人も自然も奥行き深い
箱根の山は天下の険、東海道53次の難所で知られた箱根も、今では東京からヒョイと日帰り可能。昨年末も、湯本温泉の冨士屋ホテルで1泊温泉付き忘年会を楽しんだばかり。宮ノ下温泉のほうの冨士屋ホテルは日本初のリゾートホテルで、チャップリンやジョン・レノンらがお泊まりになったとか。
箱根のお湯も人も自然も、実に巾(はば)が広く奥行きも深い。広大な土地に点在する温泉は、泉質も効能も微妙に違う。周辺の自然も違う。穏やかな芦ノ湖から、剥(む)き出しの岩肌に白煙があがり強い硫黄臭が鼻をつく大涌谷(おおわくだに)まで。箱根旧街道や時の止まったような箱根神社の静寂と、いくつもの近代的な美術館。フトコロの深さを感じる。
箱根温泉とは、箱根山一帯の温泉の総称だが、江戸時代は湯本、塔ノ沢、堂ヶ島、宮ノ下、底倉、木賀、芦之湯の箱根7湯だった。明治に小涌谷、強羅、仙石原など5湯が加わり12湯、さらに戦後、大平台、芦ノ湖、蛸川(たこがわ)など5湯が発掘されて17湯、最近は早雲山、大涌谷、湖尻が加わって箱根20湯だとか。こだわって小さく固まる時代に、この包容力がうれしい。
7湯以外は、みんな明治以降に生まれた湯である。宿の主人たちが道路整備までして作り上げた観光地は、頑固に変わらないものと新しいものを受け入れるバイタリティーが見事に溶け合っている感じ。元気をくれる箱根のお湯めぐりはまだまだとば口。来る度にそんな思いを深くして、ついまた足を運んでしまうのだ。
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