タロンガ動物園のシルバーバック、キバブは、ハウレッツ野生動物園の生まれ。猿類飼育で有名なオランダのアッペルドールン動物園で育った。 キバブに限らず、世界の動物園のゴリラたちは様々な所に旅をしている。ブリーディングといって、嫁入りしたり、婿入りしたりしている。子供ゴリラが大きくなって別の動物園で新しい家族を持っているのを見たり、親にそっくりな息子や娘、従兄弟などを見たりして、家族の歴史をたどることも、ゴリラを見る楽しみの一つだ。 ハウレッツからは、数々の二世、三世のゴリラたちが、世界へ旅だっている。上野動物園にいたビジュも、キバブと同じハウレッツ出身だ。彼がなぜ上野動物園で死なねばならなかったのか。キバブを見ながら、そのことを考えてしまった。 繁殖のためには多少の犠牲はつきもの、などと語った動物園関係者がいたが、それは間違っている。若く元気だったゴリラが、なぜ簡単に死んでしまったのか。それを「多少の犠牲」と片付けてしまうのはおかしい。 ビジュの死後、忘れ形見の子供が産まれ、話題になった。確かに、赤ちゃんゴリラはかわいい。だが、ゴリラは群れで、家族で生きる動物だ。かわいい赤ちゃんもゴリラとして生きていかないといけない。経験や体験によって本当のゴリラになっていく。父親が自信を持って群れを守り、母親ゴリラは母親同士で話し合い、子供たちはその愛の中ですくすく育つ。ゴリラの子供には、母親も父親も必要だ。野生動物が勝手に育つわけでない。 キバブを眺めながらそんなことを考え、何だか悲しくてしかたなかった。キバブのように、頼りになる父親になっただろうはずのビジュ。ハウレッツの子供時代からビジュを見続けてきた私にとって、彼を忘れることはできない。 |