦4と遠出をする度に耳慣れない谷川の音などを聞き、時々彼のことを思ひ出してゐる。……

     八 実感

 或殺人犯人の言葉。――「わたしはあいつを殺しました。あいつが幽霊に出て来るのはもつとも過ぎる位尤もです。唯わたしが殺した通りの死骸になつて出て来るならば、恐ろしいことも何もありません。けれどもあいつが生きてゐる時と少しも変らない姿をして立つてゐたり何かするのが恐しいのです。ほんたうにどうせ幽霊に出るならば、死骸になつて出て来やがればいのに。」

     九 車力

 僕は十一か十二の時、き箱を積んだ荷車が一台、坂を登らうとしてゐるを見、後ろから押してやらうとした。するとその車を引いてゐた男は車越しに僕を見返るが早いか、「こら」とおほ声に叱りつけた。僕は勿論この男の誤解を不快に思はずにはゐられなかつた。
 それから五六日たつたのち、この男は又荷車を引き、前と同じ坂を登らうとしてゐた。今度は積んであるのは炭俵だつた。が、僕は「勝手にしろ」と思ひ、唯道ばたにたたずんでゐた。すると車の揺れる拍子に炭俵が一つ転げ落ちた。この男はやつと楫棒かぢぼうを下ろし、元のやうに炭俵を積み直した。それは僕にはなんともなかつた。が、この男は前こごみになり、炭俵を肩へ上げながら、誰か人間にでも話しかけるやうに「こん畜生ちくしよう、いやに気をかしやがつて。車から下りるのはまだ早いや」と言つた。僕はそれ以来この男に、――この黒ぐろと日に焼けた車力しやりきに或親しみを感ずるやうになつた。

     十 或農夫の論理

 或山村さんそんの農夫が一人ひとり、隣家の牝牛めうしを盗んだ為に三箇月の懲役に服することになつた。獄中の彼は別人のやうに神妙に一々獄則を守り、模範的囚人と呼ばれさへした。が、免役になつて帰つて来ると、もう一度同じ牝牛を盗み出した。隣家の主人は立腹し、今度もまた警察権を借りることにした。彼等の村の駐在所の巡査は早速さつそく彼を拘引こういんした上、威丈高ゐたけだかに彼を叱りつけた。
「貴様はしやうりもないやつだな。」
 すると彼は仏頂面ぶつちやうづらをしたまま、かう巡査に返事をした。
「わしはあの牛を盗んだから、三箇月も苦役くえきをして来たのでせう。して見ればあの牛はわしのものです。それが家へ帰つて見ると、やつぱり隣の小屋にゐましたから、(もつとも前よりは肥つてゐました。)わしの小屋へ曳いて来ただけですよ。それがどこが悪いのです?」

     十一 嫉妬

[#底本では起こしのカギがヌケ]わたしはずゐぶん嫉妬深いと見えます。たとへば宿屋に泊まつた時、そこの番頭や女中たちがわたしに愛想あいそよくお時宜じぎをするでせう。それから又ほかの客が来ると、やはり前と同じやうに愛想よくお時宜をしてゐるでせう。わたしはあれを見てゐるとなんだかあとから来た客に反感を持たずにはゐられないのです。」――その癖僕にかう言つた人は僕の知つてゐる人々のうちでも一番温厚な好紳士だつた。

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