「紀の松島」眺めながら
ラクダ岩や鶴島、乙島をぬって、遊覧船が外海へ出ると、急に大きな波がうねる。湾内の穏やかな風光と打って変わって、水平線が大きく上下する。
吉野熊野国立公園の海岸線は、リアス式の美しい風光を展開し、勝浦湾内外に点在する大小の島々は「紀の松島」と呼ばれる多島の美を見せていた。
勝浦温泉は、そんな風景の中に湯宿が点在している。島全体が温泉宿であったり、外海に向かった大きな洞窟(どうくつ)風呂があったりして、湾内を連絡船で通う風情など、どことなくロマンチックな気分に浸れるのも魅力だ。
勝浦温泉が記録に表れてくるのは宝永4年(1707)ごろ。岩場の波打ち際にあった赤嶋温泉が同年10月4日の大地震により湯壺(つぼ)が崩壊してしまった。下って明和6年(1769)3月に、那智荘天満の小倉仁兵衛なる人が、薬師如来のお告げによって、海岸の湯を発見したという。
その後、文政年間、天保年間などに文人などの来訪多く、広く紹介されて多くの人々を迎え発展した。
湾内の中央に浮かぶ中之島には、湾内の風光を一望する露天風呂があるので、今回はそこに宿を求めた。桟橋からの船旅は5分ほどだが、勝浦湾に夕日が走る風景はひと刻の美であった。夕食後の露天風呂からは、岸辺に灯(あか)りが並ぶ、夜の風光が印象的で、さらに朝の湾内を忙しく行き交う船の動きも、活動的であった。
温泉は含食塩硫黄泉、50度。関節疾患、貧血症、糖尿病、婦人病、皮膚病、疲労回復などに効果がある。
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