◇目と足で自然を体感
秋田、青森両県にまたがるブナの原生林「白神山地」。屋久島(鹿児島県)とともに世界自然遺産に登録されて、もう12年になる。今年は新たに北海道の知床が自然遺産に登録されたことで、改めて脚光を浴びている感じだ。一度は訪ねてみたいと思っていた白神に秋田県側から入ってみた。【澤晴夫】
白神は約13万ヘクタールにも及ぶ山岳地帯。とてつもなく広大で奥深い。今回の旅は秋田側の白神の玄関口になる能代から、まずは「岳岱(だけたい)自然観察教育林」を目指した。岳岱は世界遺産の登録地域ではないが、入山が禁止されている秋田県側の核心地域と、ほぼ同じ生態系を持つと言われている。
ガイドしてくれたのは藤里町藤琴にある「白神山地 世界遺産センター(藤里館)」の自然アドバイザー、斎藤栄作美さん(55)だ。岳岱は登録前はほとんど訪れる人もなかった約12ヘクタールの森。ロープが張られ、一部に木材のチップを敷き詰めた遊歩道に戸惑う人も多いようだが、そうでもしないと森を守ることが出来ない。「ここは観光名所じゃない。自分の目と足で自然を体感するところなんです」。斎藤さんの話に、この場所は優しく歩くしかないのだと、つくづく思う。
推定樹齢から「400年ブナ」と呼ばれる巨木は白神の中で一番大きなものだと言われている。斎藤さんによると、白神は決して高い山地ではないが、急しゅんで、V字形の渓谷には大木が少ない。比較的平坦(へいたん)な岳岱の地形だからこその巨木らしい。
耳を澄ますと風の音が聞こえてきた。木漏れ日がいい。「もののけ姫」が出てきそうな、うっそうとした森にたたずんでいると、時が止まってしまったかのようだ。
森の中にはブナのほかミズナラ、イタヤカエデ、サワグルミといった木々もある。強風で倒れたのだろうか、巨木の下に太いブナの枝が横たわっていた。朽ちる枝にはさまざまなキノコが生え、昆虫たちが巣を作ることで木が分解され、やがて土に還っていく。
6月の下旬ごろ、遊歩道のわきに点在する小さな沼でクロサンショウウオやモリアオガエルの卵を見ることが出来る。新緑は雪の残る5月中旬から1カ月ほどかけ、下から上へと山を染める。秋は10月中旬が紅葉のピークになる。
能代へといったん戻った翌日、八森町の森林科学館「八森ぶなっこランド」に立ち寄り、二ツ森(標高1086メートル)へと向かった。反対運動で建設が中止された青秋林道の終点から山頂まで徒歩で40分ほどだという。
小岳(1042メートル)とともに遺産登録地の緩衝地帯にあり、山頂から核心地域のブナ林を一望することが出来る。原生林のほか、岩木山や鳥海山まで見えるらしいが、残念ながら今回は天候の具合で登山をあきらめざるを得なかった。
お世話になった能代市観光振興室の戎屋鉱希(えびすやこうき)室長は「またいらっしゃいってことですね」と慰めの言葉をかけてくれたが、今度はぜひ紅葉のシーズンに、白神を訪ねてみたいと思った。
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◇メモ
羽田から大館能代空港までは全日空で約1時間10分。空港から能代までリムジンバスで約1時間。貸し切りタクシー、ガイド、温泉入浴などがセットになり、二ツ森、岳岱自然観察教育林を1泊2日で巡る「あきた白神まるごとパック」(1万9800~3万2900円)もある。問い合わせは第一ツーリスト(電話0185・54・7711)。能代市観光振興室(電話0185・89・2179)。
毎日新聞 2005年9月8日 東京夕刊 |