さりげなさが魅力
磐梯吾妻スカイラインをドライブして、浄土平から福島駅に戻る途中で、山々に抱かれたように点在する土湯温泉と出会った。温泉街の賑(にぎ)わいや派手な看板などもなく、湯治場の面影を色濃く残している佇(たたず)まいにそそられて、予定変更そのまま逗留(とうりゅう)。きっと同じようにして土湯にはまった人が多いのではないかと思う。
静かさに包まれると、お湯の音が耳に心地いい。目に入るのは、四季折々に色合いを変える自然のみ。密(ひそ)かにかかえた不満や先行きへの不安が溶け出し、張った肩肘(かたひじ)がしだいに丸くなる気分。お湯は、ちょっと熱めのさっぱり系。さり気なさが、土湯のやさしさ。森の中の露天、総檜(ひのき)の露天、源泉そのままの露天、野趣あふれる露天……様々な露天風呂があり、日帰り専門の露天もある。
「シャワーのないこともあるんだって」「時間制限があったりもするらしいよ」
人間本位の快適さになれた人からの声も聞いたが、露天のハシゴをしているうちに、それもまた良しという気分になってくる。
土湯峠まで足をのばすと、道はボコボコ。実は近代化していて演出された秘湯ブランドとはひと味もふた味も違う文字通りの秘湯が、ひそやかにお湯をたたえている。
いつの間にか時の流れがゆるやかになり、思い切りくつろげるのが土湯の魅力。そういえば、鳴子と並んで有名な土湯のこけしは、温泉あがりのようなつややかなやわらかい木の肌に、至福の表情を浮かべている。
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