国内の組み込みソフトウエア開発規模は約2兆円で,技術者は約15万人──。こうした組み込みソフトウエア産業の実態が明らかになった。経済産業省が業界の協力を得て組織した「組込みソフトウェア開発力強化推進委員会」は,2004年2月~3月に実施した国内および欧米の組み込みソフトウエア開発の実態調査の結果を発表した。これまで組み込みソフトウエアの実態に特化した調査はなく,初めてその実態が明らかになった。
組み込みシステム(ソフトウエアを組み込んだ製品)開発費の約40%を組み込みソフトウエアの開発費が占めるという調査結果から,組み込みソフトウエアの開発規模は約2兆円であると推定した。組み込みシステムの国内生産高が約50兆円であり,組み込みシステム全体の開発費はその10%の約5兆円という金額を基に算出している。
技術者数については,国内の組み込みシステム関連企業約8万9000社の合計従業員数約480万人に対して,調査から明らかになった組み込みソフトウエア技術者の人数分布を企業規模ごとに適用することで,国内の組み込みソフトウエア技術者が約15万人であると推定した。さらに,既存製品の組み込みソフトウエアのソース・コードの行数は平均で約49万5000行であり,新規に開発するソース・コードの行数は平均で約17万7000行であるという結果も得た。
開発を外部委託する企業が8割超える
組み込みソフトウエアの開発を「外部に委託している」と回答した企業は81.5%で,「外部に委託していない」とした企業(18.5%)を大きく上回った。
外部に委託する最も大きな理由としては,「社内ではリソースが不足しているため」(45.0%),「自社に技術がないため」(13.4%),「開発スケジュールを縮めるため」(11.3%)を挙げている(図1)。
組み込みソフトウエアに使うソフトウエア部品を購入する企業は6割程度ある。中でも,通信プロトコルのソフトウエア部品を購入する企業が全体の40%近くに上る(図2)。
工程間の手戻りが多発
組み込みソフトウエアの開発において,工程をまたがった手戻りが発生する頻度を見ると,20%未満とした企業が大半を占める。しかし「50%以上」(開発案件2件のうち少なくとも1回は手戻りが発生する)と回答した企業が約15%あった(図3)。今回の調査では欧米の企業約50社ずつにも同様の調査を実施しており,「50%以上」と回答した企業は米国で10%弱,欧州で2%弱だった。欧米に比べ,国内では手戻りの発生頻度が高いと回答した企業の割合が高い。
製品の出荷後に発生した品質問題のうち,ソフトウエアの不具合が原因である割合は,ハードウエアの不具合や製品仕様の不具合が原因である割合よりも高かった。製品出荷後の品質問題の原因としてソフトウエアの不具合が占める割合を「50%以上」と回答した企業が約16%だった(図4)。
組み込み技術者の能力を測る手段がない
技術者の能力を測る手段としてスキル(能力)の標準を持っているかを聞いたところ,「技術者一般のスキル標準がある」とした企業は半数近くあったが,「組み込みソフトウエア技術者のスキル標準がある」とした企業は20%弱,「組み込みシステム技術者のスキル標準がある」とした企業は15%弱にとどまった(図5)。技術者がどのような能力を,どの程度のレベルで持っているのかを把握できていない様子が分かる。
体系的な教育体制の整備もなかなか進んでいないようだ。組み込みソフトウエア技術者の獲得手段として最も多いのは「新卒採用」(72%)だが,新人向けの教育体制が「特にない」とした企業が26.7%もあった(図6)。「OJTプログラムがある」とした企業が30.6%を占め,通常の開発業務とは別の教育プログラムを用意している企業は少ない。
今回の調査は,経済産業省の商務情報政策局 情報政策ユニット 情報処理振興課のプロジェクトとして実施したものである。国内にある47の業界団体(延べ4637社が所属)に調査を依頼し,548社から有効回答を得た。また,米国58社,欧州57社の組み込みソフトウエア関連企業に対して,電話によるインタビュー調査を行った。 |