硫黄泉、多彩な効能
西暦788年、勝道上人により開湯されたといわれる日光最古の温泉地で、湯治場として長い間親しまれてきた。一角に残る石畳や、落ち着いた雰囲気に歴史がある。
湧出(ゆうしゅつ)量は毎分約1500リットルといわれる豊富な硫黄泉で、含まれる硫化水素がいかにも温泉というにおいを漂わす。この泉質は入浴により、皮膚の毛細血管や小動脈が著しく拡張し、さらに心臓、脳の血管にも及ぶ。
したがって硫黄泉浴は、全身の血液循環を良好にして、二酸化炭素泉(炭酸泉)浴と同様、微温浴でもよく温まり、代謝改善作用も著しいのでリウマチの湯として利用されてきた。このほか、皮膚の角質溶解作用があるので慢性の皮膚疾患(慢性湿疹(しっしん)、乾癬(かんせん)など)にそして、血糖値降下作用があるので糖尿病の湯治などが盛んであった。
白根山、温泉岳、3つ岳の山に囲まれて新緑、紅葉の頃(ころ)が美しい。標高1500メートルにある「湯ノ湖」、落差が45メートルある豪快な「湯滝」、高山植物の宝庫である湿原の「戦場ガ原」、「小田代ガ原」、「切込・刈込湖」などを結ぶ大自然のハイキングコースが4月下旬の春の訪れとともに開け、新緑から紅葉の11月下旬までが最適である。
大正13年私小説作家葛西善蔵が、秀作といわれるここ温泉地に滞在した「湖畔手記」を発表している。湯ノ湖畔の兎島にこの手記の中の一首を刻んだ歌碑が建てられている。
(植田理彦・医学博士) |