「より多くのアナログ設計者に我々の製品を使ってもらいたい。そのために決断した」(米Barcelona Design,Inc. CEOのAriel Sella氏)。アナログ回路の設計自動化ツールを提供してきた米Barcelona Design,Inc.が,製品戦略を抜本的に変更することを明らかにした。
Barcelona社はこれまで,PLLなどの特定のアナログ回路について,設計者が要求仕様を入力すると配置配線結果を出力する,IPコア的な色彩が強い製品を供給してきた。今後は,こうした特定用途のIPコア的な製品から,より汎用的に使えるアナログ回路設計用EDAツールへと製品化の軸足を移す。具体的には,設計者が入力した任意のアナログ回路(トポロジ)について,素子寸法の調整などを実行する,いわゆるアナログ回路の最適化ツールを2004年9月から特定顧客に対して供給を始める。配置配線の機能は備えないものの,任意のトポロジのアナログ回路を取り扱うことが可能になる。
これまで同社が提供してきた製品は,アナログ回路に関する高度な知識がない設計者でも利用できることなどを売り物にしていた。その半面,大きく2つの欠点があった。1つは,回路トポロジをBarcelona社が開発していたため,顧客が保有する回路トポロジを基に合成することができなかったこと。もう1つは,Barcelona社のリソースの問題から,合成ツールで対応可能な回路がPLLやA-D変換器など特定用途に限られていたことである。
Barcelona社が製品系列の一新に踏み切ったのは,こうした課題を解決するためである。Barcelona社は2004年3月にCEOが交代している。これに伴って,事業戦略の抜本的な見直しを図ったという。
アナログ回路の最適化ツールは,2004年4月に米Cadence Design Systems,Inc.が買収を発表した米Neolinear,Inc.のほか,2004年1月に米Synopsys,Inc.が買収を発表した米Analog Design Automation,Inc.などがすでに供給を始めている。
Barcelona社の最適化ツールは,これらの競合他社品に比べて,回路の最適化に要する時間が大幅に短いとする。Neolinear社などの最適化ツールは,回路トポロジや要求仕様を入力した後に,結果が要求仕様に合致するまで,何度もSPICEシミュレーションを走らせる。これに対し,Barcelona社のツールでは,回路トポロジを数式に置き換え,数学的にこれを解く。入力された回路トポロジを基に要求仕様や各素子の特性などを関数化し,これらの関数をすべて満たすように,素子の寸法を調整する。SPICEシミュレータを使う場合に比べて,ツールの計算量が減り,設計期間が減る。
Barcelona社は,台湾Taiwan Semiconductor Manufacturing Co.,Ltd.(TSMC社)の90nmプロセスで製造するPLL回路を対象に,SPICEシミュレータを利用した場合と,数式を使う場合について,回路最適化に要する時間を比較した。SPICEシミュレータを利用した場合,考慮するコーナー条件が4個と少ないにもかかわらず,10日以上の期間が必要になるという。これに対し,数式を利用した場合には,「49個のコーナー条件を考慮しても,わずか130分で最適化が終了する」とBarcelona社は主張する。
Barcelona社はこれまでの製品では,この数式化の手法をブラックボックス化していた。今後,アナログ最適化ツールの製品化とともに,数式化の手法を顧客に公開する。 |