街角に多くの飲泉施設
上信越国立公園の一角、標高600メートルの山々に囲まれた温泉地。吾妻川の支流である四万川の上流沿いに、約3キロにわたって旅館が立ち並ぶ。30余の源泉から硫酸塩泉などの名湯が豊かに湧(わ)き出ている。温泉は下流から温泉口、山口、新湯、日向見の4地区からなり、万病に効くといわれ「四万」の名が伝わる。
昭和29年には、国民保養温泉地の第1号に指定されている。慢性の胃腸疾患に有効であることから、町角や旅館に飲泉場が設けられている。日本では数少ないヨーロッパ並みの飲泉施設の多い温泉地である。
共同浴場は、山口の「上之湯」、新湯の「河原の湯」、日向見の「御夢想の湯」があり、昔から地元住民や湯治客に使われていた。温泉口には近頃、日帰りの施設として「四万清流の湯」が開設された。
湯治客がお礼参りに通っていた(今ではウォーキング)町の奥にある素朴な日向見薬師堂は、室町末期建立の唐風建築で国の重要文化財に指定されている。
また、慶雲橋を渡ったところにある、元禄4年(1691年)からの老舗旅館には、大正ロマネスクといえる「元禄の湯」がある。1人しか入れない御影石の浴槽が、5つ整然と並ぶ。そして浴室から直接入れる温泉蒸気浴室がある。
現代湯治場にふさわしい、豊かな湯と緑に囲まれた、閑静で文化に富む温泉地である。
(植田 理彦(みちひこ)・医学博士) |