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海のほとり(うみのほとり)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-13 7:54:16  点击:  切换到繁體中文



        二

 ……一時間ばかりたったのち手拭てぬぐいを頭に巻きつけた僕等は海水帽に貸下駄かしげたを突っかけ、半町ほどある海へおよぎに行った。道は庭先をだらだら下りると、すぐに浜へつづいていた。
「泳げるかな?」
「きょうは少し寒いかも知れない。」
 僕等は弘法麦こうぼうむぎの茂みをけ避け、(しずくをためた弘法麦の中へうっかり足を踏み入れると、ふくらはぎかゆくなるのに閉口したから。)そんなことを話して歩いて行った。気候は海へはいるには涼し過ぎるのに違いなかった。けれども僕等は上総かずさの海に、――と言うよりもむしろ暮れかかった夏に未練みれんを持っていたのだった。
 海には僕等の来たころ勿論もちろん、きのうさえまだ七八人の男女なんにょ浪乗なみのりなどを試みていた。しかしきょうは人かげもなければ、海水浴区域を指定する赤旗あかはたも立っていなかった。ただ広びろとつづいたなぎさに浪の倒れているばかりだった。葭簾囲よしずがこいの着ものぎ場にも、――そこには茶色の犬が一匹、こまかい羽虫はむしれを追いかけていた。が、それも僕等を見ると、すぐに向うへ逃げて行ってしまった。
 僕は下駄だけは脱いだものの、とうてい泳ぐ気にはなれなかった。しかしMはいつのまにか湯帷子ゆかた眼鏡めがねを着もの脱ぎ場へ置き、海水帽の上へほおかぶりをしながら、ざぶざぶ浅瀬あさせへはいって行った。
「おい、はいる気かい?」
「だってせっかく来たんじゃないか?」
 Mは膝ほどある水の中に幾分いくぶんか腰をかがめたなり、日に焼けた笑顔わらいがおをふり向けて見せた。
「君もはいれよ。」
「僕はいやだ。」
「へん、『嫣然えんぜん』がいりゃはいるだろう。」
莫迦ばかを言え。」
「嫣然」と言うのはここにいるうちに挨拶あいさつぐらいはし合うようになったある十五六の中学生だった。彼は格別美少年ではなかった。しかしどこか若木わかぎに似た水々しさを具えた少年だった。ちょうど十日ばかり以前のある午後、僕等は海からあがった体を熱い砂の上へ投げ出していた。そこへ彼もしおに濡れたなり、すたすた板子いたごを引きずって来た。が、ふと彼の足もとに僕等のころがっているのを見ると、あざやかに歯を見せて一笑した。Mは彼の通り過ぎたのち、ちょっと僕に微苦笑びくしょうを送り、
「あいつ、嫣然えんぜんとして笑ったな。」と言った。それ以来彼は僕等のあいだに「嫣然」と言う名を得ていたのだった。
「どうしてもはいらないか?」
「どうしてもはいらない。」
「イゴイストめ!」
 Mは体をらし濡らし、ずんずんおきへ進みはじめた。僕はMには頓着とんじゃくせず、着もの脱ぎ場から少し離れた、小高い砂山の上へ行った。それから貸下駄をしりの下に敷き、敷島しきしまでも一本吸おうとした。しかし僕のマツチの火は存外強い風のために容易に巻煙草に移らなかった。
「おうい。」
 Mはいつ引っ返したのか、向うの浅瀬にたたずんだまま、何か僕に声をかけていた。けれども生憎あいにくその声も絶えのないなみの音のためにはっきり僕の耳へはいらなかった。
「どうしたんだ?」
 僕のこう尋ねた時にはMはもう湯帷子ゆかたを引っかけ、僕の隣に腰を下ろしていた。
「何、水母くらげにやられたんだ。」
 海にはこの数日来、にわかに水母がえたらしかった。現に僕もおとといの朝、左の肩から上膊じょうはくへかけてずっと針のあとをつけられていた。
「どこを?」
くびのまわりを。やられたなと思ってまわりを見ると、何匹も水の中に浮いているんだ。」
「だから僕ははいらなかったんだ。」
※(「言+虚」、第4水準2-88-74)うそをつけ。――だがもう海水浴もおしまいだな。」
 なぎさはどこも見渡す限り、打ち上げられた海草かいそうのほかはしらじらと日の光に煙っていた。そこにはただ雲の影の時々大走おおばしりに通るだけだった。僕等は敷島をくわえながら、しばらくは黙ってこう言う渚に寄せて来る浪を眺めていた。
「君は教師の口はきまったのか?」
 Mは唐突いきなりとこんなことを尋ねた。
「まだだ。君は?」
「僕か? 僕は……」
 Mの何か言いかけた時、僕等は急に笑い声やけたたましい足音に驚かされた。それは海水着に海水帽をかぶった同年輩どうねんぱい二人ふたりの少女だった。彼等はほとんど傍若無人ぼうじゃくぶじんに僕等の側を通り抜けながら、まっすぐに渚へ走って行った。僕等はその後姿うしろすがたを、――一人ひとり真紅しんくの海水着を着、もう一人はちょうどとらのように黒と黄とだんだらの海水着を着た、軽快な後姿を見送ると、いつか言い合せたように微笑していた。
「彼女たちもまだ帰らなかったんだな。」
 Mの声は常談じょうだんらしい中にも多少の感慨をたくしていた。
「どうだ、もう一ぺんはいって来ちゃ?」
「あいつ一人ならばはいって来るがな。何しろ『ジンゲジ』も一しょじゃ、……」
 僕等は前の「嫣然えんぜん」のように彼等の一人に、――黒と黄との海水着を着た少女に「ジンゲジ」と言う諢名あだなをつけていた。「ジンゲジ」とは彼女の顔だち(ゲジヒト)の肉感的(ジンリッヒ)なことを意味するのだった。僕等は二人ともこの少女にどうも好意を持ちにくかった。もう一人の少女にも、――Mはもう一人の少女には比較的興味を感じていた。のみならず「君は『ジンゲジ』にしろよ。僕はあいつにするから」などと都合つごういことを主張していた。
「そこを彼女のためにはいって来いよ。」
「ふん、犠牲的ぎせいてき精神を発揮してか?――だがあいつも見られていることはちゃんと意識しているんだからな。」
「意識していたって好いじゃないか。」
「いや、どうも少ししゃくだね。」
 彼等は手をつないだまま、もう浅瀬へはいっていた。なみは彼等の足もとへ絶えず水吹しぶきを打ち上げに来た。彼等は濡れるのをおそれるようにそのたびにきっと飛び上った。こう言う彼等のたわむれはこの寂しい残暑の渚と不調和に感ずるほど花やかに見えた。それは実際人間よりもちょうの美しさに近いものだった。僕等は風の運んで来る彼等の笑い声を聞きながら、しばらくまた渚から遠ざかる彼等の姿を眺めていた。
「感心に中々勇敢だな。」
「まだは立っている。」
「もう――いや、まだ立っているな。」
 彼等はとうに手をつながず、別々に沖へ進んでいた。彼等の一人は、――真紅しんくの海水着を着た少女は特にずんずん進んでいた。と思うと乳ほどの水の中に立ち、もう一人の少女を招きながら、何か甲高かんだかい声をあげた。その顔は大きい海水帽のうちに遠目とおめにもきと笑っていた。
水母くらげかな?」
「水母かも知れない。」
 しかし彼等は前後したまま、さらに沖へ出て行くのだった。
 僕等は二人の少女の姿が海水帽ばかりになったのを見、やっと砂の上の腰を起した。それから余り話もせず、(腹も減っていたのに違いなかった。)宿の方へぶらぶら帰って行った。

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