天皇
天皇は、日本国憲法で「日本および日本国民統合の象徴である」と規定されています。現在の明仁天皇は、紀元前660年に即位したとされる初代の神武天皇から数えて125代目の天皇に当たります。この間、天皇の役割は実権者であったり名目上の最高地位者であったりしました。1889年(明治22年)に公布された明治憲法(大日本帝国憲法)で、政治権力と軍事権力を持つ元首とされていた天皇は、第2次大戦の敗戦後に施行された日本国憲法により、その権力を失いました。以来、現在に至るまで、天皇は、国家的な儀礼としての国事行為のみを行い、国政に関する機能は持たないというシンボルとしての存在となっています。
皇室
天皇を中心とした一族のことを皇室、または皇族といいます。皇室には名字がなく、天皇から与えられた「宮」という称号を用います。例えば現皇太子は浩宮徳仁といい、海外ではプリンス・ヒロの愛称で親しまれています。日本国憲法の施行後は、戸籍法を適用されないこと、選挙権・被選挙権を持たないこと、養子をとることができないことなどを除いては、一般国民と同様の国法が適用されます。
皇室に関する公の事務は、国務の一部として総理府の外局である宮内庁が司っています。また、皇室に関する重要事項を審議するための皇室会議は、総理大臣ほかの政府関係者と皇族の要人で構成されています。
元号
日本では西暦で年を表す習慣も定着してきましたが、多くの場面ではまだ日本独自の年号を使用しています。この独自の年号とは、中国で皇帝が時をも支配するという思想から始まり、日本では645年に「大化」と号したのが最初です。天皇が制定権を持っていた時代は、天皇の即位や天変地異などによってしばしば元号が改められましたが、明治以降は一世一元になり、皇位が継承されるときにのみ改められることになっています。1989年に明仁天皇が皇位を継承したことによって、元号は「昭和」から「平成」へと変わりました。なお、過去の天皇を表すときにはこの元号を付けて「昭和天皇」などと呼ぶ習わしがあります。
国歌
日本の国歌は「君が代」です。「君」とは天皇のことを指し、歌詞の内容は「天皇の治世がいつまでも続きますように」という願いが込められています。
この歌は、もともと天皇が世の中を統治していた時代である10世紀初頭に編纂された『古今和歌集』にある和歌からとられています。そのため、天皇制が廃止された現代において、この歌を国民が国歌として歌うことに関してはさまざまな異論があります。しかし目下のところ、この歌は国歌として国家的祭典、国際的行事、学校や祝祭日などにおいて歌われています。国技である相撲でも、千秋楽の優勝者表彰のときには観客全員が起立して歌います。
国旗
法で定められてはいませんが、白地に赤い丸を描いた旗が、日本の国旗として使われています。「日本」とはもともと「太陽が昇る国」という意味であり、したがって赤い丸は日の出の太陽を象徴しています。英国旗を「ユニオン・ジャック」、米国旗を「星条旗」というように、日本の国旗は「日の丸」といいます。
この「日の丸」は旗以外に赤い丸単独でも用いられ、さまざまなシンボルとしても使われます。第2次大戦中には、日の丸は「特攻隊」やその他の悲劇のシンボルとしても使われたため、戦争中の不幸な記憶と結び付き、国旗としてふさわしくないと考える人もいます。
国花
日本人に最も愛好され、日本を象徴する花といえば桜です。日本人は、1週間ほどで散ってしまう桜から、美しさとともに無常感や物悲しさ、あるいは潔さを読みとります。
この花と日本人の叙情は昔から深く結び付いていて、平安時代(794~1185)以来、和歌にもよく詠まれています。昭和時代(1926~1989)初期から第2次大戦までの間は、この桜の散りぎわの潔さが軍国主義に利用されて、特攻隊の死が美化されたりしたのです。今ではその美しさが平和のシンボルとして、日本から海外に贈られ、アメリカのワシントンD.C.のポトマック河畔やベルリンの壁跡に、その薄桃色の花を春ごとに咲かせています。
菊
菊は中国が原産ですが、8世紀ごろ日本に伝来した後、日本人の好みに合わせてさまざまな改良が加えられ、今や春の桜と同様に日本を代表する秋の花となっています。そのため品種は非常に多く、花の色は白、黄、桃、紅など、また大きさも大菊・中菊・小菊などがあります。17世紀にはオランダ経由でヨーロッパに渡り、高い評価を受けました。香りがよく、気品の漂う菊は皇室の紋章ともなっており、また、死者や先祖を慰める墓参りにも菊は欠かせません。菊は日本人の持つ繊細な美的意識の象徴と見なされ、ルース・ベネディクトの日本研究の書『菊と刀』のタイトルともなっています。
国鳥
日本を代表する鳥はキジです。キジは日本固有の鳥で、古くから人々に親しまれており、1947年に国鳥に指定されました。人里離れた雑木林や草原に住み、雄は顔が赤く体全体が暗い緑色で尾が長く、雌は淡い褐色で黒い斑点があり、雄より小さく尾も短いという特徴があります。
秋から冬にかけて狩猟の対象とされ、古くから食肉用として珍重されてきました。婚礼の祝い物として用いられることも多くありました。
鳥の中でも最上とされ、雄と雌が互いを求めて鳴く声に哀愁があり、そのため、歌や俳句では妻子を恋うる心情の象徴とされています。
東京
日本の首都は東京です。昔は江戸といい、江戸時代の名前の由来ともなっています。1457年に武将・太田道潅が江戸に城を築き、その後1603年には徳川家康が江戸に幕府を開き、江戸時代が始まりました。それまでは一地方都市だった江戸はこの300年間に独自の文化を築き、幕府が崩壊する1867年までに人口100万の世界一の都市となっていました。現在では人口1,200万人、伝統とハイテクの混在する国際都市であり、ニューヨーク、ロンドンと並ぶ世界金融の中心でもあります。中心部には緑に囲まれた広大な敷地に天皇の住む皇居があり、その周囲に国会議事堂を初めとする政治関連施設、それにビジネス街が連なります。
富士山は、その美しさゆえに広く世界に知られている日本一高い山です。標高は3,776メートル、日本のほぼ中心部に位置し、史上たびたび噴火してきました。1707年以降は火山活動を休止していますが、地質学上は活火山です。
富士山は日本三霊山の1つで、古来信仰の対象として崇められてきました。特に江戸時代(1603~1867)には、信仰のための登山が盛んに行われています。
その偉大さと美しさはまた、日本の多くの芸術家を魅了し、優れた作品が残されています。浮世絵画家・葛飾北斎には「富嶽三十六景」という優れた作品があり、「赤富士」など世界に知られる名作もあります。
芸者
「フジヤマ、ゲイシャ」といえば、最近までは日本をよく知らない人々が神秘的な東洋の島国を表すときに使われるステレオタイプの表現でした。有名になった原因は、芸者のやさしい心遣いが西洋の男性を感激させたからでしょうか。しかし今では日本への無知を告白する表現と見なすべきです。芸者とは、祝宴の席に興を添えることを職業とする女性のことです。日本髪を結い、着物を着て旅館や料亭に出かけ、唄を歌い、三味線を弾き、日本舞踊を踊ります。娼婦を兼ねた時代もあったため性的なイメージが強いのですが、現在ではむしろ伝統的な芸を受け継ぐ、貴重な職業と見なされる傾向にあります。 |