「日本一の炭酸泉」
温泉街のPRパンフレットに大写しされた青いトマトは、細かな泡がびっしり。傍らに「日本一の炭酸泉で町おこし」の文字が踊っている。「これが長湯温泉です」。自信にあふれた口吻(こうふん)で首藤勝次氏が示す。彼は旅館の経営者であり、かつてはこの町の行政マンとして、埋もれていた長湯温泉を世に出した若きリーダーでもある。
大分県直入町(なおいりまち)。久住連山の東麓(ろく)、芹川が貫流する純農村地帯だ。大分からも豊後竹田からも延々バスに揺られなければたどり着けない。そんな村に湧(わ)く「日本一の炭酸泉」とは温度40度~50度、しかも1200ppmという高濃度の炭酸ガスを含む。
この数値は、発泡入浴剤の7倍にあたる。日本列島に湧く温泉は食塩泉や硫黄泉が多く、炭酸泉は非常に少ない。泉質を売り物にした戦略も、「それしかないから」だった。
ドイツの炭酸温泉保養地として知られるバードクロッチンゲンと提携を結び、人材、物産の交流を図ってきた。近年はかの地に葡萄(ぶどう)畑を確保し、直入町ブランドのドイツワインも製造。長湯の旅館で味わえるほか、土産として買える。
国民宿舎を含め17軒ある旅館・民宿は規模こそ小さいが、どこも徹底して「炭酸温泉の効能」をセールスポイントにしている。平成10年10月に日帰り入浴施設としてオープンした「御前湯」も人気で、昨年は13万8000人の入浴客を迎えた。「今年は14万を越えると予想しています」と担当者。
お陰で町にも活気が生まれてきている。
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